Episode.50 退職社畜のカミヤ倒し
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「アナタ、もう少し耐えるとか、待つとか出来ないんですか?」
「うん。できにゃい。はよ、力プリーズ」
「軽いですね」
白い空間に飛ばされた。
カミヤに率直に言われた。
「次が最後の試練なんやろ。早く行こうか」
「反省が見えないですね…まあ、いいでしょう。では、最後の試練です」
カミヤは刀を抜く。
おお…ということは…そういうことか?
「最後の試練は私を倒すことです」
「おっしゃぁっ!オラァ、シネェ!」
カミヤの「私をた」の時点で俺は斬りかかった。
驚くことにカミヤは動かず、刀を受け入れたのだ。
豆腐を斬る様な、淡い感触と共に、カミヤの首が飛ぶ。
「何をするんですか?痛いじゃないですか」
「ちょ、ま、は、キモ!キモチワル!どういう状況だよ!?俺がボケのパートだったろ!なんでお前がボケてんだよ!!」
「そんなことを言われましても…。そもそも、最初に手出ししたのはアナタでは?」
「そうだけど!そうだけども!こう…なんか違くない?ねえ、違くない?」
情緒が不安定になっている。
カミヤの首は、地面(白い空間でどこが下か分からないけど)に転がっているのにも関わらず、口を開閉し、声を出しているのだ。
控えめに言って、恐い。てかキモイ。
俺が悪いんだけど…そうじゃなくて…。
考えるのを止めた(脳死)
「改めて、自己紹介をば。私は剣聖の従者にして付き人、カミヤです」
「従者と付き人ってどう意味が違うの?」
「始めましょうか」
「あ、無視した」
「舞台を整えるとしましょう」
カミヤは俺を完全に無視するよう。
……恥ずかしいのかな?幽霊も恥ずかしがるのかもしれない。
そんで、カミヤは指を鳴らした。
鳴らした指を起点に、波紋状に音が広がる。
そして、音は色に変わって、景色が変化。
変化後は、見覚えのある景色。
ほら、あれだ……剣聖の襤褸小屋だ。
その小屋の前。開けた場所で俺とカミヤは向かい合っている。
「私を倒せば、試練は終わりです。さあ、頑張ってください」
「ぶっ殺しゅ。掛かってこいや、ボコす」
俺は、餓狼刀の鞘を手繰り寄せた。
調整して、歩数を数えて、下がって。
息を整えて、敵を見据える。
「行きますよ」
中段正眼の構え。
レイランのものとも、また違った構え。レイランが威風のある圧の構えだとしたら、カミヤは、流水のような柳の構え。凪の如く、澄んだ表情をしている。謂わば、無表情。
全く音のしない。風すら起きない。
地面に対して、滑る様な歩行法。
付け足して、敵意が無い。
ゲームだが、五感体感。モンスターからもプレイヤーからも、悪意や敵意は飛ぶ。
悪意を以って、攻撃しようとしたら敵意は当然湧く。
それが例え、どんな相手であっても、だ。
なのに。なのに、カミヤには、敵意が無い。
無ともまた違う。寧ろ、善意すら感じる攻撃。
そう、目の前に迫っている刀のよ―――、え?っぶね。
口を開けて呆然としていた俺は、殆ど無意識に手を鞘へ持っていき、抜く。
体に沁みついた動きは、最適の姿勢を作り、真っ直ぐ引き抜き、刃に当てる。
―――ギギギキキキィィィィイィィィイィイイィイィィィイィィィィィ
金属の衝突音じゃなくて、軋む音が発生する。
瞬時。力を抜いて、両足を地面から離す。
本来なら、相手は力場を失った刀剣を地面に振り下ろすことになる…なのだが、カミヤは力の方向をセーブして、突きを放つ。
足をバラバラにして飛んだ俺は、早めに着地した右足を更に踏ん張って、もう一度跳躍。今度は逆に左足から先に着地。構え直す。
接近。振りかぶらずに、小さく振る。右目をカミヤの左脇腹に向ける。
狙うは、右アバラの隙間…内臓。
「……ふぅッ」
フェイントを掛けて、振るった攻撃は、たった一つの吐息に終わった。
マジで上手いプレイヤーとか、武術の達人とかは、視線や筋肉の動きで攻撃を読むと聞いたことがある。というか、今のは、どっちなのだろう?引っかかったが、対処したのか、引っかからなかったのか…。分かんねえや。
上手に受け流された刀。ここで引かないのが肝。
流された方向へ、力を加えて婉曲に軌道変更。
蛇のぬるりとした動きに似た動作で、振り下ろす。
振り下ろすと言っても、ビビッて後ろに下がりながら。
へっぴり腰の刀先端は、弾かれる。
却って、ありがたい。反動で手元に戻ってきたのだ。
毎度。戦いの都度、思う。俺って本当、変態な戦闘しか、しないな。
とはいっても、それが俺の生命線にして、特徴。
鎧通しをインベントリから抜く。
二刀流でござそうろう。
「シィィィ…!」
特殊な呼吸。何かしらのアクション予感。
新しい攻撃パターン。さて。耐えられるかな。
「剣聖譚・偽典/烈日」
静かに紡がれる、高い音色の言葉。
カミヤの刀の周りに刀身と同じ長さの、白いエフェクト。数は…いっぱい。
それは、案の定/定石/鉄板。に俺へ、一斉に振り下ろされ、突撃し、斬り上げる。
無数の斬撃。二刀流は正解かな?
防ぐ方法?
はっはー!そりゃ気合いだよ!!
「ゴラァッ!」
二刀を一気に振り回す。
何となく狙ってみてはいる。
当たらそうなモンだが、どうやら、接触判定が広いよう。
数センチ内に入れば、勝手に消える。耐久性は低い。ラッキー。…ダメージの方は保証できんがな。はて、当たらなければよいのだろう?
足の位置を変え、攻撃範囲からの地面を減らし、腕を早く振るう。
素早く引き戻し、方向角度を変化。また、体の斜角を微調整。
激しい動きに、編み笠もズレそうになって、纏めた髪が揺さぶられるのを感じる。
続く弾幕。その時間、十五秒。カミヤは動いていない。
技の反動か、舐めプか。いや、前者だな。息が乱れている。
隙に二刀を納刀―――、
―――溜め、
…射。
「いっ!」
「息が乱れてるねえ。だいじょーぶー?」
「余計なお世話です」
クロス型の抜刀は防がれるが、鍔迫り合いに持っていく。
今までの速度からの一挙加速。目が追いつかないだろう…ふっふっふ。
二刀を平行に並べて、押し付ける。
カミヤは刀を横にして、両手で押さえて耐えている。
綺麗な戦い方するね~。
でも、悪いね。俺、苛々してるんだわ。
「死ねえい!」
「く!かはっ!」
踏ん張って耐えているところに、腹蹴り。
尻もち着いたところに、顎蹴り。顔面蹴り。
後ろに、倒れ込んだところをに、特攻。
鎧通しは、インベントリに投げ捨てる。餓狼刀も投げ捨てる。
馬乗りになり、餓狼刀の鞘を引き抜き、カミヤの顔面に叩きこむ。
肉弾戦での組手。意外とこっちの方が得意だったりする。
鞘を両手で逆手持ち。かと思えば、振り下ろす。
アイスピックで氷を砕いている光景を思い浮かべて欲しい。
今の状況はそれだ。
アイスピックは鞘、氷はカミヤ。
連続で止まることなく、振り下ろし続ける。
酸素が足らんぞ!
血が足らぬ!
俺は!君が!死ぬまで!止めない!
…―――After a one minutes………………
顔面崩壊。モザイクレベルの惨状を残し、俺は勝った。
アイム、ウィナー!




