こいつクロだ
目の前にはゴルフェル商会の代表ではなく、副代表がやってきていた。
お茶を飲みながら、アウマチと名乗った男は、紙を見せてくる。
「先日の襲撃事件でメイドロボットが壊れたのは大変お気の毒だと思っております。さぞ、息子さんも悲しまれたでしょう」
「まったくだ。犯人は本当に許せんよ」
「息子さんの悲しみを埋めるロボット欲しくありませんか? 以前のメイドロボットより高性能となっております」
カイハは見えない位置に隠し、喋らせないようにした。
私はというと……。伯爵様に変装していた。本物の伯爵様は物陰に隠れて聞いている。
「どんなふうに高性能なんだ? 詳しく聞かせてくれ」
「はい。まず日常面なのですが……」
と、ペラペラと覚えてきたようなセリフを並べていく。
私は適当に聞き流していた。こういう説明は興味ないし買わせるつもりはないからだ。だがしかし、一部だけ気になる言葉を聞こえた。
「戦いに関しても、以前のメイドロボットのようにナイフを使うものではなく、魔法を使うものとなっております」
ああ、クロだ。と、これを聞いて確信した。
商談が終わり、ご検討をお願いしますといって去っていく。
私はカイハにあることを訪ねてみた。
「カイハ。作ったメイドロボットって全員戦闘スタイルは同じなのか?」
「いや、違うな。全員同じだと読まれやすいだろ? だから全員違ったスタイルにしているな。この家のは暗殺者スタイルにしている」
「ほかにナイフを使うメイドロボットは?」
「他はほとんど剣や弓だ」
「私が特注したからな。なるべく暗殺者みたく仕上げてほしいと」
やっぱり。
なんとなく思っていた。前のメイドロボットを暴走させられた事件、あれで騎士団ということはナイフなんかではなく、剣かそこらの武器だったはずだって。
ナイフごときで騎士団を相手どれるわけがない。いくら暗殺者といえど、タイマンでやりあったら基本的に勝利は不可能だと思う。
剣とナイフじゃリーチが違うし、ナイフは致命傷になりにくい。
「ナイフはこのメイドロボットだけ?」
「この家のロボットだけだぜ? 護衛は普通剣でやるもんだからな。暗殺者みたいなのはどこの家も人間にやらせてるぜ。ロボットだと信用ねーらしいからな」
「それさえわかればいいよ」
やっぱりクロだな。
私が考え事をしていると扉が開かれる。入ってきたのは伯爵の息子だった。
「ティール。勉強は終わったのか?」
「うん! それでカイハお姉さまの様子見に来たんだ! どう、な、直せそう……?」
「もうちょいで終わるぜ。聞いてる間にも媒体だけはいじくってたからな。あとはこれを組み込むだけで……」
カイハは媒体チップを中に組み込んでメイドロボットを起動させた。
「……マスター?」
「おうお目覚めかよ。お前の御主人が泣いていたぜ?」
「ティール様? それに、グリンツ様」
「直ったのか……?」
「完璧だぜ! また壊れたら呼んでくれよ」
と、カイハが部屋から出ていった。
「アンナー!」
アンナって名前なんだ……と思いつつ、私も部屋を後にした。




