マラソン大会
寒い。
秋風がそよそよと吹き付ける。天候は雲一つない晴天の空。
「こんな日にマラソン大会とか嫌だよな」
「そうか?」
「寒いわね……。昨日のハロウィンもちょっと寒かったのに」
ジャージに着替えて、全校生徒で町内でマラソンをするというものだった。
私と月乃は上までしっかり羽織っているのだが。
「白露寒くないの……?」
「ん? なにがだ?」
「いや、上ないし」
白露はTシャツという格好だった。
正直言って寒いだろう。それともなに? スポーツできる子は体内で発熱する機関でもあるの? 蒸気機関車かなにかなの?
あー、寒い。
「このぐらいは余裕だ。動けばあったかくなる」
「そ、そう……っくしゅんっ」
「はーい、そろそろスタートですので位置についてくださいねー」
体育の先生方の指示が飛ぶので私たちはスタートの位置につく。
一番後ろに待機していた。そして、先生がスタートと言ってみんな走り出す。
「じゃ、先行くな」
「先行くわね」
「え、ちょ……」
白露が走り出し、月乃もちょっとペースを上げていく。
私はというと。最後尾に一人ぽつんと取り残されていく。周りには私と同じ太った人ばかりだった。いや、それはいいんだけど……。あいつら私だけ残していくなんて非情すぎじゃない? 私運動出来ないのわかってるよね? 体力もそれに倣ってないんだよ?
「ゲームの中なら無尽蔵に走れるのにっ!」
現実は非情である。
「もう無理……」
マラソンは合計5kmくらいらしいが、もう最初の500mで息が上がっている。
500mでこうなるんだから5kmなんて無理ゲーすぎる。タクシー使っていい?私を走らせると夜までかかるかもしれないぞ。
運動マジ無理。
「い、いったん休憩」
私は立ち止まり、膝に手をついて呼吸を整える。
呼吸の乱れは波紋の……ではないが、こう息が切れていては上手く物事に集中できないのだ。いや、マラソンって時点で相当やる気ないけど。
何より一人で走るっていうのが相当寂しい。辛いことはソロプレイではしたくないのだ。誰か道連れに……じゃない、誰かと経験を一緒にするということをしたい。私だけじゃ不平等だ。うん。
「あれ!? 夢野さんそこにいたの!?」
「って、ミキ先生……」
「あまり距離行ってないのにもう息切れしてる……」
う、運動できないもので。
「すいません、体調不良で休んでもいいですか」
「嘘ってことがバレバレだよ……。疲れて余裕出てないよ」
「ぐっ……」
私の嘘を見破るとは先生やるな。
そうじゃない。
「私も一緒に走ってあげるから……。ほら、いこう?」
「いや、わりとマジでまって……。胸が苦しい。こ、これって……恋……?」
「違うでしょ……。単に運動のし過ぎだよ。っていうか1kmも走ってないのに運動のし過ぎって……」
体力ないんです。
「……いくかぁ」
「そう、その意気」
私が走り始めたその時だった。
石で躓きこける。顔面から大きくコンクリートの地面にスライディングを決めたのだった。流石に滅茶苦茶痛かった。
「大丈夫!?」
「……」
「うわ、顔面傷だらけ……。走るのやめて保健室行こうか……」
「足もすりむきました」
「ジャージに血が……。なんかこういうこけ方デジャブだなぁ」
「あ、あはは……。運動音痴ですから」
でも走るのやめさせられたからラッキー。




