Episode.46 退職社畜のクズムーブ
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『この場所にて次の試練です』
「クリアした感動もクソもねえのな」
いや、早いでしょ。
もう、少し休ませてちょ。
新しいエリアに来たと思ったらすぐこれだよ。新エリアは、霧で隠れている。
幽霊になった時に、一緒に置いて来ちゃったのかな。良心を。
で、次の試練は何かな。
『敵対する国の街を歩いてください。それだけです』
「あっそ。楽そう」
カミヤは霊体を薄れさせる。
『剣聖様は、国王に命じられて、敵国の首都までむざむざ出向きました。国王から出された命令は、一人で敵国を制圧せよ、でした。アナタには同じことをして貰います』
「剣聖も大変だねー。強い力には、責任が何とやらって本当なんだね」
『正に。侮るなかれ、【民殺し】の英雄為れば』
風景は、一変。
ルーシェの現在の建築物よりも、一段古い建物が立て並んだ街並み。
広さは倍以上。荘厳な雰囲気だ。
目の前の首都を陥落させれば、おけってこと。
陥落てか制圧しろ、が指令だから、別に剣聖と同じく虐殺する必要も無し。剣聖が虐殺した根拠は、カミヤが先程言ってたし、明白。剣聖結構、凶悪だったのかも。
俺の作戦はこう!
『民を脅迫(物理』
え?物騒だなって?気のせいだ。気のせい。
だってー、脅すだけなら平和でしょ?
剣聖と同じ事だから、民はもちろん、敵対だよね。なら、脅せば平和的。
余程のことが無い限り、この作戦も避けていくつもり。それでも、難癖付けて襲ってきたら……ねえ?
静かに言うこと聞いてくれるね。それじゃ、ゴー!
いそいそと、開かれた門に向かう。最奥には、巨大な城が見えている。
「奴が来たぞ!出会え出会え!」「キャーーーッ!人殺しよー!」「武士団、前に出ろ!民を守れ!」
酷い現状だ。剣聖さん、何やらかしたんだよ。
民衆は、俺を見るなり、悲鳴を上げて逃げ出し、自警団やら警察組織やらがわんさか集まって、俺を包囲する。当時、剣聖が敵国に嫌われていたことがよくわかる。
予定通り、突撃ですな。所詮は、NPCの警団のレベルに、民間人。
気負わず行こう。
「捕らえろー!」「殺せー!」「囲め囲めー!」
「遅過ぎ。雑魚乙」
襲い来る武士達を、軽やかに避ける。
いやはや、楽なもんよ。剣聖のトラップに比べれば、遅い襲い。
俺の俊敏力に追いつけるNPCは居ないよう。楽なもんじゃのう。
矢の雨が俺を狙って飛ぶ。ほれほれ、ちゃんと狙ってみい。
俊敏が高いと、移動に関する事項は大抵何でもできる。例えば、こうして屋根に飛び移るとか。
「飽きて来たし行くか」
煽りまくるのも楽しいけど、一応これは試練。終わらせるほかない。
そんで、国を制圧する一番簡単な方法は何でしょう?
日本に近い舞台のルーシェ系の国。将軍とか殿が仕切ってる可能性が高い。
つまり、その頭役を押さえれば、終わり。
ステップ踏みながら、屋根上を移動。
早めに走っているから、もう追いつけない。
たん、たん、たたたん。ビート刻むぐらい余裕ある。以外にも楽。
「取り囲め!これ以上、前に進ませるな!」
「「「オオォォォォォオォォォオォォオォォォ!!!」」」
兵多すぎ。
城に侵入した途端に、集まる武士達。その数、目算でも三百を超えている。
それ以上数えるのは、憂鬱。
うんざりするなあ。逃げ道無いし。
天井にも、忍者モドキが張り付いてるし、退路は断たれた。
突撃あるのみ!と、言うとでも思ったか。
俺が、そんな殊勝なことする訳ないじゃーん。
やむなし。当初の作戦通りにいくしかないのか…。
仕方ないなー!俺もやりたくはないんだけどなー(棒)
「よっ!」
天井にへばり付いてる忍者を、引っ張って引きずり落として、天井に立つ。
引き続き、忍者を蹴り落して、地上から突かれる槍を避ける。
十数メートル走って、地上に降りる。
兵の波を超えた先の、上官を捕まえる。さっき指示出してたしね。
餓狼刀を、首の横に置いて…、脅迫図 ~餓狼刀・上官の首に添えて~ の完成となります。
「こいつの命が惜しけりゃ、王ンとか案内しな」
「くっ…!外道め!構わぬ、私ごと撃て!」
…。
「だよねー。そう簡単に、上官は撃てないよね~。ほら、さっさと案内しろや」
動かない。
軍隊的に、上官が殺されるのは、拙い。
だが、仕えている人の元へ連れて行くことも出来ない。そんなところか。
なら、王様守らね?上官より、仕えている人の方が大事でしょ。
まま、そこはNPCの知能だし、期待しちゃ駄目か。
「構え―い!」
動きアリ。奥から、火縄銃持った奴らが出てきやがった。
チッ!時間稼ぎか!
「放てーい!」
パンパンパンパンパンパン!
「上官シールド!」
俺?掴んでる上官を、盾にしたけど?
ゲス?仕方ないじゃん。防げそうな手段無いし。
防御スキルはあるけど、貫通しそうだし。
上官の人は、手元でぐったりしてる。
う~ん…どうしようか。人質作戦が上手く行かないなら、別の偉い奴人質にしようか。
次なる犠牲者を探し求めて、歩き始めた。
あっ、お前邪魔…なので首狩り。
可哀そうに。そこに居たばかりに。俺がやったんだけど。
むむ!警備が多いとこ発見。重要人物いる可能性。
「殺せ!なんとしても、食い止め!」「奥方、逃げてくだされ!」
へー。奥さんいるんだ。王様の。良い、人質になりそう。
おいそこ!クズって言わない!
オレダッテココログルシインダヨー。
けど、試練だし。所詮、記憶世界だからさ。問題無いっしょ。
「はいはい、失礼しますねー」
「…」
あら。以外に静か。
奥方とやらは、十二単を着ている美人さん。
異質なのは、目にハイライトが無いこと。心あらずって感じ。
「退け」
「ぎゃあああ!」
斬り上げで、護衛を倒す。
諸々も、首狩り、突き刺しで一撃KOしてく。急所狙うの得意なんで。
「捕まえーた」
「…」
未だ、一言も話さず。
抵抗は無し。首に刀を置いて、廊下に出る。
「皆さん、聞いてくださいねー。この人殺されたくなかったら、王様のとこ案内してねー。…付いてくんなよ?殺すぞ」
俺の言葉は兵の間で、伝播する。広がる動揺。
そして、おずおずと上司的役割が案内しだす。
敵意マシマシ。ひゃー怖い。
「此処だ。……糞が…ッ」
「ご苦労様。そして、サヨウナラ」
「かはっ…!?」
残念ながら、案内役はご臨終なされました。
また、どこかでクズって言われた気がしたよ。だ、だって、リスクの排除は大事でしょ?
「貴様か。侵入者というのは」
「大正解…」
広間の奥に鎮座する、五十過ぎのおっさんに言われる。
言葉が、尻すぼみになってしまう。
威圧というか、風格が違うわ。物理的な風が、顔を押しているというか。な。
眼帯をつけていることも、それを一押ししている。
「望みは、何じゃ?言うてみぃ。何なら、金板千枚出そう。こちらに付かぬか?」
そいつが手を二度叩くと、座敷の襖から侍が、台座に乗った金塊を運んでくる。
スッゲ。見たことねえよ。欲しいなー。現実で。
ゲームで貰っても仕方ない。それに、そっち側に付いたら、試練不合格。付くメリットが無い。設定とはいえ、剣聖はよく断れたものだ。俺だったら、速攻で付いてる。
「悪ィな。付くつもりねえんだわ」
「そうか…残念じゃ…。ならば、死ぬしか道は無いのぉ」
おっさんは、次に手を一度叩いた。
出現したのは、驚きの生物。なんと、宝石で象られた獣。
美しく輝く宝石で、構成された獣等は、本物と同じ動き。唸り声すらも上げている。
俺的に驚愕に値する、生き物(?)だが、周りの武士達は声一つ上げない。
感情を無くしたかのように突っ立っている。不気味です。
「これが、儂の力じゃ。三男坊である儂じゃが、この力で、成り上がった!人の精神を支配し、操り、この神獣を遣わすこの力で!」
興奮したように、おっさんは、眼帯を取った。
眼球があるはずの場所には、深紅の宝石が収められていた。
すごー…キモイ。凄くないわ。キモイわ。普通に。
「どうじゃ?美しいであろう…?これが至宝…支配の宝玉である」
馬鹿なのかな?ペラペラ情報、吐いてくれるな。
ここら辺は、やっぱり三男坊か。ロクな教育を受けてないからか、悉く情報吐いてくれるよ。
もしかしなくても、奥方や、武士達が支配されているのだろう。
ひとまず、獣は、宝石獣と呼称しよう。
動かない奥方は、突き飛ばして、操り人形の武士達のとこに飛ばす。
「さ、どう捌きますかね」




