罰ゲーム執行
私たちはイタリア料理店に来ていた。
隣の隣のクラスの榎本春樹……。前に勝負を挑んできたやつである。正直、帰って早くゲームやりたかったのだが、こいつが罰ゲームをやるから付き合えと言うので仕方なく。
負けたほうの罰ゲーム。それは激辛料理を食べるということだった。
「お待たせいたしました。ブートジョロキアをふんだんに使ったプッタネスカでございます」
目の前にものすごく赤いスパゲッティが置かれる。
榎本くんとその友人は思わず「うわぁ」という声を上げていた。ちなみに友人の城崎くんは普通にカルボナーラを頼んでいた。
私は同じプッタネスカを頼んでいたので、スパゲッティの麺をフォークでくるくる巻いて口に運ぶ。
「食べないの?」
「た、食べるぞ!」
榎本くんはフォークでくるくると巻き口に運ぶ。
その瞬間、汗がだらだらと吹き出していた。口から炎が出そうな勢いで悲鳴を上げていた。
「か、かか、辛えええええ! み、水!」
水をがぶ飲みし、襟で口を拭っている。
「残すなよ」
「あ、ああ、あんたはなんでそんな平然と食えるんだ!」
「ん? 普通に辛いの好きだからね」
榎本くんはそう言われるとぐぬぬと黙ってしまい、またスパゲッティを見ていた。
城崎くんは我関せずって言わんばかりにカルボナーラを堪能している。おい、あんたの友人めちゃくちゃ苦しんでるんだぞ。もうちょっと応援してやれよ。
「お前が無茶な勝負を仕掛けるからそうなったんだぞ」
「ぐぬぬ……。万年二位って悔しいだろ! だから次こそはと思ったんだ……」
「私に勝つには101点全部取らなくちゃね」
「五百点満点だろうが!」
「なら無理だね私に勝つの」
私はスパゲッティを早くも完食した。
ちょっと暑い。冬だというのに体がものすごく発熱している。ちょっと汗ばんできたな。私は制服のシャツをパタパタとさせる。
「お、おい! し、下着が透けて……!」
「ああ、汗で透けるようになった? ってかみたんだ。エッチだねえ」
「う、うう、うるせえ!」
私はとりあえずまたブレザーを羽織る。
「手が止まってますよ」
「…………」
「あれれ、あんだけ自信満々で負けておいて罰ゲームすらこなせないんですか? 男としてダサくない?」
「う、うおおおおお! こんな激辛が何だってんだ! 俺は食べれる!」
と、スパゲッティを口に全部含んでいた。
目からは涙が出ており、鼻水もたれている。みったくない姿になっているし、普通の女子が見たら敬遠されそうな顔をしていた。
隣の城崎くんもうわぁという顔をしている。
私はちょっと笑っていた。
「ほ、ほうはっ! げほっ! た、食べ切ってやったぜ……!」
涙目で皿を掲げる彼。
意外と精神力は強いな……。途中でギブアップすると思ってたのに。
「優斗。水くれ……」
「はぁ……」
コップに水を注いで渡す城崎くん。
私はちょっと拍手を送ったのだった。
「よくできましたねー。偉い偉い」
「こ、子ども扱いすんじゃねえ!」
撫でてあげると手を振りほどかれた。これはいい玩具になる。退屈しないね。たまに揶揄って遊ぼうかなっていう悪魔みたいなこともちょっと考えた。
「ま、私帰ってゲームやるから。じゃねー」
「げふっ……」
私はそのまま店を出た。
けけ、金払ってません。だって忘れてきたんだもん。家に。これは仕方ない。わりとマジで家に忘れたの財布。




