エレメルの秘め事
広瀬先生が魔王城にやってきた。
謁見の間でそれはもう仲良く談笑している。幼馴染の子も一緒にやっているらしく幼馴染の人と来ている。
この談笑の場。一人だけ場違いなやつがいる。
もうちょっと泳がせようとは思っていたけど……。邪魔だ。
「エレメル様。魔王様のこと聞きにいかないんで? 報告書作成に便利だと思いますけど」
「……えっ」
驚いたような顔をして私を見てくる。
なぜバレた、というような目だ。私たちの様子にワグマが気付いたのか「パンドラ、どうした?」と声をかけてくる。
私はワグマに言ってあげることにした。
「エレメルが人間国に報告するために魔王様のこと知りたいんだって」
「なななっ……!」
「は、はあ? な、何言ってるの?」
ワグマもどうやら混乱している。
余計な情にほだされる前にやったほうがいいな。今やって正解だったかも。
「いやー、あの王子の差し金だろうけど人間国に魔王領の弱点を教えようとしてるみたいでさ。それ教えてもらえる?」
「それはさすがに無理だろう」
ビャクロが笑っていた。こいつうすうす気づいてたな?
「……いつから」
「いつから気づいてたか? 最初から」
私が怪しまないはずがないでしょ。
エレメルがこういうということは認めたということだ。やはり人間国のスパイとしてやってきていた。王子に言われてだろうな。
まあ、言い分を聞いてみなくちゃわからない。
「最初から気づいてたのになんで今……!」
「うーん。事情を探ってただけなんだけど。あと、君の婚約破棄には疑問点が多すぎるから」
「疑問点?」
「え、何が起きてるの?」
「ミキ……。多分この子たちしか知らないよ」
エレメルは今にも泣きそうな顔をしている。
ウソ泣き……というわけではない。何か理由があるはずなんだ。それも、あの王子がクロと決定できるような理由が。
「まず初めに。あの王子と婚約破棄したというけど、王子の一言だけで婚約破棄ができるのか」
「あー、それはそうね……」
「どういうことだ?」
「王子が婚約してるってことは国が関わる……政略結婚だ。政略結婚を本人たちで解消できるはずがない。国王の許可が基本的に必要になる。それがいらないとなると……よほど重罪を犯しているかだろうね」
まずこれが第一。
そう簡単に婚約破棄できるはずもない。
「第二に、王子が魔王領を勧めたこと」
「それはもう怪しいの一点張りよね」
「そう。隔離するんなら自分の領地に引きこもらせることも可能だったはずだ。むしろ、魔王領なんていう危ないところ、勧めたりしない」
「……」
「多分、王子は私たちに公爵家令嬢を殺させようとするまでが描いていたストーリーだと思うけど」
「なっ……」
それは聞いていなかったのか。
私たちは街を壊滅させた張本人だ。人を殺すのは簡単だろうと思れているだろう。邪魔な公爵家令嬢を殺してほしかった。そしてそれを大義名分にして戦争を仕掛けるつもりだったんだろうな。
彼女といえど仮にも王子の婚約相手だった貴族を殺しやがってと難癖付けられたんだろうな。
「たぶん、君はこういわれたんでしょ? ”魔王様の元にスパイに行ったら許してやる……”と」
「は、はい……」
「やっぱりな。でも、これもおかしい」
「どこが?」
「スパイの訓練を受けてないやつには普通行かせないでしょ。ど素人だからすぐにぼろを出す。今こうして暴かれてるみたいにね?」
本当に魔王領を調べたいのなら、プロのスパイを送るはずなのだ。
殺させようとさせている。見え見えの罠に引っかかる私じゃない。
「だから君が王子を信じていても、王子は絶対に迎えに来ないよ。だって王子は君を捨て駒にしたんだから」
「そ、そんなことっ……! 彼は国を変えると何度も……!」
「それ言いだしたの、街が壊滅した後でしょ?」
「そ、そうですけど……」
「多分不満が国民から出てるんだろうね。街の一つすら守れないんだなって。その評価を覆したいだけだよ。国を変えるだなんて前向きな言葉言ってるけど本当は自分のためだって」
「そんなっ……!」
彼女は、泣き崩れた。
「ねえ、何が起きてるのかな」
「さあ? まあ、よくないことが起きてるんじゃないの?」
……広瀬先生放置したままだった。
誰も王子がいい人だなんて言って…た?
パンドラがなぜ気づいたか。それは基本的に人を信じないからですね。




