Episode.43 退職社畜の剣聖試練
短めです。
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「何やってんですか!?今のは、重要なストーリーだったでしょう!?」
「ふざけるなっ!俺がどれだけ危険と苛立ちを剣聖に与えられたか!?分かるかっ、貴様にー!」
怒鳴られたので、怒鳴り返す。
仕方ない。だって、俺死にそうになったんだもの。ゲームだけど。
うんうむ。ではでは、君に問おうではないか。
苦労して、推理して、頭と糖を浪費した後にさ。
どこかのアホのせいで精神摩耗して。
わざわざ、隠し部屋に行かされて。
何重にもトラップ仕掛けたのを対処し。
たと思ったら、針の罠で、死にかけて。
三重底の引き出しで、謎の物を貰って。
どこかのアホのせいで、地下崩れて。
そして、最終的にその原因が現れる。
「ふぅー…」
蹴るよね。
ホントは、前蹴りで、前歯折ってやろうかなと思っていたが、まあ妥協(多分)してドロップキックしたのだが…ダメ?
え。皆、実際に当人になってみれば、分かるよ。どれだけ俺がストレスを、受けていたか。理解できるかな~。マジでウザいから。
「イラつくのはわかりますが…」
「分かるかぁ!?貴様にィ!俺の気持ちがァ?!」
「す、すいません…」
何故か頭を下げるレイラン。
べっつに~。俺怒ってないけど~。
「あ、あの、申し訳ないのですが…お話を聞いてもらえないでしょうか…」
「あーん?ンだよ、オメェ?今の俺は剣聖だろうとブッコロだぞ。ブッコロ」
「先輩、少し話を聞いてあげましょうよ」
「おまいう」
レイランと様々なことを話し合って、謎男の話を聞いてみることにした。
「おら、話せよ。いいから話せよ」
「は、はい…。私は―――」
俺がドロップキックを決めたにしろ、大丈夫なのかとは思ったが、どうやら彼は非実体らしい。気になっていた、正体は剣聖―――の、付き人だった人、らしい。聞くには、盲目の剣聖の補佐としてお偉いさんに付けられた付き人兼監視官だとか。だが、この付き人には、知らされてなかったとか。
「お前の名前はぁ?」
「ガラ悪っ」
「私の名前は、カミヤと申します。よろしくお願いします」
空中で、ペコリと頭を下げるカミヤ。
「はいはい。よろよろ」「よろしくお願いします」
「そ、その…先の話の続きなのですが…」
オドオドした様子で、話し掛けられる。
そんなビビんなくてもいいのに。ねえ?ここにいるのは、優しい俺と、優しいけどアホで脳筋な鬼武者だけだよ。あ。ビビる要素あったわ。レイランだわ。
なんだよ、レイラン。何、見てんだよ。
「厚かましいと、思うのですが、頼みたいことがありまして」
「何?言うてみ」
「それは、アナタに剣聖を継いで欲しい―――」
「良いよぉ」
「のです…早いですね…いいんですか?」
「おーるおっけー。強くなれるんでしょ」
右手の親指と人差し指で、丸を作る。
一応、レイランの方に目を向けて、意思確認してみる。お前はいいの?って。
レイランは、微笑んで、首を横に振って、目で語る。「私はいいです」
じゃ、遠慮なく。
「剣聖の力は強大です。歴代の剣聖の中には、力に溺れた者もいます。逆に力のせいで、狙われる可能性も大いに有り得ます」
カミヤは俺の眼を覗き込む。真意を測るかのよう。
ふんっ。幽霊ごときが何を偉そうに。
「力に溺れるほどの器量なんぞ、俺には無いからな」
「む…!自分では、どうとでも言えますっ」
「俺が嘘をついてる?笑わせんなや、たかが『付き人』風情が」
「なっ…!?生きている人間が、欲に…力に溺れないとでも!それこそ、生者風情が!」
カミヤの光で構成された体が、大声と一緒に揺らぐ。弾けた光が、粒子サイズに変わり宙を舞う。
「おいおい、何を怒っているんだよ。お前も言ったろ?カミヤ。その生者風情ぐらいに怒ってどうするんだよ」
「ッ!」
愉快愉快。死人でも怒るものなんじゃのう。
「何より、狙われても、返り討ちにしやーいいだけさ。サクッと首刈りゃ終わる」
軽快に笑う。引くくらい笑う。顎が外れるぐらい笑う。
呆然だが唖然だがしているカミヤ。
「ほれ、さっさと力を譲渡してくれよー。強くなりたいよー」
「先輩、マヌケなセリフですね」
レイランに脛蹴りを入れるが、寧ろ俺の方が痛い。
鎧に対して、蹴ったら、痛いわな。同然だけどイラつくわ。
「…では、一つ試練を与えましょう。それを乗り越えられれば、力を上げましょう」
「そういうことね。良いよ」
RPGではお決まりの展開だ。
「行きますよ。目を閉じてください」
暗転。




