敬虔な信徒マリアベル
アヴェールが連れてきたのは水色の髪をした女の子だった。
手を合わせ願いをしている。
「魔王様。本日からお世話になります」
「魔王様じゃないけどよろしくね」
「し、失礼いたしました」
お淑やかだなぁ。
名前はどうやらマリアベルというらしい。マリアと呼んでくれということだ。
「マリア。これから私は君に死というものを……」
「死……兄さまが私に死を教えてほしい、そう願ったのですよね」
「知ってるんだ」
「ええ。わざと死を知らないふりをしておりましたから」
と、そう聞いた瞬間私は目を丸くした。
あの兄を騙せるとはこの子案外大物なのか?
「兄さまは仕事が嫌なように見えて、やりがいを感じておられるのです。私がああでもしないと構ってくれなく……。なので死を知らない甘い妹として過ごしてまいりました」
「……頼みごと終わったんだけど」
「でも、いけなかったのですね」
「み、みたいだねー」
何も言えない。
私は、口をゆっくりと開く。
「じゃあ、君は死を受け入れるの?」
「仕方のないことですから。戦争で命を落とすことも、病で伏せ亡くなることも。すべて仕方のないことです。死は必ず私どもにやってくる。主はそういっておられます」
「主?」
「アバロン様です」
と、マリアは手を合わせる。
「死は別つもの。死は悲しきこと。乗り越えなければならないこと。主はそういっておられるのです」
「そ、そう……」
これはまた敬虔な信徒が来たものだ……。
神に祈る彼女。私は神など信じるつもりはない。神に縋ってでも何かを得たいわけでもないし神頼みなんて運ゲーは絶対にしたくない。神は悪魔だと私は本気で思っている。
人々を助け、依存させる。それこそ悪魔の所業だと思うのだ。
「マリア。魔王軍に入ったからには殺しもしてもらうことがある、それはいい?」
「構いません。不本意でも、命には代えがたいですもの。でも、無駄な殺生はしたくありませんわ……」
「無駄な殺生は基本的にしない。だから安心してほしい」
「わかっております」
マリアは私に微笑んだ。
マリアが謁見の間で魔王様に向けて言糊を捧げていた。
「魔王様。どうか配下に下る私をお許しください。主よ、魔王様よ……」
で、魔王様の隣に立っている私に耳打ちをしてくる魔王様。
「ねぇ、なんで変なの連れてきてんの」
「変なのって……」
「なんか怖いのよ。宗教関係」
「大丈夫だよ」
ちょっと敬虔な信徒ってだけだもんねー?
手を合わせて祈りを捧げるのは素晴らしいと思う。私は絶対しないけど。
「と、得意なことは?」
と、ワグマが顔を引きつらせながら聞いた。
「回復魔法が得意です……。す、すいません。回復魔法ぐらいしか魔法は使えなくて……」
「いいんだよ。十分」
回復が出来ればこっちものだ。
とはいっても喧嘩する相手今のところいないんだけど。




