Episode.57 退職社畜の瞬刈
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「よろしくお願いしますっ!」
「ん、ああ、うん。まあ、よろよろ」
律儀に礼する少年。バトル始まってんのに、礼儀的な一面には感心せざるをえない。一応、俺も挨拶はしておくが。
名前を確認。……エミル君かぁ。なんか、弱そうだねえ。失礼だけど。
まあ、これは俺のスキル確認も兼ねている。直ぐに終わるだろうな。
「行きますッ!」
「来るなら黙ってきなさい」
スタンダードなショートソードを構えて突撃してくるエミル君。
最近は格上や強敵が多かったからな。一つここは年上としての威厳を見せつけなくてはな。
「ふっ!」
お決まり、上段からの斬り下ろし。
ゆっくりと抜刀して、刃を添えるようにして力の方向を逸らす。
耳障りな金属音を残して、地面へと向かう剣。
「まっ、だっ!」
「おおっ、凄いねぇ」
キンッ!剣をそのまま一本背負い。切り上げの攻撃にする。
これをバックステップにより回避。蹴ろうとするが前転で回避される。
………ふむ、これは。
技の予測を出来る頭と、汚れることを問わない行動力。
地力もあるようだし、応用もできそう。
教えんのが上手い奴が鍛え上げれば、相当なものになりそうだ。
「ほ~ら、いくよー」
突き攻撃。
立ち上がろうとしている彼の頭部を狙った攻撃。
「くっ!」
咄嗟に反応して振り返りと同時に刀の腹を叩く、エミル君。
やっぱり、基礎が違うかなぁ。ステータス差ってのもあるだろうけど、やはり経験の差かな。地力はありそうだけどなぁ、しかし何もかもが足りてない。例えば、余裕。
「ほれほれ、どうした。さっきまでの威勢はどこにいった」
少し速度を遅くした突きを連続で放つ。が、焦って回避したせいか、体勢が悪い。必死になって剣戟を防いでいる。
こういう場合は一旦距離を取るか、大きく弾いた方がいい。もしくは踏み込むとかだな。
「スラッシュ!」
「パリィっと」
アクティブスキルでの攻撃を刀で弾く。
いや、これ。普通は折れるからね?俺が特殊なだけ。
なんていうかなー、こう……振り下ろしてくるじゃん。それを、刃の形に添って上にかち上げるんだよね。
「エアスラッシュ!!」
遠距離攻撃を近距離で発動。自分自身でも攻撃しての二連撃。
考え方自体はいい。レベル差がある中、少しでも手傷を負わせようとする冷静さが垣間見える。うん、応用性も効くし、十分に強いね。
まあ、それも一緒に撃ち落とせば終わりだけどね。
「おいっしょっと」
斬撃と剣撃を同じ攻撃のライン状に捕えて、刀を振り下ろす。
攻撃力に大差があるからだろうな。斬撃がへし折れて、剣も押し返す。
鍔迫り合いだー。どっちが勝つかって?そりゃあ、ねえ?
「ガンバレ、ガンバレ!」
「ぐっ、うううううううううぅぅぅぅうぅ!??」
あ、凄い頑張ってる。めっちゃ頑張ってる。凄い踏ん張ってる。
顔が真っ赤だわ。苦しそうだねえ。
てかさ、この体勢ってある種のマウントポジションなんだよね。その内耐えきれずに斬られるし、回避しようとしても速度的に斬られる。
―――うっわ、イジメじゃん
―――トッププレイヤー、最強伝説
―――高レベルがルーキー虐めてんよ
「はァ……」
なんか、冷めるなぁ……。
ゲームで強くなるとこんなこともあんのか。ダリィなぁ。やる気失せるし。
両者、承諾して試合やってんのにさ、こう言われると色々なくすよね。
もう、終わりにすっかな。原因作ったの彼だし、サクッと死んでもらおう。
「アークスラッシュ!!」
かつて俺も使ったことのある必殺技。
格上だし、ゲージ補正でも掛かってたんだろうな。俺の奴は十パーも溜まってないし。
俺が使った時よりも数倍威力が強めの威力。PVPとはいえ、俺も結構なダメージ食らうだろうな。俺、紙装甲だし。
速度は上々だが、威力はそれなり。学習して横薙ぎに払ってんのもいい。
だが不機嫌なことに変わりないし、スキルの試し打ちの予定だった。当初通りにやっていこう。
発動系のスキルでも何でもないけど……必殺シリーズ!ただ、
「……………抜刀……」
『フィニッシュ!』
アナウンスが試合の終了を告げた。ほぼ同時に落ちるエミル君の首。
ああ、試合は終了だ。
「……え?」
誰かが声を出した。呆然とした声だ。
「あ、あえ……な、なにが……」
復活したエミル君は何が起きたか分かっていない様子。
俺から言えることはただ一つだけなんだがな。
抜刀しかしていない、と。
そもそも俺の抜刀速度と威力は公式チート気味な所があった。それを、今や速度二十倍のダメージ最低三百倍だ。抜刀速度を俊敏力に比例している今では、音速ぐらいはいってんじゃないのかな?
「それじゃ、失礼するよ。エミル君。また、会う時までにはもう少し強くなっていてくれ」
座り込む彼の肩をポンポンと叩き、その傍を歩いていく。
呆然としたエミル君に駆け寄って行ったのは仲間か友人か。
モンスターでも狩りに行こうかな。




