高級すし店のお寿司を食べよう ③
落合さんは何度も月乃に謝っていた。
「もういいわよ。ほら、あなたも食べなさい。私が奢ってあげるわ」
「ひゅー! 気前いい!」
「そう? まあ美味しいものは知ってもらいたいもの。こういう味があるんだっていうことも知ってもらいたいし。ほら、遠慮しなくていいわ。勘定は私が持つから」
「す、すいません」
月乃の隣に移動した落合さんの娘はどれでもいーのーと聞いていた。いいよと優しい笑顔で答える月乃。私はちょっと心でほくそえんでいた。あんな笑顔みせるなんて普段とは大違いだよ。普段どこが令嬢なんだよって言うくらい粗暴なくせに。
と思っていると箸が飛んでくる。
「パン子? 今なんか思わなかった?」
「い、いえ何も思ってません……」
「月乃さん。箸をそんな風に使わないようにね」
「はーい」
私は頼んでいたウニを手に取る。
「ウニってとれたてが一番うまいっていうよね」
「そうよ。大将とこはいつもとれたてを提供するわ」
「もちろんさ。俺は素材にはこだわるんだ」
いただきます。
ウニを口に運ぶと、まあ、うまい。ウニって感じがする。ウニだねウニ。他のネタも食べてみる。ヒカリモノうめーとかそういった感想しか湧いてこなかった。旨いものを食べると基本語彙力無くすんだよな。
「落合さんもなんか食べたらどうですか? 月乃は気前よく払いますよ? どうせ十数万ははした金なんですし」
「パン子がいうなっていうんだけど本当にそうよ。十万超えても私は痛くないわ」
「改めて月乃さんのすごさがわかるね」
私はサーモンを口に含む。
「じゃ、じゃあ中トロください……」
「あいよ」
「つ、月乃さん。ジュースおつぎいたしましょうか」
「接待はいいわよ。ここ会社じゃないんだし気楽に気楽に。別にため口でもいいわ。私のほうが年下ですし、お嬢様ってことを知っても生意気な口聞いてくるやつあそこにいるので」
と、私を指さしてくる。
私はコホンと咳払いをした。
「今までの無礼すいませんでした阿久津様。どうかお許しくださいませ」
「……あんたがそういうこというと気色悪いわ。普通にしなさい」
「生意気って言うから口調直したんじゃないか」
「今更遅いのよ」
「な、仲いいんですね」
「ま、親友だし」
「よく恥ずかしげもなく言えるわね。まあ、親友といっても過言じゃないわ」
友達第一号のほうがよかったか?
「おともだちー」
「ホント仲いいね……」
「ほら、落合さんも。あの上司たちはいなくなるし清々したことじゃない。あなたの頑張りは父さんにも届いているから自信を持ちなさい!」
「は、はいい!」
「よし、それでいいわ。で、奥さんはどうしたの?」
「えっと、妻は同窓会の旅行で鹿児島にいっておられまして」
「ほー、鹿児島ね。桜島はよく見に行くわ」
観光名所かそれ。
でも鹿児島か。いったことはないな。私が行ったことあるのはせいぜい隣の県とかぐらいだ。九州沖縄、四国、中国、近畿、中部、東北、北海道は行ったことがない。わりとマジで。
「そ、その……俺が一緒ですいません……」
「ほんとなんでも謝るわね……。気が弱いわぁ」
「私と同じだね」
「…………」
私がふざけてそう言ったんだが、白い目で見られた。
「気が弱かったら街を一つ破壊したり、騎士団を滅茶苦茶にしたり、王を乗っ取ってもともとの王を処刑したり、裏切り者を演じて他国を陽動し、その隙に国の帝都を落とす、ということをしたりするかしら??」
「そういうまじめなツッコミやめてくんない?」
ネタじゃん。冗談じゃん。
っていうか広瀬先生も苦笑いしてないで何か言ってくださいよ。




