金持ちお嬢様と笑わないパンダ ③
私は一通り話した。
武宮君はへえと感心したような感じの声を出す。
「私は月乃に出会ってよかったと思うよ。類は友を呼ぶ感じじゃないとか言ってたけど、それは違うと否定するよ」
私が異常ならば、月乃だってれっきとした異常なのだ。
「白露もそうだけど、月乃には人を変える力がある。人を惹きつける力がある。それはもう、才能と呼べる代物と化してるんだ」
「……そうだね。正直、小さいときのパン子さんは取っつきにくそうだと思ったよ」
「私は月乃に会って変わった。月乃、白露は唯一の信頼できる友達なんだよ」
月乃があんなにしつこく話しかけてきたからこそ、楽しいと思えるようになった。きっと、私が物語を書くのなら、月乃のような主人公にすると思う。
月乃は、誰よりも主人公なのだ。強く、気高く、優しく、勇ましく。自分は平凡だと思っている節があるが、私たちからすると十分に非凡なのだ。
「十分にわかったよ。野暮なこと言っちゃったみたいだって数分前の自分に反省している」
「別にいいよ。たしかに月乃は何も知らない人から見れば平凡に見えるからさ」
月乃の良さは私たちだけが知っていればいい。
月乃がなにをしようとも、私はずっと味方でいる。月乃はいつでも私の味方だからね。
「でも、珍しく饒舌だったよ。なんだか新鮮だった。そんなに大事なんだ」
「そりゃもうね。親友だから」
私はそういってカバンを手に持った。
「じゃ、ありがとね。また今度お礼に来るよ」
「あ、うん。わかったよ」
私は武宮君の家を後にした。
そのまま、待ち合わせの駅前にいくと、高級車が止まっており、その前にサングラスをした月乃が立っていた。
周りにはお嬢様だと噂されつつも、私の姿を見かけるなり、おーいと手を振ってくる。
「月乃。もうちょっと擬態しなよ。目立ってるよ」
「お嬢様は目立ってなんぼなのよ。それに、今回見るオペラはドレスコードがあるの。だから私はこの格好をしてるのだけど……。パン子も着替えさせたほうがいいわね」
「ドレスコード……」
「ま、めんどくさい服装に着替えてでも見る分には面白いって噂だからいいんじゃないかしら。なにやら悲劇の話というわよ」
「ロミオとジュリエット? ハムレット? マクベス?」
「なんで全部シェイクスピアなのよ……」
「悲劇っていうと大体シェイクスピアじゃない?」
そういうイメージはぬぐえないと思う。
「ま、シェイクスピアが分かる時点でパン子はいいのよね。白露は何も知らないから……」
「だから誘わなかったんだな」
「ええ。オペラなんて見てても白露は退屈するでしょうから」
ほんと、親友のことはよくわかってる。




