心臓に悪い
やってまいりましたまた王城。
もちろん夜であるため正攻法では入ることは不可能だ。だからこそこうして忍び込んでいる。王子の部屋は前にきっちり把握してあるのでそこを訪れた。
王子はベッドに横になり、すやすや眠っている。
「イイ寝顔してるわねー。どことなくあいつに似てるから腹立つわぁ」
「アデュラン気の毒」
「じゃ、起こすわね」
アップルは耳元にゆっくり近づいていって……。
「わっ!」
と大きな声を張り上げた。
「うわああああああ!?」
「ちょ、叫ばせるなって」
すると、廊下を勢いよく走ってくる音が聞こえる。
そして、扉が開かれたのだった。私はアップルを引っ張り、ベッドの下に隠れる。
「…………」
「アデュラン様どうかなさいました!? 暗殺者でも!?」
「い、いや。悪夢を見ただけだ。とてもひどい悪夢だった」
「さ、さようですか。何事もなくてよかったです」
護衛の人は扉を閉める。
そうだよな。普通叫び声あげたらくるよ王子だもん。そりゃくるよ。
「……で、なぜパンドラはまた忍び込んでいるんだ」
「あ、あはは。今回は私が忍び込もうとしたわけじゃなくてね」
私の横にアップルが並ぶ。
すると、アデュランの顔が険しくなった。
「死霊姫!? なぜこのようなっ……! パンドラ下がれ! こいつはっ……!」
「ちょっと王子様ー。それはなくないかしら。危害を加えるつもりはないし、私はこいつの味方よ」
「…は?」
「要件というのはね、私がこの子の屋敷に住んでいいかって聞きに来たんだよ。さすがにあれも国の所有物でしょ? 一応義理は通しておこうかなって」
「理解はした。が、なぜこの時間帯なのだ!? 明日の昼でもいいだろう!?」
「私もそうしようかと思ったんだけど……」
私はちらっとアップルを見る。
「ほら、王子様の驚愕した顔が見たいじゃない? わたしもついていけるのが夜しかないのよ。ね?」
「ね、じゃない。寝込みを襲うな!」
「反省はしているわ。後悔はない。幽霊として人を驚かすのは役目よ。それに、私は王族嫌いなのよね。今攻撃してあげないだけでもありがたく思いなさい」
「寝込みを襲われ感謝するってどういうことだ!?」
「アデュランもそう声を上げてつっこまないの。私あそこに住んでいいかい?」
「構わんが……。もう金輪際夜に忍び込むのは控えてくれ。心臓に悪い」
「わかったよ。アップルもいい?」
「仕方ないわね。いいわよ」
なぜ妥協したって感じなのだアップルさんよ。
王族に恨みがあるのはわかるけど、そこまで横暴に……。アデュランだからいいのか?
「逆に言うと昼はいいってことよね」
「昼屋敷から出られないのに?」
「別にそんなことはないわよ。眩しすぎるから出たくないってだけでその気になれば出れるわ」
なんて俺ルール感が強い姫だろう。




