Episode.48 退職社畜の別視点/参
【PL.ライダー】
「どどどどっどどうしよう!?私、女だよ!男湯入れないよ!」
「お、落ち着いてください!ライダー」
動揺しすぎて、声の制限設定が解除されてしまう。
ゲーム内の声より、数トーン高い声が漏れる。
ルナレナも動揺してるし。
「それよりも、まずは仕事でしょう」
「でも!温泉あるって…!バツが…。楽しみだなって…」
「一緒に入るとは限らないでしょう」
「バツ絶対に、私の事、男と思ってるよ!だって、下ネタとか振ってくるときあるし!」
「アナタがそういうネタ好きなのも原因でしょう!少しは乙女らしくしてください!」
ルナに怒鳴られて、ある程度正気に戻る。
ま、まあ、確かに、私も下なネタも普通に話すけど…。
…私のせい、なのかなぁ?
あんだけ、分かりやすく接しといて、気づかないかな?普通。
一回だけ、地声出しちゃったこともあったのに。空耳だと思われた。
そ、それは、それで、私も女として、複雑な…―――、
「何かしら、理由つけて、回避したらどうです?リアルで用事があるから、とか。私、水苦手だから、とか」
「行くって、感じだったじゃん…。私も行きたいオーラ出しちゃったし、あんな話しちゃったら行くしかないじゃん…」
「これだから、考え無しは…」
ルナは、頭を抱えて悩む。
ルナレナにいは、いつも迷惑掛けてるから、あんまり頼りたくないけど、今回ばかりは致し方なし。申し訳ない。頭が上がらないなあ。
「どうしよー…るぅなー、どうにかしてー、私を男にしてー」
「無理言わないでください。あと、本名言わないでください。誰かいたらどうするんですか」
「聞かれる心配ないよー。ここ、防音防犯完璧だし―」
「それでもです!何なら、マリモにでも、相談してきたらどうです!私じゃなくて」
「わー!ごめんごめん!私が悪かったよー…。だから、一緒に考えてよー」
「……ホントに仕方無い人ですねえ。なんでこんな人と友達になってしまったのでしょうか…?」
「うわ~ん、ルナが虐める~!」
「はいはい、よしよし」
ルナは、慣れた手つきで、私の頭を撫でる。
これ、今のスキンの見た目だと、凄い誤解受けそう。気を付けよ。
「「どうしようか(しら))」」
はぁー…無理そう…諦めて、行くしかないのかな。
「そのまま、行ったらどうです?どうせ、LFOの温泉やプールは全て水着なんですから」
「で、でも~…水着でも、男の人だよ?裸体だよ?頭大丈夫?」
「どっちがですか!!」
「うひゃあ!」
怒声に肩が跳ねる。びっくりしたー。
ルナも分かってるのかな?
私、あんまり男の人、得意じゃないし、むしろ苦手。
下ネタ好き…てわけでもないけど、知識があるのも、男子と話せるようになるため。
裸体とか、上半身だけでも、漫画とかでしか、見たことない。
「アナタ、BLの本とか何冊も持ってたじゃ、ないですか。ほら、念願のボーイズラブですよ?よかったですね」
「自分が男の人になってどうすんの!」
「なら、他に策が?なんなら、告白してみては」
「ふぇ?!」
「いっそのこと、自分が女だと伝えてみるのは」
「…う~ん。それも手か…」
「考えるのも、いいですが、取り合えず仕事をやってもらっても?」
「う、うん」
悩みながらも、書類のタワーと向き合った。
どうしようかな。本当に。
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やはり、思うのだよね。
最初に、指を切り落としたのは拙かった、と。
切り落としてしまったら、そこで終わりではないか。
せめて、指を折るに留めておけばよかった。
そうすれば、折った後に切り落とせるし。
ん…?何かが可笑しい?何だろう…?道徳かな?
なあ。君もそう思わない?
「おーい、大丈夫かー?」呼び掛けるが反応は無い。「もう壊れちゃったか…」
「―――」
途中で、先の事に気づいて、指を折り始めたがそうすると、遂に意識が…ねえ?
ちょっと、やり過ぎちゃったかも。
だけど、支配は解除されてるみたいだ。
感情が一定を超えると、支配権が手放されるとか、常時操作していたとかなのかもしれないな。気絶させちゃったし、好都合。
ところで、試練は終わったのだろうか?試練内容は、制圧だったが、王様が偽の王。捕まえても、民は言うこと聞かないだろう。
あ、良いこと思い付いた。
「君達も許せないよね?この偽王を」
俺へと注がれる、幾百もの視線。それは支配されていた民達のもの。
光無い目では無く、赤黒く、憤怒と憎悪が渦巻く目。感情が向く先は気絶した王。
自らを洗脳支配して、偽りの生活を送らせ、自由を奪った王。
これまで統治していた王を、騙し殺した王。
さあ、どうなるのか。ああ!愉快だ。
「好きにすると良い。俺は関わらないし、止めもしない。ただの傍観者」
「「「「「……」」」」」
「こいつを、磔にするなり、殺すなり。好きにしろ。その方が面白そうだ」
動き出す、民。手には、そこらにあった木片や、金属片。折れた鍬に欠けた刀。
つくづく思うよ。俺は本当に性格が悪い。
それでも、止められないし、辞められない。
人が醜い部分を出し、悪感情を曝け出して、潰し合う。
これほど面白い喜劇はあろうか!?
「や、やめろ…何をする…わしは…わ、わしは、王じゃぞ……王なのだ―――」
声は途切れた。
残るのは、擦れた悲鳴と、逃した酸素を吸う吐息。
微笑みながら見守っていると、視界は白に埋め尽くされた。
…。
「塵ですね」
「それほどでもないな」
「褒めておりません」
カミヤも、俺に慣れて来たのか、額に手を当てて、ぶつくさしてる。
「…この人選んだの失敗だったかな」
「そんなこと言うなよー。選んで正解だよー」
「地獄耳か…」
悪意には、人一倍敏感なんでね。
てかさ、人一倍って、一倍だから、何も変わって無くね?
こう思うの俺だけ?
「手法はどうあれ、制圧は成されました。認めましょう。では、三つ目の試練です」
「まだ、あんのかよ。だる」
「では、行ってらっしゃいませ」
俺の言葉をガン無視したカミヤは、手を振った。
意識は沼に沈むように、ゆっくりとブラックアウトした。
で、
「到着」
『次の試練は溢れ出る敵を全滅させてください』
ほう…。ウェーブ制のバトルマッチかな。
『侮るなかれ。物の怪の将は剣聖が友也。其は【心友殺し】の英雄為れば』
早く、試練終わんないかな。
温泉入りたい。




