Episode.42 退職社畜のドロップキック!
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「えー、何々…『我、剣聖為る者。我、剣雄眠りし、場所にて沈む』…だってさ」
「書いたのが剣聖様本人なのは、確認出来ましたが…」
何の事か。そう繋げたレイラン。
ルーシェを拠点にしているレイランが、心当たりない。またもや、難しい問題。紙を裏返してみるも、何も書いていない。手掛かりなし。
「他に、何かありますか?」
「判らん。ぶち抜いて掴んだだけだし」
引き出しの三重底を確認しようとしても、引っかかって抜けない。
「ちょっと退いてください」
「何をするき…おいおいおいおい!もしかして―――」
ガゴン、と挟異音が地下に響く。
事もあろうか、レイランは、机ごと引き出しやがった。
壊れた引き出しは、何重もの金具で固定されている。
脳筋が、まーたやりやがりましたよ。
「お前さ。考えて行動しろよ。常識的に考えて、引き出しが抜けないからって、無理くり壊すことないだろ」
「でも、硬そうでしたし。実際に硬かったですし」
「もういいや…」
レイランが持ってる、引き出しを弄る。
底を抜いて、奥の板を抜いて…コロン。何か出て来る。
二つの物。丸く、小さい白い花がついた枝と、紫色の濁った宝石。
「何でしょうかねえ。お守り?」
「宝石だけならまだしも、枝はないだろ」
あれこれ、悩んでいると、体を振動が襲う。
「揺れてますね!もしかしなくても、拙いのでは!」
「わーってる!早く出るぞ!生き埋めになるのはご免だからな!」
急遽、部屋をでる。手紙と枝と宝石を持って。
不思議と暗くないのは、目の前に浮遊する、頭蓋のとぉー…え?
「なんでお前浮いてんの?」
「え?動けたの?」
俺とレイランの疑問が頭蓋に投げかけられる。一瞬だけ、足も止まる。
頭蓋は、顎を打ち鳴らして笑う。上下左右に動いて、飛び回り、照らす。微妙に、良い感じに照らしてくれるのが、謎。
コイツ、高性能。持ち主と違って。
階段を駆け上がる。鬼武者の鎧が凄い邪魔。場所取るなあ。
「セーフ!あっぶねー!死ぬとこだったわ!」
「…はあ…はあ…」
どうにかして、地下から抜け出す。
隣では、息切れしたレイランが、膝に手を突いている。
姿が鬼武者なだけに、ビジュアルがアレな感じ。
そんでもって、握っている枝と宝石を見つめる。
こっちの枝は見たことがあるんだよな。
記憶が正しければ、イチイの木だったはず。針にも似た細い緑の葉っぱが茂っている。
「はぁ…その宝石はぁ…はぁはぁ…確か、スギ、ライト…って名前…の宝石…で…す」
「レイラーン!?」
言い終わったと同時に、膝をついて地に伏すレイラン。
ああ、奴はいい奴だったよ…(多分恐らくきっと)
それから暫らく、十分後。
「助かりました…先輩」
「生き返ったか、後輩よ。で、さっき言ってたスギライトってのは」
「あ、はい。スギライトは、ケイ酸塩鉱物で六方晶系に属する、濁った色合いの桃色から紫色の宝石のことです。別名、杉石と呼ばれています」
「なんで知ってんの?」
「私、鉱石とか宝石好きなんです」
「都合いいな」
「ですね」
「実を言うと、俺はこっちの赤い実の方を知っているんだ」
「都合良いですね」
「だな。で、これは、イチイの実と言って、花言葉は死。ネットで見た」
「スギライトは、癒し・浄化・霊的能力が意味です」
「「ふーん」」
何か、関連性…死と霊的能力、かな。
これが入っていて、偶々意味が重なったとは考えにくいし、そういうことなんだろうな。
ヒントむず過ぎワロタ。
でも、最近、似たような言葉聞いたような。
「レイラン、お前、墓場のエリア行ったとか言ってたな」
「言いましたけど…何か?」
「多分そこかも」
「ふぇ…?」
反響する声で、気の抜けた声を出すレイラン。
「イチイの花言葉は死。死を連想させるルーシェのエリアは、戦場跡地・戦場・城跡地、そして墓場。それに、レイラン、墓場のエリアで、非戦闘MOBの幽霊モンスターに会ったとか言ってたよな」
「ま、まさか」
「そのモンスター、十中八九、剣聖のイベント関連やぞ。スギライトの石言葉は霊的能力だから、幽霊系の何かが、関連していても可笑しくない。案内、頼むぞ」
「はい!」
今日は移動してばっか。足腰が鍛えられそうだ。
移動開始!
…後に、小屋も倒壊して『剣聖の襤褸小屋跡地』というエリア名に変更されて、プレイヤー達に動揺が走ったとか走ってないとか。
♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦
明るい、ルーシェのエリアに似合わず暗いジメジメとした空気のエリア、『怨念墓所』。アンデッド系のモンスターが中心に現れる。
紙に書いてあった、「剣雄眠る」の言葉はこういう事だったのだ。
剣雄、つまりは、剣の英雄。武士とか武者、侍のこと。怨念墓所の背景設定は、戦争で亡くなった武士等が埋葬されたが、死んだ恨みで生き返ってきたのだとか。
個人的には、武士とかならサパッと決心決めて、死んでいきそうなモノだと思うんだがな。島津の人々を見習って欲しいゾ!。
「先輩、先輩!手元!手元見て!」
騒がしい、奴め。と、手元を見ると、宝石がカタカタ振動している。
「うおっ!」
宝石が、宙を舞って、頭蓋に食われる。
「「ん?」」
別に言い間違えてないよ。
見覚えのある頭蓋骨が、スギライトに齧り付いたんだよ。
「レイラン、あの灯篭インベントリにあるか?」
「……無いです」
灯篭は、宝石を呑み込むと、光に包まれる。暗いエリアを照らす光は、灯篭と同じく。弱まった光からは、人影が見える。人体骨格に見える。それから、逆再生のごとく、光が寄り集まって、受肉し始め、膨らみ弾ける。
中から、着流しを着た、黒髪の男性が。
「ど―――」
「死ねや、剣聖ーーーーーッ!!!」
何かしら言い始めた瞬間に、助走を付けての、ドロップキックを顔面に食らわせた。




