正月 後編
家に帰るや否や、全員寝てしまった。
私も暇なので眠り、翌朝。
「月乃、お年玉だぞ」
と、月乃の父さんが部屋に入ってきて月乃にお年玉を上げていた。
喜ぶ月乃を眺めている。お年玉ってそんな嬉しいもんなのかねえ。新年のお小遣いって感じだからそこまで嬉しくないんじゃない? いや、知らんけど。
すると、月乃の父さんがこちらにやってくる。
「眠ちゃん、白露ちゃん。少ないけどこれおじさんからお年玉」
と、袋を手渡される。
いいの?と思って月乃の父さんの顔を見るとにっこり笑っていた。
「こういう時って実はお年玉かと思ったらかかった金額を請求するってことがありそうだな」
「ひねくれてないで早く開けなさいよ。そんなことするわけないじゃない」
と、月乃が言ったので私は開けることにした。
すると、紙が一枚入っている。小切手のようだ。小切手……。金額は百万円。私は思わず吹き出してしまうのだった。
「これのどこが少ない金額なんだ……。百万なんて手にしたことないっての……」
「少なかった?」
「多すぎるんですよ……」
えっと、ええと。
いきなりこんな大金手渡されて困るんだけど。どう反応していいかわかんない。わかんないよ私。なんだろう、この人お金の価値観がずれてる? やっぱり金持ちの金銭感覚おかしいのかな。
「あと月乃。苑木と吽神家が挨拶に来てるよ」
「あら、わかったわ。パン子と白露も挨拶行く?」
「いくかな。どちらも友人ではあるし」
「知り合いなのか?」
「まあ、以前知り合いました」
私たちは月乃と一緒に応接間にいったのだった。
「待たせたわね」
「待ってないぞ。ああ、明けましておめでとう」
「あけましておめでとうございます。月乃さん」
優雅に紅茶を啜って話していた二人。
月乃が部屋に入ると姿勢を正している様子が見えた。私と白露はひょこっと後ろから顔を出すと苑木と吽神の表情がちょっと明るくなった。
それを見逃すわけがない月乃。
「あら、私だけじゃ嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃない!」
「そうじゃないですよ!」
「ま、別にいいのだけれど」
月乃が上座に座る。
立場的には月乃が上か。私と白露は座らず、ただドア付近で突っ立っていた。
「なにしてるの? 座りなさいよ」
「いや、立場的に私が一番下だから上座に座るのはちょっと」
「立っているほうがいい。ただでさえ今日は寝坊してトレーニングをし忘れた」
「わかったわよ……」
さすがに敬意がないわけじゃない。
一番下の立場の私が座ったら温厚な二人でさえちょっと嫌なんじゃないかと思った。
「今年は負けないからな、夢野」
「宣戦布告?」
「ああ。次の全国模試で俺が負けたらなにか一つ好きなもの買ってやる」
といってきた。
「私が負けたら?」
「別にいい。してもらうこともないだろうしな」
ええ、それじゃつまんない。
私はにっこりと笑って案を出すことにした。
「じゃ、私が負けたら苑木君が厄介としてる高津を潰す……というのはどう?」
というと、吽神さんとと苑木くんの表情が変わった。
できるのか?といわんばかりの顔だった。
「そんなことできるんですか?」
「できるさ。阿久津家、苑木家、吽神家の後ろ盾があれば」
「パン子が潰すつもりで挑むと基本つぶれるから信用していいわよ」
そういうと、苑木くんは手を差し出す。
「じゃ、その条件で勝負だ」
「望むところ」
正月にそういう約束をしてしまったのだった。




