王子の決意
俺は自分の父の前で傅いていた。
「アデュラン。言い分はあるか?」
「……彼女はこの国を蝕む悪魔でした」
「証拠はあるのか?」
「いえ」
断罪の場だった。
俺が断罪されている。よくて死刑、悪くて死刑だろう。側室を殺したっていうことは王の臣下に手を下したということで重罪となっている。
たとえ王子である俺であったとしても許されるべき行為ではない。
「そうか。アデュラン。見損なった。死で償うがよい」
「…………それはできぬ相談です」
「なに?」
「私は決して悪事としてやったわけではないからです。死で償う意味が分かりません」
「ほう……?」
父親がぴきぴきと青筋が浮かんでいるのがわかる。
俺だって死にたくはない。だからこそ、反論してみる。だがしかし、証拠もなければ証言もないのでどちらにせよ死刑ではあるだろう。
どうせ死ぬならば名誉を保ったままにしてほしいのだ。
だからこそ、償うということができない。
「私は悪いことをしたわけではない。だから償わない」
「もういい。そいつを連行しろ! 身分を剥奪の上、王城の地下の牢屋に収監するのだ!」
俺は兵士につれられて、連行されていく。
悲しそうな目で兄上は俺を見ていた。言い出そうにも言い出せないのか拳を強く握りしめている。兄上。そこまで耐える必要はないさ。少なくとも、俺は兄上の母を殺した。兄上には恨まれて当然だと思っているさ。
だから、良い王になってくれ。
俺が牢屋に入り、ただただひたすら石の壁を見ていた。
娯楽も何もない石の部屋では特にすることもなかった。相部屋する囚人がいるわけでもない。元王子ということで王城の地下にある牢屋だから相部屋するやつがいるはずもない。
「アデュラン様。面会したいというお方が」
「別に許可なんていらないよ。犯罪者に人権はない、でしょ?」
「そういうわけは……」
「どちらにせよ死刑になるんだ。ここで暗殺されても別にいいさ」
もうあきらめの境地だった。
ここで魔王軍に逃げ込むのもなんか違う気がするのだ。自分がやったことは自分で後始末をする。それが当たり前のことだからだ。
パンドラは逃げ込んで来いとは言っていた。が、俺は逃げ込むつもりはない。
「アデュラン」
「兄上?」
牢屋越しに兄上の姿が見える。
ひどくやつれていた。
「その、悪かった。あの場で庇うことが出来なくて」
「…………」
「俺の母親はたしかに悪魔だった。俺も悪魔の翼を出すことができたからだ」
「……まじかよ」
十分な証拠になるだろう。そう思ったけれども。
「それを陛下に見せるのか?」
「……」
「見せたくないんだろう。ならばいいさ。このまま死刑にでもなんでもなる」
「…………ッ!」
兄上は牢を掴む。
「馬鹿が! 私がアデュランを見捨てるわけがないだろう! 死刑には絶対させない! 待っていろ。生きたまま牢を出させてやる」
「……兄上」
「それに、私の母上がそんなことをしていたってことは思いもしなかった。母上は優しかった。が、それも見せかけかもしれない」
「いや、見せかけでもないのかもしれないな」
「……なぜ?」
「俺に精神操作をしたってことは、俺が死ねば兄上が王になれるってことだろう? 自分の息子が立派になるためには手段をいとわないってだけじゃないだろうか」
「…………」
「もちろん、したことは許せることではないけれどな」
だがしかし、あのユリベル氏のすべてを否定するっていうわけにもいかないのだ。
「……まあ、兄上がここから出してくれるっていうんなら信じるよ。いつまでも待っている。早く王になってくれ。ここはつまらない」
「わかった。王を早く継ぐ」
兄上は決意を固めて、牢を後にした。
死ぬわけにはいかなくなったな……。




