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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第五章・続 剣聖試練【記憶回廊編】
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Episode.51 退職社畜のクエストクリア報酬

【ログイン中】


「終わった…」

「あ…、先輩、戻ってきたんですね!」

「お、レイランじゃーん。おひさ~」


 カミヤをフルボッコにした後、戻ってきました。

 私は…帰って来た!

 すかさず、ステータスチェック…まだ、力は付与されていないみたい。

 と、そんなことを考えていると、白いモヤが空中に集まる。

 やがて、それはカミヤになる。

 モヤは、カミヤに進化した!おめでとう!名前を付けてね!


「……先輩…何したんすか?」

「何ってそりゃ、何のことよ。ナニのこと?」

「いや、これですよ」

「どれ」

「ですから、これです。これ」


 レイランは、青褪めた顔で、「これ」とやらを指さす。

 指の先端から、その先を見ると…カミヤだな。うん、、カミヤ。大事なことだから二回言った。


「…あ……あ、…あぁ‥‥‥‥」


 放心状態。視点は定まっておらず、愉快に遊回している。楽しそうで何より。


「どうみたって、これやったの先輩ですよね?」

「うんにゃ。俺じゃないよ。オレハシレンヲヤッテキタダケダヨ。ダケダヨー」

「何で最後カタコトなんですか?しかも二回言ってるし」

「大事だから二回言ったまでさ」

「で、何をやったんですか?白状してください」

「…うん…ああ…ええーっと…」


 くっそ。カミヤめ!あとで、同じことしてやる!

 で、カクカクシカジカ。というわけでして。俺は悪くないというか何というか。


「いえ、やったの先輩じゃないですか。過程はどうであれ、やったの先輩じゃないですか。試練ですから仕方無いですけど、先輩なら、他にもやりようあったでしょうに」

「何で二回言ったの?ああ…はい、大事だからね。んん…で、でも、カミヤ、見た目にそぐわず、強かったし、仕様がない…というか」

「言い訳はいいです。早く、起こしますよ。ほら、手伝って」

「はい」


 カミヤを介抱すること、数分後。今更だけど、俺が試練に行ってから、一時間も経ってないらしい。良い設定だね。

 幽霊だけど、触れたことを、追記しておく。


「おはよう。カミヤ君」

「…あ、う、え、あれ?私は一体…?確か、試練中に…」


 頭を押さえて、呟くカミヤ。

 数秒毎に、「うっ!頭が…思い出してはいけない気がする…」と仰ってる。

 な、ナニがあったんだろうね?

 僕、分かんなーい。ほら、俺さ、善良な一般市民だし。お寿司。


「カミヤ。剣聖の力。はよ。はよ。はよ」

「ぬ…?…ええ。試練達成おめでとうございます。こちらへ…」


 俺とレイランを先導するカミヤ。

 浮遊しながら、頭を抱える、自称付き人。

 ちっ。思い出すんじゃねえぞ。絶対に、思い出すなよ。


「ここで、暫しお待ちください」


 カミヤが、案内した先は、古びた小さな墓。

 蔦が絡まり、墓石が欠けている。相当、昔の時代に建てられた墓。

 カミヤが、手を翳すと、光り、墓を覆う。

 晴れると、墓が光り輝き、新品同然の品質になっていた。


「こちら、剣聖様の御墓でございます」

「「え?」」


 マジか。

 手紙で、ここら辺で死んでいることは分かっていたが、墓があるとは思わなかった。

 墓には、高級な石が使われていることだけが分かり、名前は彫られていなかった。


「バツ様は既にお分かりだと思いますが、剣聖様は見上げた人物では御座いません」

「ん。せやな。そんな、出来た人間でもないような気がしたわ。特に、強さ以外は駄目だったと思う」

「ふぇ?そうなんですか?私が聞いた話では、英雄視する話ばっかりでしたけど」

「そりゃあ、現代の人間が、良いように添削した話なんだろ」

「まさにその通りです。私が付き人を務めていた、剣聖様は優柔不断で、思考が足らず、無駄に人情がある人でした」


 遠い何処かを見る仕草。思い出しているのは、遠い昔の出来事か。人物か。


「それでいて、最後の最後になるまで、決められず、友人方が堕落された時も、被害者が出るまで、討伐出来ず。嘘八百に騙され、民を皆殺しにしてしまい、挙句の果てに、国が亡びる直前まで、鬼となった心友殿を弑することが出来なかった。本当。本当に…馬鹿な人です…」


 侮辱に対して、最後の言葉は、どれだけの慈愛が込められていたことか。

 信愛の情を向ける相手はただ一人なのだろうな。

 俺には、そう思えた。

 カミヤは、再び手を翳す。

 お次は、墓が割れた。俺はもう、驚かん。

 中から、羽織が浮き出る。


「こちらは、まず、剣聖を継ぐ者への贈り物です。お受け取りください」


 羽織は、俺の真上に来ると、降りてきて被さる。

 すると、羽織はどういう原理か面積が数倍かして、俺を覆い隠す。

 羽織を分け隔てた、レイランが叫んでいる。

 そんな叫ばなくても、聞こえてる。

 大丈夫や。貴重な、レアイベントだぞ。黙っとれ。


「おおう…こそばゆいな」


 羽織は、俺の袴の上に重なるとすごい勢いで、蠢いた。

 色が変わって、形が変わって、下半身に広がって、身体にフィットする。

 (ガラ)が浮き出て、袖が出来て、帯が結ばれる。

 モザイク調だった、俺の体近辺は、色づき始める。


「完成、かな」

「う、おぉ…!凄いですね、先輩!恰好良いです!」


 羽織が晴れると、恰好が変化していた。

 男着物になっていた。そして、その上に羽織を着ていた。

 着物は、紫紺と黒を基調にした色。羽織は、片面が柳で、もう片面がススキのガラ。

 うむ。悪くない。


 《通知。プレイヤー名:バツ No.009B342T554W が特殊クエスト『剣聖継承の儀』をクリアしました》

 《報酬に、以下の報酬が支払われます。

 ・和風マニュアルに属する装備のグレードアップ又は、和属性装備の贈呈

 ・スキル『剣聖譚・陽光典』》

 《報酬装備、『剣聖の着物』がインベントリに送られます。ご確認ください》

 《特殊クエスト『剣聖継承の儀』ルート分岐→「屈する正義、暴かれた真相」がクリアされました。特殊報酬として、『剣聖譚・陽光典』が『剣聖譚・月光典』に変化しました》

 《スキル『両断』『空破斬』『十字斬り』は、スキル『剣聖譚・月光典』に統合されました》

 《レベルが13上がりました。ステータスポイントを130振り分けてください》

 《スキル『刀剣術』『抜刀』『間合い』『居合』『抜刀術法』が統合されます。新スキル『抜刀神技』を取得しました》


「………」


 おっふ。

 情報量多過ぎワロタ。

 俺は、落ち着いて説明ウィンドウを読み始めた。

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