人生エベレストありグランドキャニオンあり
夕方となった。
もう帰る時間で、私と有栖川さんは一緒に帰り道を歩いていた。というか……。
「なにこれ。リムジン?」
「そうです」
「うん、それはまあおいといて一緒に乗ってる方いかつくない?」
「知らなかったのですか? 私の家はちょっと裏のほうで……」
「要するにハチ、キュウ、サンね……」
有栖川さんの実家ヤクザなんですかやだー。
いや、マジで怖いんですけど。じろじろ睨んでくるんですけど。有栖川さんもしかして怒ったら怖いの? なんなの?
思わず委縮してしまった。
「あの、私もうここでいいよ。あ、歩いて帰るから……」
「遠慮なさらないでください。友達じゃありませんか」
「そうだけどね? 一般人がこの中にいるっていうのは」
「パン子さんなら耐えれると思ったのですけど……。その、家がヤクザというのはパン子さんしか知りませんから……」
「なに? 一般人扱いされてないの私」
だから耐えられると? バカか。
いや、まあたしかにメンタルは滅茶苦茶強いほうだと思うけど流石にこんないかついゴリマッチョみたいな人たちに囲まれたらさすがの私も無理ですよ。
「お嬢、そいつひょろっちいですけど本当に友人なのですか?」
「いつまで疑うのです。友人ですよ」
「ですが俺たちにビビるってことはやばくないですか? ばらさないほうがよかったんじゃ」
「え、えっと……」
「大丈夫ですよ。みなさんガタイがいいので……。すごい筋肉ですね」
「わかるか? ここまで鍛えるの大変だったんだぜ?」
「お嬢ちゃんも鍛えるか?」
「いえ、遠慮します」
そこまでムキムキになりたくないです。
「プロポーションとか鍛えられるぞ? 脚線美とか手に入れられるしな」
「いや、可愛くなりたいって思ってませんから」
「そうか?」
可愛くなるのは意識高い女子がやればいい。
私の見た目は可愛いほうだと思うけど目の下のクマが台無しにしてる感じがする。いや、可愛いとは思うよ。ライトノベルみたいに普通の女子高生だとかは言えない。言うつもりない。普通の女子高生って親が死んだりしてないしなにより私みたいなやばい発想はしてないからな。
「私普通の女子高生じゃないんで……」
「パン子さんは滅茶苦茶頭がいいんだよ。今度勉強教えてもらうんだ」
「そうなのか! 高校生なのにすげーな! うちにも高学歴の奴いるけど……」
「あれとっつきにくいよな。孤高の狼気取りの奴な」
「もう、あの人もいい人ですよ。というか、多分あの人よりも頭がいいです」
「東大卒のアイツよりか!?」
東大出てなんでヤクザになってんだよ。
もっといいところ就職しろよ。東大出てんならもっといいとこいけるだろ。
と、その時電話がかかってきた。
「はいもしもし?」
『眠。しばらく友達の家に泊まりなさい』
「え、なにがあったの?」
『うちにトラックが突っ込んだのよ。家がほとんど壊れたわ』
「ええええええ!? そんなんあり!? というかヘッドギアが!?」
『というわけだからしばらく私たちはホテルに泊まるから……。ほんと、運が悪いわね……』
と言って切られてしまった。
「どうしたのですか?」
「い、家が……壊れたって」
「ええ!? 運なさすぎではありませんか!? どうするのですか?」
「友達の家に泊めてもらう……。制服とかも家だし瓦礫の下だろうから……」
「そうですか……。なら、よければうちに泊まりますか? 家が直るまでの間だけ」
「……そうさせてもらうよ。その、しばらくお世話になります」
なんだろう、人生山あり谷ありとはよく言うが、谷がグランドキャニオンみたいだし山がエベレストみたいな感じですね。
谷はいいとしても山のレベル富士山クラスに落とせない?
家にトラックが突っ込む……。家が異世界転生でもするのかな?




