Episode.51 退職社畜のクエストクリア報酬
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「終わった…」
「あ…、先輩、戻ってきたんですね!」
「お、レイランじゃーん。おひさ~」
カミヤをフルボッコにした後、戻ってきました。
私は…帰って来た!
すかさず、ステータスチェック…まだ、力は付与されていないみたい。
と、そんなことを考えていると、白いモヤが空中に集まる。
やがて、それはカミヤになる。
モヤは、カミヤに進化した!おめでとう!名前を付けてね!
「……先輩…何したんすか?」
「何ってそりゃ、何のことよ。ナニのこと?」
「いや、これですよ」
「どれ」
「ですから、これです。これ」
レイランは、青褪めた顔で、「これ」とやらを指さす。
指の先端から、その先を見ると…カミヤだな。うん、、カミヤ。大事なことだから二回言った。
「…あ……あ、…あぁ‥‥‥‥」
放心状態。視点は定まっておらず、愉快に遊回している。楽しそうで何より。
「どうみたって、これやったの先輩ですよね?」
「うんにゃ。俺じゃないよ。オレハシレンヲヤッテキタダケダヨ。ダケダヨー」
「何で最後カタコトなんですか?しかも二回言ってるし」
「大事だから二回言ったまでさ」
「で、何をやったんですか?白状してください」
「…うん…ああ…ええーっと…」
くっそ。カミヤめ!あとで、同じことしてやる!
で、カクカクシカジカ。というわけでして。俺は悪くないというか何というか。
「いえ、やったの先輩じゃないですか。過程はどうであれ、やったの先輩じゃないですか。試練ですから仕方無いですけど、先輩なら、他にもやりようあったでしょうに」
「何で二回言ったの?ああ…はい、大事だからね。んん…で、でも、カミヤ、見た目にそぐわず、強かったし、仕様がない…というか」
「言い訳はいいです。早く、起こしますよ。ほら、手伝って」
「はい」
カミヤを介抱すること、数分後。今更だけど、俺が試練に行ってから、一時間も経ってないらしい。良い設定だね。
幽霊だけど、触れたことを、追記しておく。
「おはよう。カミヤ君」
「…あ、う、え、あれ?私は一体…?確か、試練中に…」
頭を押さえて、呟くカミヤ。
数秒毎に、「うっ!頭が…思い出してはいけない気がする…」と仰ってる。
な、ナニがあったんだろうね?
僕、分かんなーい。ほら、俺さ、善良な一般市民だし。お寿司。
「カミヤ。剣聖の力。はよ。はよ。はよ」
「ぬ…?…ええ。試練達成おめでとうございます。こちらへ…」
俺とレイランを先導するカミヤ。
浮遊しながら、頭を抱える、自称付き人。
ちっ。思い出すんじゃねえぞ。絶対に、思い出すなよ。
「ここで、暫しお待ちください」
カミヤが、案内した先は、古びた小さな墓。
蔦が絡まり、墓石が欠けている。相当、昔の時代に建てられた墓。
カミヤが、手を翳すと、光り、墓を覆う。
晴れると、墓が光り輝き、新品同然の品質になっていた。
「こちら、剣聖様の御墓でございます」
「「え?」」
マジか。
手紙で、ここら辺で死んでいることは分かっていたが、墓があるとは思わなかった。
墓には、高級な石が使われていることだけが分かり、名前は彫られていなかった。
「バツ様は既にお分かりだと思いますが、剣聖様は見上げた人物では御座いません」
「ん。せやな。そんな、出来た人間でもないような気がしたわ。特に、強さ以外は駄目だったと思う」
「ふぇ?そうなんですか?私が聞いた話では、英雄視する話ばっかりでしたけど」
「そりゃあ、現代の人間が、良いように添削した話なんだろ」
「まさにその通りです。私が付き人を務めていた、剣聖様は優柔不断で、思考が足らず、無駄に人情がある人でした」
遠い何処かを見る仕草。思い出しているのは、遠い昔の出来事か。人物か。
「それでいて、最後の最後になるまで、決められず、友人方が堕落された時も、被害者が出るまで、討伐出来ず。嘘八百に騙され、民を皆殺しにしてしまい、挙句の果てに、国が亡びる直前まで、鬼となった心友殿を弑することが出来なかった。本当。本当に…馬鹿な人です…」
侮辱に対して、最後の言葉は、どれだけの慈愛が込められていたことか。
信愛の情を向ける相手はただ一人なのだろうな。
俺には、そう思えた。
カミヤは、再び手を翳す。
お次は、墓が割れた。俺はもう、驚かん。
中から、羽織が浮き出る。
「こちらは、まず、剣聖を継ぐ者への贈り物です。お受け取りください」
羽織は、俺の真上に来ると、降りてきて被さる。
すると、羽織はどういう原理か面積が数倍かして、俺を覆い隠す。
羽織を分け隔てた、レイランが叫んでいる。
そんな叫ばなくても、聞こえてる。
大丈夫や。貴重な、レアイベントだぞ。黙っとれ。
「おおう…こそばゆいな」
羽織は、俺の袴の上に重なるとすごい勢いで、蠢いた。
色が変わって、形が変わって、下半身に広がって、身体にフィットする。
柄が浮き出て、袖が出来て、帯が結ばれる。
モザイク調だった、俺の体近辺は、色づき始める。
「完成、かな」
「う、おぉ…!凄いですね、先輩!恰好良いです!」
羽織が晴れると、恰好が変化していた。
男着物になっていた。そして、その上に羽織を着ていた。
着物は、紫紺と黒を基調にした色。羽織は、片面が柳で、もう片面がススキのガラ。
うむ。悪くない。
《通知。プレイヤー名:バツ No.009B342T554W が特殊クエスト『剣聖継承の儀』をクリアしました》
《報酬に、以下の報酬が支払われます。
・和風マニュアルに属する装備のグレードアップ又は、和属性装備の贈呈
・スキル『剣聖譚・陽光典』》
《報酬装備、『剣聖の着物』がインベントリに送られます。ご確認ください》
《特殊クエスト『剣聖継承の儀』ルート分岐→「屈する正義、暴かれた真相」がクリアされました。特殊報酬として、『剣聖譚・陽光典』が『剣聖譚・月光典』に変化しました》
《スキル『両断』『空破斬』『十字斬り』は、スキル『剣聖譚・月光典』に統合されました》
《レベルが13上がりました。ステータスポイントを130振り分けてください》
《スキル『刀剣術』『抜刀』『間合い』『居合』『抜刀術法』が統合されます。新スキル『抜刀神技』を取得しました》
「………」
おっふ。
情報量多過ぎワロタ。
俺は、落ち着いて説明ウィンドウを読み始めた。




