Episode.33 退職社畜の温泉への期待
ペンが捗る…じゃないから、キーボードが捗る!
100万PV突破のお陰ですね!
【ログアウト中】
LFO公式イベントから一夜経ち、LFOを初めてそれなりに経ったことを自覚する。二週間ほどだろうか。
あれから色々とあったものだ。
ゲーム内で友人は出来たし、プロゲーマーの人とも知り合えたし、狼には吹き飛ばされるし、屑プレイヤーはいるし、巨大ハリネズミに出会うし、銃持った武装集団と戦うし、狂った武士達と戦うし………。
「ふう…」
後半部分、悪いことしかなくね?
いや、考えてみたら、俺ってゲームでモンスターとかプレイヤーの首しか刈ってない気が…。
思考停止。これ以上考えたら、メンタルが死にそう。
「切り替えよう」
そうだ。【ルーシェ】への旅行計画をおさらいしよう。
さっきも言ったけど最近、首を刈ったり、飛ばしたり、落としたり。戦闘続きで気疲れしてたから和国と呼ばれている街…【ルーシェ】へ旅行計画を練っていたのだ。
ルーシェには綺麗な観光名所や美味しい食べ物が多いらしくて、気休めには丁度いいかなーと思い、ネットで結構調べていた。
崖や山頂からの眺めや、日本や中国を織り交ぜたような和風料理。
そして、温泉。
ルーシェには天然(設定)の温泉があるらしく、楽しみである。
別に、温泉の名所を実際に行くのもいいが、遠出するには金が勿体ない。
やっぱ、日本人の血が騒いじゃうのかな!
俺は昔から温泉…もとい、お風呂が好きだったもんだから行ってみたい。VR世界…ゲームで温泉に入るとどうなるのかが気になる。脳波技術で五感を再現できるVRならではの温泉を楽しみにしている。
思えば、余計に行きたくなってきた。
うむ。思い立ったら吉日という言葉もあるくらいだ。行くか。
ヘルメット型のVR本体機器を被って、ベッドに横になる。
スイッチ、オン!
『目を閉じてリラックスして下さい。ログインします』
温泉……楽しみだなぁ…。
♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦
【ログイン中】
『ログインが完了しました。Legend・Fantasy・On-lineの世界へようこそ』
「到着、っと」
目を開けると、機械の街【エマキナ】にある公園広場。
復活地点に設定しといた場所。初期リスポーン地点と違う点は、噴水でなく機械遊具がある点。
ルーシェへ行く前に友人のライダーのところにでも行くか。
昨日公式イベントが終わった後、すぐにログアウトしてしまった。
あとから掲示板で見たのだが、祝勝会をやっていたらしく、参加できなかった。
顔見せの意味も含めて行こうと思う。
そうだな…どうせ温泉に行くならライダーも誘おうかな。
友達と温泉なんか行く機会早々無いし。
ライダーのクランのマイホームがある場所を思い出しながら進む。
相も変わらず、この街はファンタジーな世界観に合わないと思う。
いまさらだが、LFOは剣と魔法と銃のごちゃ混ぜ世界だし。
ぼちぼちの距離を歩くと、エマキナの一等地にて、巨大なビルが姿を見せる。ライダーのマイホームだ。所属するクランメンバーは百人を優に超え、地上十一階から地下二階まである他に類を見ない規模のマイホーム。
受付のプレイヤーにライダーか副クラン長のルナレナへと取次ぎを依頼。
間もなく、階段から急いで降りてくる人影。
軍服風の装備を着た女…ルナレナが、降りてきて俺を見つけると寄る。
「一日ぶり」
「そうですね。昨日はクランマスターに非道いことをされてしましました」
ヨヨヨ…と泣き真似をするルナレナ。意外と余裕あるみたいで何より。
本題に入る。
「ライダーはいるか?」
「今日はいますよ。しばらく休んでいた分、イスに縛って働かせていますとも」
「カワイソー」
「清々しいほどの棒読みですね。ついてきてください」
「OK」
二人して階段を昇りながら、世間話にも似た話を交わす。
「近いうちに、モンスターが落とすする魔石という素材でクランハウスにエレベーターを作製する話が持ち上がっているんですよ」
「そりゃ凄い。遂に電脳世界にも現代工学が持ち越される日が来るとは」
「工学って訳じゃないですがね。名をつけるなら魔法工学とかでしょうか。それに生産系の職業は珍しいんですよ?スキルの補正はあるものの本人の技術が大切ですから」
「俺の改造刀を造った、エイラの作業を見てればわかりもするが。実際はどうなんだ?このクランでの生産職は?」
「エイラさんのクランと比べられると弱小ですが、纏まった数はいます。うちでは生産職の教育も行っていますから」
太刀と銃を合わせた武器を作った女性を思い出しながら話す。
エイラの方には、注文が引っ切り無しだそう。ご苦労なこって。階段を昇り終える。階層は最上の十一階。
木造扉が幾つも立ち並ぶ階。中でも一層、豪華な装飾が施された扉へ。
「頑張って下さいよ?打ち上げに貴方が来ていなくて、クランマスター、不機嫌だったんですから」
「大変な任務を負ったなあ…」
「ふふっ……さあ、開けますよ」
含み笑いをこぼして、ルナレナは扉を開け放った。
照明器具が照らす部屋の中で、デスクで事務をこなす一人の男性。それが俺の親友ライダー。
ジャケットを羽織った、ライダーは音に反応して、目をこちらに向ける。
「相棒!」
「おひさ。一日振りー」
笑みを浮かべて、俺に近づく。
不機嫌とはいったいぜんたい、何だったのか?
「悪いな、祝勝会に行けなくて」
「気にすんなって!オレ様と相棒の仲じゃねえか!…んで、今日は何の用で来たんだ?」
「ああ、そうだな~…」
ルナレナの方をチラリと盗み見。
クランの運営を、ルナレナに任せているライダーが事務を行っているのだ。相当、忙しいことが伺える。
誘ってもいいものだろうか…?
ルナレナは首をかしげて、察したのか、顎をしゃくる。
あっ、良いんですか?ハイ。
「ルーシェに一緒に行かね?」
「ルーシェ?それまた遠いエリアへ」
「息抜きにちょっとしたVR旅行さ」
「そりゃ、面白そうだけど‥‥‥」
ライダーもルナレナの顔色を一見。
厳しい検査官サマは溜め息をつく。深い溜め息を。
「仕方がないですねえ…。今ある仕事を片付けたらいいですよ」
「いよっし!」
ガッツポーズをとるライダー。
「相棒は先に行っといてくれ。終わり次第速攻で行く」
「先に行ってる。温泉楽しみだな」
「え…」
呆然したライダーの声が聞こえる。きっと、温泉が楽しみなのだろう。そうだろう。俺は扉に向かって歩く。ライダーは仕事に励むと思われる。早めに出ていった方が良いだろうマイホームを出た。
ライダーも来るみたいだし、そうと決まれば急ぎ足を運ぶ。善は急げ、だ。ルーシェの場所は、エマキナと真反対で西じゃなくて、東。
メニュー画面を開いて、始まりの街バマルと書かれたを選び欄をタップする。
体が光に包まれて、足先から順に消えていく。不思議な光景を目の当たりにしながら、目を閉じる。
…
「本日二度目の到着、っと」
バマルに到着した。
一回でもリス地に設定した街にはファストトラベル機能が付くのだ。
ファストトラベル機能は簡単に言うと、街から街へと移動することのできるようになる転移機能のこと。楽でいいよね。
これで、少しは東に近づいた。
バマルの街門を出て、ウィンドウに表示されたマップを頼りにルーシェを目指す。




