誰が為に嘘をつく? ②
私がそう叫ぶと男はローブを外し、模倣を解いた。
「バレちゃった?」
「なんっ……!」
「なんでこんなことをしたか知りたい?」
パンドラを見たことによってレブルはその場で固まってしまった。
レブルも知らなかったんだろう。レブルは聖剣を地に落としていた。わなわなと震え、師匠、裏切ったのですかと悲し気に聞いている。
「やはりてめえ裏切っていたのか……!」
「あはは。裏切っていた、ねぇ」
ライザックたちはパンドラに剣を向ける。
……嘘、だと信じたい。けど、パンドラは本当に私たちを裏切ったのか?
「パンドラ。一つ聞くが、ニホンを仕向けたのもお前か?」
「うん。ニホンを仕向けたのは私」
「そうか」
「ある目的の為にニホンと魔王軍が戦った、という事実が必要だったからね」
パンドラが裏切った……? それは違う。
もしかしたらパンドラの狙いは……!
「みな! 戦闘準備だ! 今からエヴァン帝国との戦いが始まるぞ!」
「ど、どういうことだ? なんでわかるんだ?」
「ワグマならわかると思ってたよ。ほら、本番はこっからだ。今からは私も仲間だから安心していいよ」
「どういうことか説明しろ!」
と、ライザックがパンドラにそう聞いていた。
「エヴァン帝国に戦争を仕掛けさせるためでしょ?」
「正解。長期戦にしてくるだろうと踏んだから短期決戦にさせるようにした。だからこそニホンを仕向けたんだ」
「ど、どういうことですか?」
「エヴァン帝国は魔王を討ち取った功績が欲しい。でも、ほかの国が狙い始めたとなると、急がないわけにはいかないじゃない。悠長に待っていたらほかの国にとられてしまう」
「そう、急がせた。そして、なぜ今日なのか。説明してみてよ」
「私たちとエルピスがぶつかりあったら私たちは勝つといえど疲弊してしまう。そこを総叩きするために今日仕掛けてくるはずよ」
「そう。あらかじめあっちにも情報を流しておいたから、仕掛けて……ってきたみたいだよ」
奥に見えるのは多勢の軍勢。
あれはたしかにエヴァン帝国のものだった。
「でも今やっても森の賢者がいないから勝てるか怪しいんじゃないかしら」
「森の賢者はエヴァン帝国にいかせたよ」
「なんでだ?」
「だって、相手は魔王軍だよ? エヴァン帝国だって油断するわけにはいかないからほとんどの勢力はこっちに突っ込まれるはずなんだ。確実に倒したいからね。でも、そんな勢力をつっこんだら帝都を守る人は?」
「そうか! 私たちがここで戦ってる間に森の賢者に帝都を落とさせる!」
「そういうこと」
パンドラ。
あんた動いてたのね……。いつのまに、なんて言いたいけれど、でも、パンドラが作ってくれたチャンスは無駄にできない。
確実性が高い作戦だと思うのよ。
「なんで私に黙ってたのよ」
「素の演技をしてほしかったから」
「そう。で、この檻解いてくれないかしら。戦えないわよ」
「そうだった。ごめん」
水の檻から解放され、私はため息をついた。そして、パンドラの脳天にチョップを食らわせる。
「いってえ!」
「あんたねえ! 私自分に自信なくしちゃったわよ! 裏切られるほど人望ないのかって思わず泣きそうだったのよ!」
「ごめんって! 敵を騙すにはまずは味方からっていうでしょ!?」
「もう……」
私は大剣を構える。
「ほら、ユウナたちも演技はもういいよ。さっさと戦う」
「わかりました」
ローブをまとっていた人もローブをとり、戦闘態勢を整えていた。
ひやひやしたわよ。でも、パンドラを頼らないつもりだったのに。パンドラが勝手に動いて……依存しちゃうじゃないの。
でもまぁ、勝てるならいいわ。
「もう裏切らないでよ」
「私が裏切るのは基本的にワグマのためだから」
「あんたアデュランに謝りなさいよ」
「あはは。わかってるよ。アデュランには頭下げてお願いしたんだよ。本当は洗脳魔法なんてかけてないから」
そう。それはいいのだけれど。
まさかニホンもグルだったのね……。エディットがああいうことをいったのも私に疑わせるため。もう、なんでこんな疲れるのよぅ。
「ま、エディットと一緒にこれが終わったらみんなに謝るから」
「そうよ。けじめとりなさい」
「はいはい」
パンドラちゃんが実は策を練ってました。
帝都の守りを薄くさせるために戦争をわざと仕掛けさせるってことをしてます。暗いことはしてません。フィガル騎士団みたいなことはしてません。ただ多人数を巻き込んだ嘘をついていただけです。




