さあ、私と一緒に踊りましょう ④
レオンは木刀を手にし、アデュランに切りかかってきた。
「アデュラン! 貴様あああああ!」
「兄上!? なぜここに!?」
木刀を木刀で受け止めるアデュラン。
「お前は! 俺の母上を殺した!」
「これには訳があるんです兄上!」
「知るものか!」
レオンは頭に血が上っていた。
いつもみたいな冷静な態度ではなく、聞く耳を持たず、ただただひたすら母を追悼するかのようにアデュランを倒そうと躍起になっている。その気持ちは私にはわからなくもない。
アデュランは攻撃もできず、ただただひたすら受けている。連撃にどんどん押されて行っている。
「兄上! あなたの母親のせいで、死霊姫は生まれ、この俺も死にかけているんです!」
「だまれ! その証拠がどこにある!」
「証拠は……物的証拠はないです。が、たしかに彼女は……!」
「証拠もないのに母上を殺したのか!」
泣いていた。
鋭い連撃が止んだと思っていたら目から涙がこぼれている。私はひとまず、レオンを押さえつけることにした。この責任の一端は私にもある。
「ビャクロ。一旦レオンを押さえつけて」
「わかった」
「私は御令嬢たちをうまくやっとくからさ。場所を変えようか」
令嬢たちには適当にでっちあげて説明をし、レオンとアデュランがいる部屋に向かう。
「…………」
「……その、兄上には先に言っておくべきだったとはわかってるんだ」
私が部屋に入るとアデュランが何か話していた。
「でも、自分の母を殺されるって知ったとなると兄上はきっと絶望して絶対に止める。だからこそ言い出せなかった」
しかしレオンは黙ったままだった。
「あの公爵家の屋敷に住み着いた死霊姫がなぜ生まれたか、兄上はご存じだろうか」
「いや、知らん」
「あれは兄上の母、ユリベル氏が生み出したモンスターです。当時の王の学生時代、彼女は王に精神操作の魔法をかけ、わざと殴る、蹴るなどの暴行をさせ、婚約破棄にまで追い込みました。それが強い恨みとなって死霊姫となってしまったのです。原因は彼女にあるのです」
そこまでいうと、レオンは頭を抱えだす。
受け止められないのだろう。自分の母がそんなことをしていたなんてことを。
「それに、魔王軍に悪魔がいるでしょう? その悪魔に探してもらったところ、あのユリベル氏も悪魔だと判明しました」
「俺はッ……!」
「兄上には言いたくありませんでしたが、兄上は悪魔が生んだ子となるのです」
「……悪魔が生んだ」
複雑だろうな。受け止められないだろうな。
母が死んだばかりか、自分が悪魔の子という残酷な真実をつきつけられるなんて。アデュランも酷なことをするが、こればかりはどうにも躱しようがなかったともいえる。
真実を話したうえでどうしてもわかってしまう真実というものだからだ。
「そのユリベル氏は今度は俺に精神操作をかけ魔王軍に恨みを抱くようにし、仕向けたのです。魔王がいい御仁でなければ今ごろ私は死んでいたでしょう」
「…………」
「兄上の気持ちは察することができません。俺が感じた以上の絶望を味わってることだと思います。ですが……理由があった、ただそれだけ覚えていただければ」
「……そうか。もういい。私は部屋に戻る」
ふらふらとした足つきで部屋を出ていったのだった。
「さて、俺の立場がどうなるかなー。国王にこれを知られたら廃嫡されるだろうな。死刑にでもなりそうだ」
「皮肉だね。自分の国の為に働いたのに殺されるって」
「如何せん状況が悪すぎた。目撃者が多い」
「そう。後悔は?」
「していない。後悔なんぞするものか」
アデュランは笑っていた。
「なら、死刑になる前に私たちのところに逃げてきなよ。助けてあげる」
「そうだな。死にたくもないからお世話になろう」
「ま、それか今国王の座を奪うかしてだな」
「そっちのほうが無理難題ではないか?」
「簡単簡単。今の王のやってもないことをでっちあげて糾弾してそれを真実だと思い込ませればいいさ」
「ははは。まあ、それは却下だな。嘘偽りで塗りたくって玉座についたらそれこそ後悔しそうだ」
「そう? いい案だと思ったんだけどなー」
ま、アデュランがどうなるかは未来を視ないとわからないけどね。
こういうどうあがいても誰かはハッピーエンドにならないっていうのは当たり前ですよね。
誰かが幸せになったのなら、その裏で誰かが不幸になってるっていう自分の勝手な思い込みですが。




