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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第五章・続 剣聖試練【記憶回廊編】
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Episode.46 退職社畜のクズムーブ

【ログイン中】


『この場所にて次の試練です』

「クリアした感動もクソもねえのな」


 いや、早いでしょ。

 もう、少し休ませてちょ。

 新しいエリアに来たと思ったらすぐこれだよ。新エリアは、霧で隠れている。

 幽霊になった時に、一緒に置いて来ちゃったのかな。良心を。

 で、次の試練は何かな。


『敵対する国の街を歩いてください。それだけです』

「あっそ。楽そう」


 カミヤは霊体を薄れさせる。


『剣聖様は、国王に命じられて、敵国の首都までむざむざ出向きました。国王から出された命令は、一人で敵国を制圧せよ、でした。アナタには同じことをして貰います』

「剣聖も大変だねー。強い力には、責任が何とやらって本当なんだね」

『正に。侮るなかれ、【民殺し】の英雄為れば』


 風景は、一変。

 ルーシェの現在の建築物よりも、一段古い建物が立て並んだ街並み。

 広さは倍以上。荘厳な雰囲気だ。

 目の前の首都を陥落させれば、おけってこと。

 陥落てか制圧しろ、が指令だから、別に剣聖と同じく虐殺する必要も無し。剣聖が虐殺した根拠は、カミヤが先程言ってたし、明白。剣聖結構、凶悪だったのかも。

 俺の作戦はこう!


『民を脅迫(物理』


 え?物騒だなって?気のせいだ。気のせい。

 だってー、脅すだけなら平和でしょ?

 剣聖と同じ事だから、民はもちろん、敵対だよね。なら、脅せば平和的。

 余程のことが無い限り、この作戦も避けていくつもり。それでも、難癖付けて襲ってきたら……ねえ?

 静かに言うこと聞いてくれるね。それじゃ、ゴー!

 いそいそと、開かれた門に向かう。最奥には、巨大な城が見えている。


「奴が来たぞ!出会え出会え!」「キャーーーッ!人殺しよー!」「武士団、前に出ろ!民を守れ!」


 酷い現状だ。剣聖さん、何やらかしたんだよ。

 民衆は、俺を見るなり、悲鳴を上げて逃げ出し、自警団やら警察組織やらがわんさか集まって、俺を包囲する。当時、剣聖が敵国に嫌われていたことがよくわかる。

 予定通り、突撃ですな。所詮は、NPCの警団のレベルに、民間人。

 気負わず行こう。


「捕らえろー!」「殺せー!」「囲め囲めー!」

「遅過ぎ。雑魚乙」


 襲い来る武士達を、軽やかに避ける。

 いやはや、楽なもんよ。剣聖のトラップに比べれば、遅い襲い。

 俺の俊敏力に追いつけるNPCは居ないよう。楽なもんじゃのう。

 矢の雨が俺を狙って飛ぶ。ほれほれ、ちゃんと狙ってみい。

 俊敏が高いと、移動に関する事項は大抵何でもできる。例えば、こうして屋根に飛び移るとか。


「飽きて来たし行くか」


 煽りまくるのも楽しいけど、一応これは試練。終わらせるほかない。

 そんで、国を制圧する一番簡単な方法は何でしょう?

 日本に近い舞台のルーシェ系の国。将軍とか殿が仕切ってる可能性が高い。

 つまり、その頭役を押さえれば、終わり。

 ステップ踏みながら、屋根上を移動。

 早めに走っているから、もう追いつけない。

 たん、たん、たたたん。ビート刻むぐらい余裕ある。以外にも楽。


「取り囲め!これ以上、前に進ませるな!」

「「「オオォォォォォオォォォオォォオォォォ!!!」」」


 兵多すぎ。

 城に侵入した途端に、集まる武士達。その数、目算でも三百を超えている。

 それ以上数えるのは、憂鬱。

 うんざりするなあ。逃げ道無いし。

 天井にも、忍者モドキが張り付いてるし、退路は断たれた。

 突撃あるのみ!と、言うとでも思ったか。

 俺が、そんな殊勝なことする訳ないじゃーん。

 やむなし。当初の作戦通りにいくしかないのか…。

 仕方ないなー!俺もやりたくはないんだけどなー(棒)


「よっ!」


 天井にへばり付いてる忍者を、引っ張って引きずり落として、天井に立つ。

 引き続き、忍者を蹴り落して、地上から突かれる槍を避ける。

 十数メートル走って、地上に降りる。

 兵の波を超えた先の、上官を捕まえる。さっき指示出してたしね。

 餓狼刀を、首の横に置いて…、脅迫図 ~餓狼刀・上官の首に添えて~ の完成となります。


「こいつの命が惜しけりゃ、王ンとか案内しな」

「くっ…!外道め!構わぬ、私ごと撃て!」

 …。

「だよねー。そう簡単に、上官は撃てないよね~。ほら、さっさと案内しろや」


 動かない。

 軍隊的に、上官が殺されるのは、拙い。

 だが、仕えている人の元へ連れて行くことも出来ない。そんなところか。

 なら、王様守らね?上官より、仕えている人の方が大事でしょ。

 まま、そこはNPCの知能だし、期待しちゃ駄目か。


「構え―い!」


 動きアリ。奥から、火縄銃持った奴らが出てきやがった。

 チッ!時間稼ぎか!


「放てーい!」

 パンパンパンパンパンパン!

「上官シールド!」


 俺?掴んでる上官を、盾にしたけど?

 ゲス?仕方ないじゃん。防げそうな手段無いし。

 防御スキルはあるけど、貫通しそうだし。

 上官の人は、手元でぐったりしてる。

 う~ん…どうしようか。人質作戦が上手く行かないなら、別の偉い奴人質にしようか。

 次なる犠牲者を探し求めて、歩き始めた。


 あっ、お前邪魔…なので首狩り。

 可哀そうに。そこに居たばかりに。俺がやったんだけど。

 むむ!警備が多いとこ発見。重要人物いる可能性。


「殺せ!なんとしても、食い止め!」「奥方、逃げてくだされ!」


 へー。奥さんいるんだ。王様の。良い、人質になりそう。

 おいそこ!クズって言わない!

 オレダッテココログルシインダヨー。

 けど、試練だし。所詮、記憶世界だからさ。問題無いっしょ。


「はいはい、失礼しますねー」

「…」


 あら。以外に静か。

 奥方とやらは、十二単を着ている美人さん。

 異質なのは、目にハイライトが無いこと。心あらずって感じ。


「退け」

「ぎゃあああ!」


 斬り上げで、護衛を倒す。

 諸々も、首狩り、突き刺しで一撃KOしてく。急所狙うの得意なんで。


「捕まえーた」

「…」


 未だ、一言も話さず。

 抵抗は無し。首に刀を置いて、廊下に出る。


「皆さん、聞いてくださいねー。この人殺されたくなかったら、王様のとこ案内してねー。…付いてくんなよ?殺すぞ」


 俺の言葉は兵の間で、伝播する。広がる動揺。

 そして、おずおずと上司的役割が案内しだす。

 敵意マシマシ。ひゃー怖い。


「此処だ。……糞が…ッ」

「ご苦労様。そして、サヨウナラ」

「かはっ…!?」


 残念ながら、案内役はご臨終なされました。

 また、どこかでクズって言われた気がしたよ。だ、だって、リスクの排除は大事でしょ?


「貴様か。侵入者というのは」

「大正解…」


 広間の奥に鎮座する、五十過ぎのおっさんに言われる。

 言葉が、尻すぼみになってしまう。

 威圧というか、風格が違うわ。物理的な風が、顔を押しているというか。な。

 眼帯をつけていることも、それを一押ししている。


「望みは、何じゃ?言うてみぃ。何なら、金板千枚出そう。こちらに付かぬか?」


 そいつが手を二度叩くと、座敷の襖から侍が、台座に乗った金塊を運んでくる。

 スッゲ。見たことねえよ。欲しいなー。現実で。

 ゲームで貰っても仕方ない。それに、そっち側に付いたら、試練不合格。付くメリットが無い。設定とはいえ、剣聖はよく断れたものだ。俺だったら、速攻で付いてる。


「悪ィな。付くつもりねえんだわ」

「そうか…残念じゃ…。ならば、死ぬしか道は無いのぉ」


 おっさんは、次に手を一度叩いた。

 出現したのは、驚きの生物。なんと、宝石で象られた獣。

 美しく輝く宝石で、構成された獣等は、本物と同じ動き。唸り声すらも上げている。

 俺的に驚愕に値する、生き物(?)だが、周りの武士達は声一つ上げない。

 感情を無くしたかのように突っ立っている。不気味です。


「これが、儂の力じゃ。三男坊である儂じゃが、この力で、成り上がった!人の精神を支配し、操り、この神獣を遣わすこの力で!」


 興奮したように、おっさんは、眼帯を取った。

 眼球があるはずの場所には、深紅の宝石が収められていた。

 すごー…キモイ。凄くないわ。キモイわ。普通に。


「どうじゃ?美しいであろう…?これが至宝…支配の宝玉である」


 馬鹿なのかな?ペラペラ情報、吐いてくれるな。

 ここら辺は、やっぱり三男坊か。ロクな教育を受けてないからか、悉く情報吐いてくれるよ。

 もしかしなくても、奥方や、武士達が支配されているのだろう。

 ひとまず、獣は、宝石獣と呼称しよう。

 動かない奥方は、突き飛ばして、操り人形の武士達のとこに飛ばす。


「さ、どう捌きますかね」

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