ゴーストプリンセスは静かに暮らしたい
ふわふわ浮かぶアップルを横目に、夜の図書館で魔物図鑑を開いた。
死霊姫のページを見つけ、ランクを確認すると、A+だった。なかなかの高ランクじゃんと思いながらも、説明文を読んでみる。
「死霊姫は屋敷に憑りつくアンデッドモンスターである。死霊姫となる女性は生前に強い恨みを抱き、その恨みが力となって人間を攻撃する……。屋敷でもないのに出くわしてしまうのはラッキーである。だがしかし、夜しか目撃報告はなく、夜でしか屋敷の外にはうろつけない」
「……アップル、なんか強い恨みがあったの?」
「んー、どうだったかしら。たしかに恨みはあったかもしれないわね。まあ、その相手はもう死んでいるし恨みを晴らそうにもできないっていうもどかしさはあるけれど」
「他人を攻撃して恨みを晴らすとか考えないの?」
「それもいいけど、なんか違うじゃない? すっきりしないっていうか、やっぱり恨みを抱いた人をぶん殴らなきゃ気が済まないっていうか」
わかる気がする。
たしかに元凶となった人をぶん殴らなきゃ気が済まない。私だってそうできたらよかったんだけどな。あっちにも人権はあるからーとかなんとかで復讐はできないことを悟った。
私の話は今はどうだっていいか。
「まあいいわよ。なってしまったものは仕方ないし今の生活も楽しんでたもの。寂しいこと以外は」
「どうみてもあれ貴族の屋敷だもんなー」
「ええ。私が生前住んでいた家よ。死霊姫となって私のお父様を殺してから他が出ていったの。死霊姫となった私が恐ろしかったんでしょうね」
「住んでいたってことはもともと貴族?」
「そうよ? 公爵家の長女だったの。王子との婚約者でもあったわ。でも、王子に裏切られたのがきっかけで王子に強い恨みを抱いて……。それでなったって感じかしら。王子とはいっても今の王の父上の方だけれどね」
「結構昔だな」
国王の父ということはアデュランたちの祖父に当たる人か。
「私が父を殺して以来、この屋敷はゴーストハウスって呼ばれるようになってね。一時期は司教などが入ってきたのだけれど成仏とかしたくないから全力で殺したわ」
「結局殺したんだ」
「殺すしかないもの。また来るかもしれないって思うと不安じゃない?」
まあ、たしかにな。
自分を殺しにきたのにタダで帰すわけがないのだ。私もそうする。もし私たちを殺そうとしてきたんなら私たちだって相手を殺す。
当然のことだ。
「そのこともあったから当然屋敷の取り壊しもなくなったのよね。私がいるから」
「アップルがいるから手出しできないと……」
「そうよ」
「でもいいの? 私一応司教に知り合いいるし何なら王子とも知り合いだよ?」
「あら、あなた結構人望あるの?」
「まあそれなりに」
ある方だとは思ってます。
「ま、一応王子様にこの屋敷に住んでいいか許可もらってくるわ」
「今から行きましょうよ。夜だし」
「王子様寝てるんじゃない?」
「あら、起こせばいいじゃない」
「わあ鬼畜」
寝ているのに起こせばいいってあんたね。




