Episode.47 退職社畜の王殺
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「行け!我が獣たちよ!」
「「「「Kuoooooooooooo」」」
奇怪な、叫び声を上げて、突貫する宝石獣。
速度はまずまず。俺の最大速度よりは、数段遅い。速度面では上取ってる。
ならば、防御―――
「ふっ…!」
抜刀。しかし、返って来たのは、硬い感触。
この頃、こんなんばかりで困るんだよ。俺の持ち味、殺さないでくれ。
HPバーを確認。ドット数ミリ削れてる。五パーセントも削れねえのかよ。しんど。
後ろにジャンプ。次いで飛ぶ、斬撃。宝石で創られた爪は、鋭利で斬撃と化している。
短くバックステップを続ける。宝石獣は、見事なコンビネーションで俺を攻撃。
ジグザグに逃げて、避けつつ、考える。
―――硬度は、見た目通り。速度は、鈍重。攻撃力は見て測った
戦局…不利かな。
数的不利に、肉体能力不利。勝っているのは、俊敏性。
いい感じのスキルないかなー…岩穿ちのクールタイムが終わってる。
丁度良い。宝石も、鉱物だよな?
攻撃面は解決。後は、立ち回りが重要。
同じく生み出された存在として、コンビネーションが得意な宝石獣。
上手く、立ちまわって俺を追い詰めんとしている。
それを利用して、挟み込まれる立ち回りを自らする。
その時に、餓狼刀と鎧通しを入れ替えて持つ。
ギリギリまで、引きつけて…股下スライディング。
一体の宝石獣の後ろに回って、背後を取る。
「…チッ」
追随する影が。
もう一体の宝石獣だ。俺が抜けた、瞬間に回り込んでいた。反応の早いことよ。
けれど、充分不足ない位置。
「岩穿ち」
居合で然りと計った、距離での抜刀。
その上でタイミングをほんの少しズラしてスキルを発動。
パッシブスキル補助で加速した鎧通しは、切っ先が宝石獣に触れると間際にアクティブスキルの効能を発揮。奇妙な現象が起きる。
裂くと突くのダメージ種類が同時に発生するのだ。
前に進行しながら、宝石体を斬り裂くという現象。
抜刀の横方向への移動と、突きの前への移動が、噛み合ってゆっくりと刃が進む。
豆腐を切るように、ぬるりとした感触で宝石が、分かれる。
二体同時に、体が上下で泣き別れになった宝石獣はゴトンと地面に落ちる。
警戒する残った、宝石獣。
「な…!?」
王様の驚きの声が聞こえた。ざまぁ。
鎧通しの隠し効果も功を奏した様で。鎧通しの隠し効果は、一定の硬度を持つ物体へのダメージが増加だ。分かりやすいだろう。
堅牢な鎧を貫くための刀なだけはある。
さ、残り、五体か何体か。
やることは同じ。岩穿ちのクールタイムを待って、溜まったら放って殺す。
疲れそうだが、やらなきゃならん。
気合い入れよか。
………
……
…
「ぬ、ぬぅー…、儂の従僕がやられるなどっ…」
「とっとと、降伏すっか、死ぬか選べ」
三十分ほど掛けて、宝石獣を全体倒した。
王は、未だに信じられないよう。顔に皺を生んで、唸っている。
「…じゃが、よいのか?」
「あん?何がだ」
王は、笑みを携えて邪悪に笑った。
この期に及んで、まだ策があるのか?
「儂の支配は、この国の民草、全てに及んでおる。儂を殺せば、民は一人残さず死ぬぞ!良いのか?!貴様は、我が国を墜とすのが使命であろう!?」
こいつ、何言ってやがる。
「儂を殺せば、この国の価値は無にも等しくなる。殺せるかのお」
どうしよっかなー。
俺の試練は、制圧だから、別に全員死んでても、然程問題ないんだよな。
でも、道徳的にどうなのだろうか。
「ふっふっふ。悩んでおるのう。じゃが、良いのか?そんなに隙を晒して?」
老害ジジイと呼ぼう。そうしよう。
ジジイは、黙っている俺を、悩んでいると勘違いしたか、嗤い始めた。
理由はすぐに分かった。俺の周囲に、人が集まっている。
その人等は、平素な品質の和服を着た人々…民だ。
考えるまでも無く、支配されていることが分かる。
目に感情が無く、動きも、単調…しかし数だけは、揃っている。
もしも、剣聖の立場であれば、人質の効果は如何程か?
更に、支配された人々は、俺を捕えようと包囲網を敷いている。
成程。カミヤが、民殺しと言っていた理由が。
あ~、剣聖さん、ヤっちゃったか。ま~、それも止む無し仕方無し。
民を殺すも、命令的に憚られる。かと言って、王を殺せば、民が全滅。
悩むよねー。拘束されるギリギリで、思い切って、この場にいる民を殺して、王も殺した感じか。思いのほか、剣聖もいい人やな。
だが、まだまだ、考えが足りん。
「判っり易い奴だな。考えが筒抜けだわ。もう少し、工夫とか無いの?ブラフ掛けるにしても、弱い弱い」
「何…?」
「一国の王が、そんなことする訳ねえじゃん。敵国が居る中、民を殺される可能が高いのに、わざわざ支配する必要性あるか?言動からするに、民を使い捨てにしてる。だったら、俺が侵入してきた時点で、民を使うはずだよなぁ。本当に使い捨てと思っているなら、な」
「……」
「図星か?それによお、可笑しくはねえか?」
「……」
「手前が死ねば、民が死ぬ。それは、生体がリンクしているって事だろ?ならば、その逆も、然りのはずだろぉ?自分が死ぬ直前で、命令で、自殺させるとかなら理解も出来るが、『儂が死ぬと、民も死ぬ』ぅ~?図に乗るな、三男坊風情が。考えが浅ぇーんだよ」
「黙れ!」
短絡的。
そういう、反応をしてしまえば、俺の空想論が当たっていると明言してるも同じ。
種明かしをするフリをして、ブラフを織り込ませて、探る。
王族の癖に、帝王学とか習わないのかね?
「真実が分かったとて、民を殺せぬのは分かっておるのだ!貴様の負けじゃ!掛かれい!!」
汚い笑い声が響く中、支配された人達が俺に襲い掛かる。
俺が王の立場でも、そうしたかもしれない。
民が殺されるのしろ、数で押せば勝てる。そう思う。
とはいえ、ジジイも考えるべきだ。
この場―――王の間まで、来た時点でソイツは、桁外れな実力だということに。
「死ねえ!剣聖ーッ!」
一息。吸吐。抜刀。円回転。
七人纏めて、首を刎ねる。宙に舞う首の、瞳が一瞬、色を取り戻す。
せめてもの救いに、瞬く間に殺してやった。
悪いが、俺は自分の為に他人を捨てれる、殺せる人間だ。
「なっ!?貴様―――ぐあっ!?!?」
「はい、どーん」
顔面に膝蹴りをかます。
ジジイの顔面が、変形するのを笑いながら力を加える。
「―――っかは、ぐぼぉ!?」
錐揉み回転したジジイは、背景の壁に激突。ウケるんですけど。笑。
倒れたジジイを引きずり起して、地面に押し倒して、首に刀を添える。
「おっと、動くなよ。命令も出すな。怪しい行動を取ったと思った瞬間殺す。そうでなくても殺す」
「…ッ!」
どっちにしろ、ぶっ殺します。以上!
「いいのか?儂が死ねば―――」
「それは、もういいよ。聞き飽きた。どうせ、嘘だろ。ダウト」
「何を根拠に…?」
「支配できるなら、解除も出来るよね?」
「儂がするとでも?」
「そりゃ、することになるさ。直ぐに分かる」
俺は、インベントリから、短剣を取り出す。サブウェポンの剣だ。
右手で、刀を押さえて、左手で短剣を持つ。
震えているジジイの指にぶっ刺す。力を込めて、断つ。
「ぎ、ギヤあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「ああ、煩いなぁ。だが、大丈夫だ。時間はたっぷりある。双方、納得いくまで話し合おう」
俺は短剣を振り上げた。




