アヴェールの驚愕
アヴェールはもう来ないで欲しい。
そう願った後。
「こんにちは。教会にいいものが寄付されたので一緒にどうでしょうか」
と、アヴェールがなんやらデカい魚をもってやってきた。
マリアベルはふふっと笑う。たまに兄さまは教会に寄付されたものを持ち帰って食べさせてくれるんですのよって今はどうでもいいよ。
取り敢えずドラゴンにならなければ……。
すると、
「兄さま。私、強くなりましたわ」
「ほう? 魔王様に稽古をつけてもらっているのかい」
「いえ、見ててください」
……手遅れだった。
ドラゴンになったマリアベルを見て、アヴェールは持っていた魚を思わず地面に落とす。
「兄さま!ドラゴンになれるんですのよ」
「……ああ、神様。今私が見ているのはただの幻術であってほしいと切に願うばかりです」
「これ、幻術でもなんでもないの……。ちょっと禁術に手を出したっていうかなんというか……」
「……禁術に手を出したとなると知られたら少しまずいのですが……それより。どういうことでしょうか」
笑顔が怖い。
「いや、飛来した謎のやつあるでしょ」
「ええ、教会でもそれに手をうとうとしておりますが、それがなにか」
「あれに触れたらこうなった」
「……なるほど。魔の森に何個か落下したのは目にしましたが……」
「そう。その一つにね。でも、まだ力を得ただけでよかったよ。触れたらだれでも力を得るってわけじゃないしあれ」
「知っているのですか」
「いや、武闘大会で一つ降ってきて何人かそれに吸収されたから」
「なるほど。力に見合う器が必要ということ……」
妹であるマリアベルができたのだから、多分兄であるアヴェールも力を得ることはできるだろう。
「アヴェールも欲しいならいいんだけど」
「いえ、私は遠慮しておきます。それよりマリアベル。変身を解きなさい」
「はい、兄さま」
マリアベルの変身が解かれる。
「あ、兄さま。お魚料理してきましょうか」
「いや……じゃ、じゃあ頼んだ」
「はい。無駄なく使わせてもらいますわ」
マリアベルが落ちた魚をもって厨房に急いだのだった。
「……妹から目を離すとすごい成長するものですね」
「そ、そうだね」
いや、誠に申し訳ない。深く反省しております。
「でも、いざとなったら自分を守ることができる。そういう意味ではよかったかもしれません。あんな力を手に入れたら並大抵の男では太刀打ちできないでしょうから」
「ふぅん」
「兄としては妹がとても心配でたまりませんが……大丈夫だと思います。変な男にひっかからない限りは……」
「お兄ちゃんって、そんなもんか」
何んとも馬鹿な生物だ。お兄ちゃんは。




