さあ、私と一緒に踊りましょう ⑤
私にはアデュランの立場がどうなるかはわからない。
側室を殺したのをみるに魔王軍としても危ないかもしれないな。友好関係を築いてきたつもりだったが、この出来事で破壊されたかもしれない。
まあ、それがあるべき姿かもしれないけどな。魔王軍としての。
どこの国とも相容れず敵対する。それが本来のあるべき姿ってもんだと思うのだ。
「アデュランは大丈夫だろうか」
「さあ?」
「さあって薄情すぎないか?」
「私にも未来が分からないからね。そもそも王にあったことないし。まあ、側室を理由も話さず殺したんだし、十中八九丸く収まるわけがない」
だからこそ今度はアデュランを救うために動く必要があるのだ。
そのくらい手伝うって言ったんだから私がやるさ。といっても、手伝うことがもうあるかは知らないが。
「悪魔だったと証明できる物的証拠があればまた別なんだけど、そんなのないからなー」
「私たちが証言するだけじゃダメなのか? 悪魔の翼を生やしたところを令嬢たちは見ているだろう。話してはもらえないのか?」
「そこが問題なんだよな。魅了魔法って直前直後の記憶がないらしい。だからこそ厄介なんだよな」
あの場で魅了魔法がかかってない奴がいただろうか。
私ぐらいだと思うのだ。かかってないの。
「それに私たちじゃどうも信ぴょう性がない」
あっちが私たちの人となりがわからないがためにそこで躓く。
だからこそアデュランが無罪、となるわけがない。側室一人を黙って殺してしまったからな。
「じゃあどうするんだ?」
「……ま、本当にやばくなったら魔王軍に逃げ込んで来いとは言ってる。あいつも馬鹿じゃないんだから上手くやるだろうさ」
「手伝うのを放棄するのか? 手伝うっていったからには最後まで付き合うべきじゃないだろうか」
「放棄するわけじゃないよ。ただできることがないってこと。これ以上は王子たちがやるべきことだからね。私たちにできることは限られてるんだって」
「そうか……。なんかもどかしい気分だな」
そう。
私とビャクロはあまりにもすっきりしない気持ちを覚えていた。レオンの気持ちを考えると喜べるわけでもないし、かといって倒して後悔したか、といえばそうでもない。
どうも後味が悪いのだ。
「パンドラももどかしいんだな」
「そりゃ、他人の親に手を出したわけだからね」
「そうだもんな。パンドラは親に対して人一倍執着があるもんな」
そうなんだよ。
親を亡くしているからこそ、親を亡くす気持ちは計り知れるし、戸惑ってしまう。普段は冷酷で冷徹な私でも基本知ってる人の親には手を出したくないし、幸せな親子には手を出したくない。
もちろん、誰かの親が子供を虐待していて……とか理由があるなら手を出せるとは思うけど。あの母親も曲りなりには愛があったはずなのだ。レオンに対する。
「理由があればいいんだけど、子に対する愛があるのがわかっちゃったからね」
「愛?」
「アデュランだけに精神操作をした理由は、アデュランが死ねばレオンが王になれる。子供には立派になってもらいたいっていうのが本音なんでしょ」
「自分の子を王にしたかったっていうのではないのか?」
「意外と考えるなビャクロ」
そういう線もありえる。
「いや、レオンのあの取り乱しようは違うね。たしかに愛があったんだと思う。レオンだって親の気持ちが分からないほど愚鈍ではないだろうし、愛情を受けて育ってきたからこそあんなに恨みを持ったんだ」
「そうか……」
「……だからこそ愛があったからこそ気分がよくないんだけどね」
親子関係に手を出すつもりはなかったんだけどなぁ。




