鬼神の烈火、それは我が愉悦なり ①
目の前にはエヴァン帝国軍がいる。
男は頭に血管が浮き出ていた。
「おいおい、あんだけ勝てると豪語しておいて魔王まだぴんぴんしてんじゃねえか……! これはどういうことだ!?」
「手も足も出ず敗走したのかもしれませんね。今日攻めるのはまだ時期尚早かと思いますが兵を引きますか?」
「ここまできて何の戦果も出せませんでしたとありゃ、女帝もさぞお怒りになるだろうよ。相手は大方雑魚兵だ。森の賢者共もいない。勝てる見込みはある。数で押し切れ」
「かしこまりました」
男はそう命令を下し、そして、軍勢が一気に突撃していったのだった。
☆ ★ ☆ ★
「相手も、引く気はない、みたいだね」
パンドラがそう笑う。
私は呆れていた。
「引いていたとしても無駄ってことでしょ? エヴァン帝国とこことじゃ距離がありすぎるから」
「空でも飛べたら一瞬だけどね」
パンドラがそう笑った。
私たちがこっちで戦ってる間、森の賢者たちは帝都を落とそうとしている。正直戦力不足とは思うけれども、パンドラが決めたんだからきっと成功するだろう。よほどの悪運がない限り。
「それにしても、あんた大ウソつきねぇ……」
「ま、何かをなすために嘘を使うってことも必要だよ。嘘は無限の可能性があるからね」
パンドラは笑う。
「で、実際のところどうなの? 森の賢者たちだけで帝都落とせるの?」
「それはあいつらの強さ次第かな。正直、束になれば守りの薄い帝都は大丈夫だと思うよ。それに、あっちにはローキッスがいる。神が一人ついてんだ。大丈夫だろ」
「そう。じゃ、私たちは目の前の敵に集中するわね」
私は大剣を構え、迫りくる敵軍に向けて突撃していった。
私にはパンドラみたいな突飛した知能もなければ、ビャクロみたいに秀でた運動神経でもない。二人と比べれば普通にもほどがある。
でも、努力だけは二人に負けてないのよ。これでも。
「二人と同じ位置にいるには私は努力が必要なのよ!」
私は剣を薙ぐ。
敵軍を強く吹っ飛ばした。
私たちが肩を並べて歩くためには私には努力が必要だ。何の才能もないけれど、努力なら人一倍してきたつもりだ。肩を並べて歩くために。
「何をもたもたしてるんだ! ワグマに続け!」
「そうそう。レブルたちも突撃。ワグマに負けてられないでしょ?」
ビャクロとパンドラの号令が飛ぶ。
負けてられない、か。私だって。
「私も負けず嫌いなのよ。誰よりも人を倒してみせるわ……!」
私はふふっと不敵に笑う。
大した才能もない、ただ実家が裕福である、それだけだった。私の人生はただそれだけだった。退屈していた毎日に、パンドラが現れ、白露も現れた。
出会いこそ二人共々あれだったけれどね。パンドラに関してはドロップキック決められたのは痛かったし冷たかったわ。
「あははははっ! 楽しい!」
「ワグマめちゃくちゃ楽しんでるな」
「私たちも後に続こうぜビャクロ」
「ああ。裏切るんじゃねえぞ」
「もう裏切んないよ。裏切ったとしても嘘だからね」
「ああ、信じてる」
「そう簡単に信じてるとか言うなよ?」




