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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第五章・続 剣聖試練【記憶回廊編】
52/64

Episode.50 退職社畜のカミヤ倒し

【ログイン中】


「アナタ、もう少し耐えるとか、待つとか出来ないんですか?」

「うん。できにゃい。はよ、(ちから)プリーズ」

「軽いですね」


 白い空間に飛ばされた。

 カミヤに率直に言われた。


「次が最後の試練なんやろ。早く行こうか」

「反省が見えないですね…まあ、いいでしょう。では、最後の試練です」


 カミヤは刀を抜く。

 おお…ということは…そういうことか?


「最後の試練は私を倒すことです」

「おっしゃぁっ!オラァ、シネェ!」


 カミヤの「私をた」の時点で俺は斬りかかった。

 驚くことにカミヤは動かず、刀を受け入れたのだ。

 豆腐を斬る様な、淡い感触と共に、カミヤの首が飛ぶ。


「何をするんですか?痛いじゃないですか」

「ちょ、ま、は、キモ!キモチワル!どういう状況だよ!?俺がボケのパートだったろ!なんでお前がボケてんだよ!!」

「そんなことを言われましても…。そもそも、最初に手出ししたのはアナタでは?」

「そうだけど!そうだけども!こう…なんか違くない?ねえ、違くない?」


 情緒が不安定になっている。

 カミヤの首は、地面(白い空間でどこが下か分からないけど)に転がっているのにも関わらず、口を開閉し、声を出しているのだ。

 控えめに言って、恐い。てかキモイ。

 俺が悪いんだけど…そうじゃなくて…。

 考えるのを止めた(脳死)


「改めて、自己紹介をば。私は剣聖の従者にして付き人、カミヤです」

「従者と付き人ってどう意味が違うの?」

「始めましょうか」

「あ、無視した」

「舞台を整えるとしましょう」


 カミヤは俺を完全に無視するよう。

 ……恥ずかしいのかな?幽霊も恥ずかしがるのかもしれない。

 そんで、カミヤは指を鳴らした。

 鳴らした指を起点に、波紋状に音が広がる。

 そして、音は色に変わって、景色が変化。

 変化後は、見覚えのある景色。

 ほら、あれだ……剣聖の襤褸小屋だ。

 その小屋の前。開けた場所で俺とカミヤは向かい合っている。


「私を倒せば、試練は終わりです。さあ、頑張ってください」

「ぶっ殺しゅ。掛かってこいや、ボコす」


 俺は、餓狼刀の鞘を手繰り寄せた。

 調整して、歩数を数えて、下がって。

 息を整えて、敵を見据える。


「行きますよ」


 中段正眼の構え。

 レイランのものとも、また違った構え。レイランが威風のある圧の構えだとしたら、カミヤは、流水のような柳の構え。凪の如く、澄んだ表情をしている。謂わば、無表情。

 全く音のしない。風すら起きない。

 地面に対して、滑る様な歩行法。

 付け足して、敵意が無い。

 ゲームだが、五感体感。モンスターからもプレイヤーからも、悪意や敵意は飛ぶ。

 悪意を以って、攻撃しようとしたら敵意は当然湧く。

 それが例え、どんな相手であっても、だ。

 なのに。なのに、カミヤには、敵意が無い。

 無ともまた違う。寧ろ、善意すら感じる攻撃。

 そう、目の前に迫っている刀のよ―――、え?っぶね。

 口を開けて呆然としていた俺は、殆ど無意識に手を鞘へ持っていき、抜く。

 体に沁みついた動きは、最適の姿勢を作り、真っ直ぐ引き抜き、刃に当てる。


 ―――ギギギキキキィィィィイィィィイィイイィイィィィイィィィィィ


 金属の衝突音じゃなくて、軋む音が発生する。

 瞬時。力を抜いて、両足を地面から離す。

 本来なら、相手は力場を失った刀剣を地面に振り下ろすことになる…なのだが、カミヤは力の方向をセーブして、突きを放つ。

 足をバラバラにして飛んだ俺は、早めに着地した右足を更に踏ん張って、もう一度跳躍。今度は逆に左足から先に着地。構え直す。

 接近。振りかぶらずに、小さく振る。右目をカミヤの左脇腹に向ける。

 狙うは、右アバラの隙間…内臓。


「……ふぅッ」


 フェイントを掛けて、振るった攻撃は、たった一つの吐息に終わった。

 マジで上手いプレイヤーとか、武術の達人とかは、視線や筋肉の動きで攻撃を読むと聞いたことがある。というか、今のは、どっちなのだろう?引っかかったが、対処したのか、引っかからなかったのか…。分かんねえや。

 上手に受け流された刀。ここで引かないのが肝。

 流された方向へ、力を加えて婉曲に軌道変更。

 蛇のぬるりとした動きに似た動作で、振り下ろす。

 振り下ろすと言っても、ビビッて後ろに下がりながら。

 へっぴり腰の刀先端は、弾かれる。

 却って、ありがたい。反動で手元に戻ってきたのだ。

 毎度。戦いの都度、思う。俺って本当、変態な戦闘しか、しないな。

 とはいっても、それが俺の生命線にして、特徴。

 鎧通しをインベントリから抜く。

 二刀流でござそうろう。


「シィィィ…!」


 特殊な呼吸。何かしらのアクション予感。

 新しい攻撃パターン。さて。耐えられるかな。


「剣聖譚・偽典/烈日」


 静かに紡がれる、高い音色の言葉。

 カミヤの刀の周りに刀身と同じ長さの、白いエフェクト。数は…いっぱい。

 それは、案の定/定石/鉄板。に俺へ、一斉に振り下ろされ、突撃し、斬り上げる。

 無数の斬撃。二刀流は正解かな?

 防ぐ方法?

 はっはー!そりゃ気合いだよ!!


「ゴラァッ!」


 二刀を一気に振り回す。

 何となく狙ってみてはいる。

 当たらそうなモンだが、どうやら、接触判定が広いよう。

 数センチ内に入れば、勝手に消える。耐久性は低い。ラッキー。…ダメージの方は保証できんがな。はて、当たらなければよいのだろう?

 足の位置を変え、攻撃範囲からの地面を減らし、腕を早く振るう。

 素早く引き戻し、方向角度を変化。また、体の斜角を微調整。

 激しい動きに、編み笠もズレそうになって、纏めた髪が揺さぶられるのを感じる。

 続く弾幕。その時間、十五秒。カミヤは動いていない。

 技の反動か、舐めプか。いや、前者だな。息が乱れている。

 隙に二刀を納刀―――、

 ―――溜め、

 …射。


「いっ!」

「息が乱れてるねえ。だいじょーぶー?」

「余計なお世話です」


 クロス型の抜刀は防がれるが、鍔迫り合いに持っていく。

 今までの速度からの一挙加速。目が追いつかないだろう…ふっふっふ。

 二刀を平行に並べて、押し付ける。

 カミヤは刀を横にして、両手で押さえて耐えている。

 綺麗な戦い方するね~。

 でも、悪いね。俺、苛々してるんだわ。


「死ねえい!」

「く!かはっ!」


 踏ん張って耐えているところに、腹蹴り。

 尻もち着いたところに、顎蹴り。顔面蹴り。

 後ろに、倒れ込んだところをに、特攻。

 鎧通しは、インベントリに投げ捨てる。餓狼刀も投げ捨てる。

 馬乗りになり、餓狼刀の鞘を引き抜き、カミヤの顔面に叩きこむ。

 肉弾戦での組手。意外とこっちの方が得意だったりする。

 鞘を両手で逆手持ち。かと思えば、振り下ろす。

 アイスピックで氷を砕いている光景を思い浮かべて欲しい。

 今の状況はそれだ。

 アイスピックは鞘、氷はカミヤ。

 連続で止まることなく、振り下ろし続ける。

 酸素が足らんぞ!

 血が足らぬ!

 俺は!君が!死ぬまで!止めない!






 …―――After a one minutes………………






 顔面崩壊。モザイクレベルの惨状を残し、俺は勝った。

 アイム、ウィナー!

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