金持ちお嬢様と笑わないパンダ ②
断ってからその後。
「一緒に帰りましょう」
「なに?」
うざったく付きまとってきた。
どうもお嬢様は諦めが悪いようで、家庭教師になれだのせびってくる。お金を出すからとかもいうが、そんなことは一切嫌いだ。
だがしかし、相手が相手なもんで強く言えば家だって潰れかねない。阿久津家といえばこの日本で一番有名な会社の社長を務めている。日本への影響力が一番デカいと言っても過言じゃない。
そんなとこのお嬢様だから邪険に扱うことぐらいしかできやしないのだ。
「嫌だよ。というか、あんた車だろ。私は歩いて帰る」
「えー、一緒に寄り道しましょうよ。楽しいわよ?」
「勉強があるから」
そういって私は急いで帰ることにした。
家に帰っても誰もいないのはざらにあった。叔父さん夫婦は共働きで、どちらもブラック寄りな企業に勤めている。家で一人という寂しさも、こっちにきてからは普通だった。
私は部屋にランドセルを置き、机に向かう。そして、一心不乱に問題集を解き始めた。
「……随分と寂しい家ね」
「ってなんでいるの? お嬢様は不法侵入していいの?」
今の時間は何時だろう。
ちょっとだけ休憩をいれるために下に行くと阿久津さんがリビングのソファに座っていた。隣にはボディガードみたいな人もいる。
ちょっと? 不法侵入。
「それに、寂しいは余計。私はこれで満足してるんだから寂しいとかいわないでくれる?」
「そうね。悪かったわ」
「お嬢様だから庶民の家は寂しいでしょ。だって家広いもんね? うちは普通の一軒家だからあなたの家よりは数倍小さいよ」
「嫌味でいったわけじゃないし、そういうことじゃないわよ。というかあなた何時間勉強するつもり? もう七時よ」
「これが普通だから仕方ないでしょ。で、早く帰ってよ」
もう夜なんだから普通は帰る時間でしょうが。
「そう? じゃ、お暇させてもらうわ」
と、私がガシっと掴まれる。
「今日は私の家でお泊り会よ! 強制参加ね!」
「は? ふざけんな! 誰が泊まるか!」
私は男のボディガードの急所を思い切りぶっ叩いた。
力が弱まり、私は靴を履いて逃げる。誰がお泊り会なんかにいくものか。私は一人でいい。一人がいい。誰も信用しちゃいけないんだ。
信用が一番怖い。お母さんたちは詐欺師を信用してしまったからこそ騙されたんだ。
「はぁ……はぁ……」
「あんた、足遅いわね」
「うるせえ……体力ねえんだよ……。あ、もう無理かもやばい」
足がもつれ、その場に激しく転倒した。
後ろに追い付いていた阿久津さんも私の上に転ぶ。私は下敷きとなり、うえっと変な声が出た。
「つっかまえた!」
「……はぁ」
「もう逃がさないわよ」
「……なんでそんなに私に拘るんだか」
「そりゃ友達になりたいからよ」
「……友達? はっ」
私は鼻で笑う。
「友達、ねぇ。お嬢様がいうことは私にはよくわかんないや。都合がいい友達? 囲いをそんなに作りたいのか?」
「なんでそんなひねくれてるのよ。小学生なんだからもうちょい純粋になりなさいよ」
「うるさい。小学生だからこそ私は強くなきゃいけないんだよ」
間近で犯罪の被害に遭って、黒い面を見たのだ。今更純粋であることができるわけがない。
「私は友達はいらない。一人でいいんだよ。ほっといてくれ」
「嫌よ。私、お嬢様だから。欲しいものは何でも手に入れるのよ」
「そう。これを機に学べよ。何でも手に入るわけがないんだよ」
「そう?」
すると、阿久津さんは私に思い切りのしかかってくる。
「とう! お嬢様プレス!」
「は?」
「ここから先に行きたければ私を倒していくんだな!」
「おい、服汚れるぞ。そんな高級そうな服いいのかよ」
「いいわよ。服なんていいの。しま〇らで買う安い服でもいいのよ!」
「……それは私を馬鹿にしてるのか? いや、私はユニ〇ロだけど」
お嬢様の考えてることはよくわからない。
「それに、服なんて拘ってたら友達になれないじゃない。私はあなたと友達になりたいの」
「……はぁ」
「友達になるまでなんでも尽くすわ。遊び相手にでもなってあげるし一緒に勉強するならしてほしい。私はお嬢様だけどそんな地位はどうでもいいのよ。あなたみたいな面白い人と友達になれればどうでもいいの」
「……わかったよ。友達になればいいんだろ」
私は思い切り走って、そのままドロップキックしてやった。
「友達だからこのキックも許せよなぁ!」
「いだっ! やりすぎよぉ! って、きゃあ!?」
公園の噴水にお嬢様がダイブした。
「いだっ! 鼻に水が! よくもやったわね!」
心配になって近づくと、私の胸倉をつかんで私も噴水の中に落とされた。
鼻に水がっ! いでででで。懐かしい感覚ぅ。プールでおぼれた時の感覚ぅ。
「「はっくしゅん」」
噴水からあがると私と阿久津さん両方がびしょびしょに濡れており、夏と言えど夜は寒い。体が冷えて仕方がない。
私たちが震えていると、ボディガードの人がやってきた。
「お嬢様!?」
「あら、石黒。もう来たのね」
「なぜびしょびしょに!? こいつにやられたんですか!」
「ええ、派手にやられたし派手にやり返してやったわ」
「くしゅんっ!」
「お嬢様風邪をひきますよ。さ、家に帰って……」
と、ボディガードさんは阿久津さんを連れていった。
私も帰るとするか……。
「石黒。あんたクビにするわよ」
「へ?」
「私も寒いけど夢野さんも寒いでしょ。私だけ送ってくならクビにするわよ」
「し、失礼しました。夢野様も車に……」
「いい。薄情なボディガードさんに見捨てられたから歩いて帰る」
私はそのまま走って帰っていった。




