小学生の先生
ゲームからログアウトすると昼過ぎだった。
午後からはちょっと用事があるので出かける。のだが、私は外に出ようとすると、一人の女性が私の家の前に困ったように立っている。
誰だろう? と思い、姿を見てみると若い。年齢で見るとアラサー手前くらいか?
「もしや弁護士っ……! ゲームでの悪行のせいで訴えられた……なわけないか。そんなんで訴訟起こすくらいならみんなやられてるっての。私はRMTした覚えはないしゲーム外で犯罪行為した記憶もないしな」
すると、意を決したのかチャイムを鳴らしていた。
「ごめんくださーい」
「はいはい。怪しい宗教の勧誘は間に合って……って、ああ、先生?」
「夢野さんの家だったんですか! なんか前見た家と違うなと思って」
「ああ、建て直したんですよ。で、なんかようすか? 竜胆先生」
竜胆 優紀。私たちの小学校の時の担任の先生だ。新任で24の時に赴任してきたらしく、私たちが小四の時の担任だから30ぐらいか?
懐かしい先生が来たもんだ。
「ああ、あの、今更気づいたんだけどこれ」
と、渡されたのは小学生の時になくしたと思っていたハンカチだった。
これなくしたときは絶望してたんだよな。これ母さんが持たせてくれた奴だったし軽く自己嫌悪してた。
どこで落としてたんだろうって思ってたけど……。
「私の昔のカバンに入ってたんだ。その、拾ったはいいけど返すの忘れてたみたいで。ごめんね、形見なんでしょそれ……」
「ああ、無事なら何よりですよ。それにわざとじゃないんですし恨みませんって。ああ、お茶飲んできます? 叔母さんは今いませんけど」
「じゃあ、ありがたくもらおうかな」
私は竜胆先生をリビングにあげ、お茶を出す。
「いやぁ、当時はひねくれてて誰の先生の施しもうけなかった夢野さんが優しくお茶を出してくれる日が来るとは……」
「……まぁ、それは否定しませんが。でも先生方だってみんな私を腫れもの扱いじゃなかったですか」
わかるのだ。対応の差が。
いじめというものはなかったし、いい雰囲気の学校だった。が、両親を早くも自殺で亡くした私とはあまり関わりたくなかったんだろうという気持ちが分かった。
だからこそこちらも敬遠していたのだ。
「休み時間もワークに向かっててさ。誰ともつるまなかった……あ、いや、阿久津さんとだけは話してたね」
「それはまあ、あいつがぐいぐい来るからで」
「今も関係続いてるの?」
「そりゃ、今となっては親友みたいなもんですから」
「青春だねぇ……。先生の青春とは大違いだ」
「先生の青春ってどんな風だったんですか?」
「先生は誰からもモテて……」
と、視線をずらして話している。嘘だ。
「嘘ですね」
「はい。その、聞いて後悔しないでくださいね」
「え、あ、はい」
「先生は……高校の時に遅刻しそうになって慌てて登校したらパジャマで……パジャマっこっていうあだ名がつけられるじゃないですか」
「ほう」
「で、その時中二病だったっていうこともあり戦国武将の真似事もしてたんですよ」
「…………」
「我こそは竜胆家53代目当主竜胆 優紀であるぞ! ひれ伏せ! 我を崇めよ! いずれ天下統一を成し遂げるのだ! って痛い発言をしてて戦国武将(笑)っていうあだ名もあって」
「……」
「あげくには公園で遊んでたらスカートが破けて同級生の男子にもろパンツを見られて……」
私が言うのもなんだが相当荒んでるっていうか、自ら荒れさせてるっていうか。青春が完全に黒歴史となっている。
聞いた私がばかだった。そっとしておくべきだった。心中お察しします……。
「戦国武将が好きだったってだけで日本史だけはほとんど満点だったっていうのだけが自慢かな……」
竜胆先生の目のハイライトが消えていた。聞いてすいませんでした。
「なんていうか、ごめんなさい」
「謝らないでえ! よけい惨めですから! って、あれ、このパッケージ」
と、竜胆先生がIUOのパッケージを拾った。
「ああ、それ今私がはまってるゲームですよ」
「これ私もやってますよ! アンパンって名前でやってます! よければ探してみてくださいね! で、夢野さんはなんていう名前でやってるんですか?」
「ああ、パンドラって名前で」
「あの魔王軍の! 魔王軍だったんですね。では、後日伺いますね」
うかがうんですか。
なんか嫌な予感がする。




