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退職社畜の抜刀記  作者: 陸神
第五章 剣聖試練【襤褸小屋編】
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Episode.42 退職社畜のドロップキック!

【ログイン中】


「えー、何々…『我、剣聖為る者。我、剣雄眠りし、場所にて沈む』…だってさ」

「書いたのが剣聖様本人なのは、確認出来ましたが…」


 何の事か。そう繋げたレイラン。

 ルーシェを拠点にしているレイランが、心当たりない。またもや、難しい問題。紙を裏返してみるも、何も書いていない。手掛かりなし。


「他に、何かありますか?」

「判らん。ぶち抜いて掴んだだけだし」


 引き出しの三重底を確認しようとしても、引っかかって抜けない。


「ちょっと退いてください」

「何をするき…おいおいおいおい!もしかして―――」


 ガゴン、と挟異音が地下に響く。

 事もあろうか、レイランは、机ごと引き出しやがった。

 壊れた引き出しは、何重もの金具で固定されている。

 脳筋が、まーたやりやがりましたよ。


「お前さ。考えて行動しろよ。常識的に考えて、引き出しが抜けないからって、無理くり壊すことないだろ」

「でも、硬そうでしたし。実際に硬かったですし」

「もういいや…」


 レイランが持ってる、引き出しを弄る。

 底を抜いて、奥の板を抜いて…コロン。何か出て来る。

 二つの物。丸く、小さい白い花がついた枝と、紫色の濁った宝石。


「何でしょうかねえ。お守り?」

「宝石だけならまだしも、枝はないだろ」


 あれこれ、悩んでいると、体を振動が襲う。


「揺れてますね!もしかしなくても、拙いのでは!」

「わーってる!早く出るぞ!生き埋めになるのはご免だからな!」


 急遽、部屋をでる。手紙と枝と宝石を持って。

 不思議と暗くないのは、目の前に浮遊する、頭蓋のとぉー…え?


「なんでお前浮いてんの?」

「え?動けたの?」


 俺とレイランの疑問が頭蓋に投げかけられる。一瞬だけ、足も止まる。

 頭蓋は、顎を打ち鳴らして笑う。上下左右に動いて、飛び回り、照らす。微妙に、良い感じに照らしてくれるのが、謎。

 コイツ、高性能。持ち主と違って。

 階段を駆け上がる。鬼武者の鎧が凄い邪魔。場所取るなあ。


「セーフ!あっぶねー!死ぬとこだったわ!」

「…はあ…はあ…」


 どうにかして、地下から抜け出す。

 隣では、息切れしたレイランが、膝に手を突いている。

 姿が鬼武者なだけに、ビジュアルがアレな感じ。

 そんでもって、握っている枝と宝石を見つめる。

 こっちの枝は見たことがあるんだよな。

 記憶が正しければ、イチイの木だったはず。針にも似た細い緑の葉っぱが茂っている。


「はぁ…その宝石はぁ…はぁはぁ…確か、スギ、ライト…って名前…の宝石…で…す」

「レイラーン!?」


 言い終わったと同時に、膝をついて地に伏すレイラン。

 ああ、奴はいい奴だったよ…(多分恐らくきっと)


 それから暫らく、十分後。


「助かりました…先輩」

「生き返ったか、後輩よ。で、さっき言ってたスギライトってのは」

「あ、はい。スギライトは、ケイ酸塩鉱物で六方晶系に属する、濁った色合いの桃色から紫色の宝石のことです。別名、杉石と呼ばれています」

「なんで知ってんの?」

「私、鉱石とか宝石好きなんです」

「都合いいな」

「ですね」

「実を言うと、俺はこっちの赤い実の方を知っているんだ」

「都合良いですね」

「だな。で、これは、イチイの実と言って、花言葉は死。ネットで見た」

「スギライトは、癒し・浄化・霊的能力が意味です」

「「ふーん」」


 何か、関連性…死と霊的能力、かな。

 これが入っていて、偶々意味が重なったとは考えにくいし、そういうことなんだろうな。

 ヒントむず過ぎワロタ。

 でも、最近、似たような言葉聞いたような。


「レイラン、お前、墓場のエリア行ったとか言ってたな」

「言いましたけど…何か?」

「多分そこかも」

「ふぇ…?」


 反響する声で、気の抜けた声を出すレイラン。


「イチイの花言葉は死。死を連想させるルーシェのエリアは、戦場跡地・戦場・城跡地、そして墓場。それに、レイラン、墓場のエリアで、()()()M()O()B()の幽霊モンスターに会ったとか言ってたよな」

「ま、まさか」

「そのモンスター、十中八九、剣聖のイベント関連やぞ。スギライトの石言葉は霊的能力だから、幽霊系の何かが、関連していても可笑しくない。案内、頼むぞ」

「はい!」


 今日は移動してばっか。足腰が鍛えられそうだ。

 移動開始!


 …後に、小屋も倒壊して『剣聖の襤褸小屋跡地』というエリア名に変更されて、プレイヤー達に動揺が走ったとか走ってないとか。






 ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦






 明るい、ルーシェのエリアに似合わず暗いジメジメとした空気のエリア、『怨念墓所』。アンデッド系のモンスターが中心に現れる。

 紙に書いてあった、「剣雄眠る」の言葉はこういう事だったのだ。

 剣雄、つまりは、剣の英雄。武士とか武者、侍のこと。怨念墓所の背景設定は、戦争で亡くなった武士等が埋葬されたが、死んだ恨みで生き返ってきたのだとか。

 個人的には、武士とかならサパッと決心決めて、死んでいきそうなモノだと思うんだがな。島津の人々を見習って欲しいゾ!。


「先輩、先輩!手元!手元見て!」


 騒がしい、奴め。と、手元を見ると、宝石がカタカタ振動している。


「うおっ!」


 宝石が、宙を舞って、頭蓋に食われる。


「「ん?」」


 別に言い間違えてないよ。

 見覚えのある頭蓋骨が、スギライトに齧り付いたんだよ。


「レイラン、あの灯篭インベントリにあるか?」

「……無いです」


 灯篭は、宝石を呑み込むと、光に包まれる。暗いエリアを照らす光は、灯篭と同じく。弱まった光からは、人影が見える。人体骨格に見える。それから、逆再生のごとく、光が寄り集まって、受肉し始め、膨らみ弾ける。

 中から、着流しを着た、黒髪の男性が。


「ど―――」

「死ねや、剣聖ーーーーーッ!!!」


 何かしら言い始めた瞬間に、助走を付けての、ドロップキックを顔面に食らわせた。

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