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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第五章・続 剣聖試練【記憶回廊編】
50/64

Episode.48 退職社畜の別視点/参

PL(プレイヤー).ライダー】


「どどどどっどどうしよう!?私、女だよ!男湯入れないよ!」

「お、落ち着いてください!ライダー」


 動揺しすぎて、声の制限設定が解除されてしまう。

 ゲーム内の声より、数トーン高い声が漏れる。

 ルナレナも動揺してるし。


「それよりも、まずは仕事でしょう」

「でも!温泉あるって…!バツが…。楽しみだなって…」

「一緒に入るとは限らないでしょう」

「バツ絶対に、私の事、()と思ってるよ!だって、下ネタとか振ってくるときあるし!」

「アナタがそういうネタ好きなのも原因でしょう!少しは乙女らしくしてください!」


 ルナに怒鳴られて、ある程度正気に戻る。

 ま、まあ、確かに、私も下なネタも普通に話すけど…。

 …私のせい、なのかなぁ?

 あんだけ、分かりやすく接しといて、気づかないかな?普通。

 一回だけ、地声出しちゃったこともあったのに。空耳だと思われた。

 そ、それは、それで、私も()として、複雑な…―――、


「何かしら、理由つけて、回避したらどうです?リアルで用事があるから、とか。私、水苦手だから、とか」

「行くって、感じだったじゃん…。私も行きたいオーラ出しちゃったし、あんな話しちゃったら行くしかないじゃん…」

「これだから、考え無しは…」


 ルナは、頭を抱えて悩む。

 ルナレナにいは、いつも迷惑掛けてるから、あんまり頼りたくないけど、今回ばかりは致し方なし。申し訳ない。頭が上がらないなあ。


「どうしよー…るぅなー、どうにかしてー、私を男にしてー」

「無理言わないでください。あと、本名言わないでください。誰かいたらどうするんですか」

「聞かれる心配ないよー。ここ、防音防犯完璧だし―」

「それでもです!何なら、マリモにでも、相談してきたらどうです!私じゃなくて」

「わー!ごめんごめん!私が悪かったよー…。だから、一緒に考えてよー」

「……ホントに仕方無い人ですねえ。なんでこんな人と友達になってしまったのでしょうか…?」

「うわ~ん、ルナが虐める~!」

「はいはい、よしよし」


 ルナは、慣れた手つきで、私の頭を撫でる。

 これ、今のスキンの見た目だと、凄い誤解受けそう。気を付けよ。


「「どうしようか(しら))」」


 はぁー…無理そう…諦めて、行くしかないのかな。


「そのまま、行ったらどうです?どうせ、LFOの温泉やプールは全て水着なんですから」

「で、でも~…水着でも、男の人だよ?裸体だよ?頭大丈夫?」

「どっちがですか!!」

「うひゃあ!」


 怒声に肩が跳ねる。びっくりしたー。

 ルナも分かってるのかな?

 私、あんまり男の人、得意じゃないし、むしろ苦手。

 下ネタ好き…てわけでもないけど、知識があるのも、男子と話せるようになるため。

 裸体とか、上半身だけでも、漫画とかでしか、見たことない。


「アナタ、BLの本とか何冊も持ってたじゃ、ないですか。ほら、念願のボーイズラブですよ?よかったですね」

「自分が男の人になってどうすんの!」

「なら、他に策が?なんなら、告白してみては」

「ふぇ?!」

「いっそのこと、自分が()()()()()()みるのは」

「…う~ん。それも手か…」

「考えるのも、いいですが、取り合えず仕事をやってもらっても?」

「う、うん」


 悩みながらも、書類のタワーと向き合った。

 どうしようかな。本当に。






 ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦






【ログイン中】


 やはり、思うのだよね。

 最初に、指を切り落としたのは拙かった、と。

 切り落としてしまったら、そこで終わりではないか。

 せめて、指を折るに留めておけばよかった。

 そうすれば、折った後に切り落とせるし。

 ん…?何かが可笑しい?何だろう…?道徳(モラル)かな?

 なあ。君もそう思わない?


「おーい、大丈夫かー?」呼び掛けるが反応は無い。「もう壊れちゃったか…」

「―――」


 途中で、先の事に気づいて、指を折り始めたがそうすると、遂に意識が…ねえ?

 ちょっと、やり過ぎちゃったかも。

 だけど、支配は解除されてるみたいだ。

 感情が一定を超えると、支配権が手放されるとか、常時操作していたとかなのかもしれないな。気絶させちゃったし、好都合。

 ところで、試練は終わったのだろうか?試練内容は、制圧だったが、王様が偽の王。捕まえても、民は言うこと聞かないだろう。

 あ、良いこと思い付いた。


「君達も許せないよね?この偽王を」


 俺へと注がれる、幾百もの視線。それは支配されていた民達のもの。

 光無い目では無く、赤黒く、憤怒と憎悪が渦巻く目。感情が向く先は気絶した王。

 自らを洗脳支配して、偽りの生活を送らせ、自由を奪った王。

 これまで統治していた王を、騙し殺した王。

 さあ、どうなるのか。ああ!愉快だ。


「好きにすると良い。俺は関わらないし、止めもしない。ただの傍観者」

「「「「「……」」」」」

「こいつを、磔にするなり、殺すなり。好きにしろ。その方が面白そうだ」


 動き出す、民。手には、そこらにあった木片や、金属片。折れた鍬に欠けた刀。

 つくづく思うよ。俺は本当に性格が悪い。

 それでも、止められないし、辞められない。

 人が醜い部分を出し、悪感情を曝け出して、潰し合う。

 これほど面白い喜劇はあろうか!?


「や、やめろ…何をする…わしは…わ、わしは、王じゃぞ……王なのだ―――」


 声は途切れた。

 残るのは、擦れた悲鳴と、逃した酸素を吸う吐息。

 微笑みながら見守っていると、視界は白に埋め尽くされた。





 …。






「塵ですね」

「それほどでもないな」

「褒めておりません」


 カミヤも、俺に慣れて来たのか、額に手を当てて、ぶつくさしてる。


「…この人選んだの失敗だったかな」

「そんなこと言うなよー。選んで正解だよー」

「地獄耳か…」


 悪意には、人一倍敏感なんでね。

 てかさ、人一倍って、一倍だから、何も変わって無くね?

 こう思うの俺だけ?


「手法はどうあれ、制圧は成されました。認めましょう。では、三つ目の試練です」

「まだ、あんのかよ。だる」

「では、行ってらっしゃいませ」


 俺の言葉をガン無視したカミヤは、手を振った。

 意識は沼に沈むように、ゆっくりとブラックアウトした。


 で、


「到着」

『次の試練は溢れ出る敵を全滅させてください』


 ほう…。ウェーブ制のバトルマッチかな。


『侮るなかれ。物の怪の将は剣聖が友也。其は【心友殺し】の英雄為れば』


 早く、試練終わんないかな。

 温泉入りたい。

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