Episode.54 退職社畜と煽り分とライダー腐女子説
めりくり。です。
一日遅れの。
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「ちょ、やめ!何をするんですか!?私は、まだっ、八つ当たりを――――」
「う、うえ~ん!じぇんば~い!じゃじゅけてくだじゃい!?」
ライダーに取り押さえられるルナレナ。
ルナレナの愚痴という名の、罵詈雑言から解放されたレイランは、俺の足元に泣き縋り、纏わりつく。控えめに言って…気持ち悪い…。
なんといっても、鼻水を撒き散らかし、涙を溢れさせて、涎を零す、その姿はどこからどう見ても、完全に十八禁過ぎる。……なんで、こんな奴と知り合っちゃったんだろ。
「落ち着け!この腹黒眼鏡!戻ってこい!」
「あっ、うわっ、来るな!汚い!寄るな!」
メンドクサイ二名を相手にする、俺とライダー。
どうにか、ならないものか。
てか、普段大人しい人が怒ると怖いとはよく聞くが、アホな奴が泣きじゃくると面倒だとは、初耳だし、初見だ。皆はどうだろうか?こんな、茶番を視聴している君等は?
「相棒…やれ!」
「Aye Aye Sir!―――こんの、アホが共がッ!」
餓狼刀を鞘ごと抜いて、二人の頭を、打ん殴る。
ごっごっ。二つほど、鈍い音がして、どさっどさっ。二つ、何かが倒れる音。
全く。以って。不可解だ。
いつから、ここはギャグの世界線になったのやら。
やれやれ、困ったものだよ。本当に。
「あっ、すみませんした!すぐに行きますんで!」
「悪かったな。失礼する」
気絶したルナレナを引き摺って運び、これまた泡を吹いているレイランを従業員に押し付ける。部屋に押し込んどいていい、と言ってからな。
ふう、これで安心安全。大丈夫なはずだ。あ、スクショとか撮られてないかな?心配だなー。いや、別に俺とかライダーじゃなくて、ルナレナだ。レイランー?アイツは別にいいよ。だって、アホだもん(力説)。つまり、大丈夫。
問題は、ルナレナだなー。怖がられるよ?絶対に。
だってさ、想像してみろよ。普段優しくて、可愛い子がさ、顔を能面みたくした上に口だけ笑わせて、罵詈雑言を言ってくるんだぞ?心折れるぞ?
「「ふぅー…」」
部屋に入ったところで、溜息をつく。
ふと、隣から、同じ声が重なって、木霊する。
見ると、向こうもこっちを見ていて、ライダーだった。
俺は笑った。ライダーも笑った。これも、見事合わさった。
傍から見たら、仲の良い、オッサンらだとでも思うのだろう。まさに、オッサンズラブ…かな。嬉しくないけどな。
「………」
泡食ってるルナレナは、呼吸が安定したよう。
危険人物を相手にしてるようだよ。医者の気持ちが少しわかった気がする。
「風呂行くか」
「そうだな」
自然な流れだった。
お互いに、なんの違和感も抱かずに、言ったようであった。
……。
場面は変わって、風呂場。男風呂と書かれた青の暖簾を潜って、リアルに作られたオブジェクトを抜けて、扉を通る。
一面煙。そして、硫黄の香り。格段に上昇した気温。
身体を見回すと、上裸に水着。トランクス型の奴だ。ちなみに黒色。
「おーい、ライダー!どこだー」
声を張り上げて、ライダーを探す。
濡れた石畳の風呂場を気を付けて歩き、鈍い視界を凝らす。
「見っけ」
「…!お、おう!相棒…」
尻すぼみに小さくなる言葉。
俺と同じ格好をした、ライダーを発見した。
でも、なんというか、その……挙動不審だな。
何かあったのだろうか?もしや、部屋に置いてきたルナレナが気がかりなのか。
ルナレナは当分、気絶のバッドステータスを受けるはずだから、目は覚めないはずだ。起きて早々、ヒステリックを起こすとは思えないが…心配なものは、心配なんだろうな。
「さき、入ってるわ」
「おおおおおおおおおう!」
一人バグるライダーを置いて、掛け湯をして入る。
湯の中心へと赴き、奥にある看板を見る。効能とか書いてある奴だ。こういうのは、気になって見ちゃうタイプだ。
ホワイトボードじみた看板を見ると、字がうねって、整列し始める。
えーっと…何々…?デジャヴュ?知らんな。
『名称:「ぼっちの温泉」
効能:え?嘘でしょ?誰もいないこの時間帯に来たの?しかも一人で(笑)www友達とか…いないよねー!だっていたら、一緒に来てるもんなー!?ぷぎゃー!雑魚乙!効能を教えろ?うんうん、そうだね。ぼっちくんに教えて上げてもいいよ?それはね……うっそぴょーん!効能とかありましぇーん!だって、バーチャル温泉だよ?効能もクソもあるわけないじゃんwww早く、友達つれてきた―――
―――ドゴン!
俺は、無意識に拳を看板に突き立てていた。
見事、貫通して、モニターをぶっ壊す。
『草生えるわwww』
欠けたモニターで、最後にそう出しやがった。本当に、ふざけてやがる。
「あ、ああ、やっぱぶっ壊したか、相棒は」
「んんー?…なんだ、ライダーか。おいおい、聞いてくれよ。この運営本当にイカれてんな」
話しかけるが、ライダーは反応なし。ずっと、棒立ちで、俺の体を見て、固まっている。目にハイライトはなく、口だけパクパクと動いていた。
「着ている時は見えなかったけどやっぱり筋肉質な体だな、しかも全体的に均等が取れた美しい筋肉美まさに黄金比とかいうやつかしらね、いややっぱすごいなにあの二頭筋すごいなあ触りたいなあ相棒って着やせするタイプだったんだあへー初めて知ったな今度どさくさに紛れて触れないかな――――」
俺は無言でライダーをそっとしておいて、露天風呂へと行く。
ゲーム内時間帯的にも、夕方の時間帯。
ぼんやりと暮色に染まる空を見上げて、俺は呟いた。
「疲れたわ。本当に」




