とある村の殺人鬼 ②
殺人鬼が殺人鬼を追い詰めている。
すると、相手の殺人鬼が逃げ出していった。アンジュはにやりと笑う。にやりと笑い、そして、アンジュはナイフを持って追いかけた。
私もその後を追っていくと、殺人鬼が路地裏の突き当りに追い詰められているのだった。
「ひ、ひいい! 殺さないでくれ! 俺はっ……! 死にたくねえ!」
「死にたくない? 死にたくないとおっしゃったですか?」
「ああ! 俺はまだ生きたい! だからっ……!」
「だからなんです? 人間はいずれ死ぬのです。それに、人をたくさん殺しておいて自分は死にたくないだなんて都合がよすぎます。神様もお許しになりません」
「それ、あんたがいうか」
自分を棚に上げんな。
だがしかし、こういったエゴイストは好きではない。敵対するほどではないが見ていて気持ちのいいものではないのはたしかだ。
アンジュが殺人をまたやってしまうのはダメだと思うけど……。
「アンジュ。そこまでだよ」
「で、でも……」
「あとは私がやるよ」
アンジュからナイフをもらい、私は突きつける。
「自分の快楽の為に人を殺す、挙句に死にたくない、か」
「し、死にたくないと思うのは当たり前だろ!? 死にたくないのはあんたもだろ!?」
「それはそうだ。痛いのは嫌だし、死にたくもない」
「そうだろ?!」
「でも、それは君が殺した人たちもそうだったんじゃないかな? 自分だけ死にたくないから殺さないでというのはどうもおかしいように感じる」
「おかしくねえだろう! な? 金なら払う! だから……」
「いや、やっぱりおかしいよね」
私は男の胸にナイフを刺した。
男は、胸に刺さったナイフを見る。顔色が蒼くなっていく。
「それじゃ、絶望に染まって死んでいきなよ」
私たちはその場を後にした。
「それにしても心臓を刺さないとは優しいですね」
「そう?」
「あれ、絶対死なないですよ」
「あはは。詰めが甘かったよ」
「そういって本当は殺すつもりなかったんですよね? その……私を許してしまったのですから……」
「それもあるかな」
同じ主張はアンジュもした。
アンジュは許して、あいつは許さないというのはどうもエゴだと思うのだ。無意識に差別しているって感じがして自分に腹が立つ。
だからこそ、殺さなかった。
「自分勝手ではないです。師匠は……」
「自分勝手にすると私暴走するからなぁ」
いつも理性のブレーキを引きながら走っている感じだ。
自分勝手にすると、暴走してしまう。特にワグマとビャクロが近くにいない今、好き勝手やると止められる人がいないと思う。
その気になれば何日もかけて国の一つや二つ陥落させることは可能かもしれない。もしそうする気になったら止められないと思う。
「私もあの男も許す懐の深さ……。神様の次に尊敬するのです」
「神とほとんど同列視……」
「師匠神様だったんですか!?」
「違うからねレブル」
話していると、夜が明けた。




