世の中敵だらけ
カイハの部屋から出るとミキ先生とばったり出くわした。
「あれ、ログインしてたんですね」
「うん、空いた時間ができたからさ」
「ちょうどよかった。少し聞きたいことがあって、育児休暇っていっても広瀬先生妊娠してませんでしたよね?」
「んーまあそうなんだけど、でも育児休暇っていうのは間違いはないよ」
そうなの?
「実は捨て子拾っちゃったんだよね……。まだ生まれて一年くらいしか経ってない子。施設に預けようかって思ったんだけどさ、小さい時から施設にいるのもなんか嫌でしょ? 仕方ないから旦那になる人に頼んで育てようと思ったんだけど、旦那が条件として結婚しようって言ってきたから」
「そうなんですか……。イマドキ捨て子、ねぇ」
「むしろイマドキだからじゃないかな。子育てしたくない若い世代が多いから」
なるほど。
産んだ以上は責任もって育ててほしいものだが。それが親としての務めだろう。私みたいな途中で親が死んでしまったとかならまだわかるけれどさ……。
「だから私は仕事を休んでちょっと育児に専念するんだよ。幼稚園の先生してる妹に頼もうかと思ってたけど、妹結婚も付き合ってる人もいないっぽいから仕事で忙しいだろうしってことでさ」
「ミキ先生優しいですね」
「見てられないだけだよ。優しいとはちょっと違うんじゃないかな。自分のためだからね」
そういうもんか?
でも、見ず知らずの人の子を拾って育てる、か。広瀬先生は多分虐待もしないし怒ったとしても優しく諭してくれそうだからいい親にはなれるとおもうけど。
あの絶壁だからなぁ。私と同じ……。その時だった。私の横に拳が飛んできた。
「今、なんか思ったでしょ?」
「え、え」
「貧乳だとか思わなかった?」
「ええ!?」
絶壁と思ったけど心読めるの!? っていうか、貧乳NGワードなの!?
「私にもおっぱいないんですから! ほら、貧乳!」
「そうだけど……」
「なんで貧乳ダメなんですか!?」
「いや、私って胸がないから……」
貧乳過激派!?
「前々からこの貧乳がコンプレックスでねぇ。貧乳とバカにされると怒るんだよね……」
「ええ……」
「巨乳は今でも死ねって思ってるよ」
「ええ!?」
なんでそんな巨乳に恨みあるの? なんでそんな敵視すんの!?
「本当に私の周りには胸があるやつが多くてさぁ…!」
「たしかにチリリンさんとか結構あるな……」
「ワグマさんとビャクロさんも高校生にしてあんなにあるんだよ!? もう大人の私越してるんだよ!? なんなの!? なんでそんな成長すんの!?」
「さ、さぁ……」
ミキ先生の嘆きは、まだまだ続くのだった。
私は咄嗟に話題を変えることにした。
「そういや広瀬先生、なんか用事でも!?」
「ん? あ、ああ、カイハさんって子が魔王軍に入ったって聞いて見に来たんだけど入れないから諦めて帰ろうとしたんだよ」
「そ、そうなんですねー」
この人に貧乳の話をしたらダメだと思いました。
久しぶりにミキの貧乳いじりをした気がする。




