Episode.24 退職社畜の新武器考案
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「かーっ!負けたかー!」
「いやいや、頑張った方だよ、お兄ちゃん!」
そう言って、豪快にわははと笑うお団子ちゃん。
決闘が終わって、もとの地下闘技場に転送されている。
「最後の攻撃はどうやったんだ?」
「むふふ。それはね、跳弾だよ」
お団子ちゃんは口をにやけさせて、俺の死んだ原因を言った。
跳弾だって?俺は銃弾を弾いたはず。
高速回転している銃弾を弾いたから、跳弾もなにも無いと思うのだが。
「私の格好で分かると思うけど、私は遠距離攻撃職のガンナー…だけど拳銃。このゲーム内では珍しい近距離型のガンナー…ここまではok?」
「続けて、どうぞ」
「で、私の線型だけど、早打ちガンマンが主軸の万能戦闘職」
「早打ちガンマンが主軸…?」
早打ちが主軸に添えられているってことは…。
「早打ちから狙撃までこなすのが私の職業、【可変銃士】。読んで字の如く、可変…どんな型にもなれる職業さっ♪」
「狙撃はどうすんだよ」
「それはねぇ…こうするのさ」
お団子ちゃんは腰の二丁拳銃を手に持つと、何かのストッパーを外して、スライドさせた。
スライドさせた拳銃は複雑に機械部品が、噛み合っていた。
それをお互いに嚙み合わせる様に、銃口と引き金付近の部分をくっ付けた。
インベントリから取り出したと思われる、スコープや弾倉を装着すれば、あっという間にスナイパーライフルに大変身。
いや、どんな構造だよ。
「これは、知り合いが運営してる生産専門クランの武器設計専門の【銃火器設計士】と生産職の【機械技師】と【銃職人】と協力開発した物だよ。アサルトライフル、スナイパーライフル、拳銃モードがあるよ」
「大変なんだな~」
「そうなんだよ。この職業になってからこれといった武器が無くて、自費でこの武器造ったんだけどめっちゃ費用掛かってね」
「で、俺の死因は?」
「あ、そうだったね」
この二丁拳銃が費用ヤバくて、大変だったのは分かったけど、俺の死因はわからんままだ。
話を本筋に戻したお団子ちゃん。
「私は二丁、拳銃持ってるからさ、一発目が弾かれた時にもう一丁の二発目を弾かれた一発目に当てたんだよ」
思い返せば、俺の眼前に来た銃弾は一発のみだった。
「…チートかよ」
「お兄ちゃんが言えた義理かな?ん?え?」
凄みを効かせた顔で詰め寄って来る。
見た目が見た目なだけに怖くないし、可愛いだけ。
「もともとは、早打ちガンマンが本職の近距離ガンナーだったんだよ。それで、俊敏力に結構振っててね。そのお陰でお兄ちゃんの攻撃にも対応できてたんだよ」
「へー」
銃かー。俺も欲しいなー。
でもなー、俺、ボーパルなサムライだし。
【侍大将】に変わって、刀だけの縛りは無くなって、ダメージは減少するけど剣も使える様になったけど、遠距離武器適性無いし、使えないしな。
「お願いなんだけど。その銃作った人たち、紹介してくんね」
「うにゃ?良いけど、なんか造って貰うの?お兄ちゃん、剣士系…武士系の職業じゃん。銃火器使えないよ?」
「それに関して思いついたことがあって、話してみたいんだよ」
俺のアイデアをお団子ちゃんに耳打ち。
ごにょごにょごにょ。
「面白そうだね!今度…今から行く?紹介するよ。あの人たちそういうの好きそうだし」
「ちょっと待ったぁっ!」
ここでライダーたちが介入。
「相棒はまだ、オレ様達のマイホームの紹介の途中だぞ!」
「ああ。悪いが次の機会にしてくれ」
「仕方ないかにゃ。じゃ早く紹介に行くよ!」
お団子ちゃんが前を歩いて、先導しだす。
「えっ、帰んないの?」
「そんな酷いこと言わないでよ、ライダーちゃん。私がこの手のこと後回しにしたら忘れるよ」
「「確かに」」
「君たちも大概だねっ」
ライダーとルナレナが声を揃えた。
「決まったなら早く行くよ!」
「マリモが先導すんな!」
「そうです。あなた達のマイホームじゃ無いでしょうに」
ライダーのクランのマイホームの見学を再開した。
最近、戦ってばっかだけど、案外良い物だな。
人知れずに笑みを漏らした。
♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦
「という事があってねー。それで連れて来たんだ」
「何がという訳だい!?事前連絡くらい寄越しな!」
オレンジ髪の女性が言った。
全くもってその通り。アポ取らないで来てたのかよ。
俺は目頭を抑えた。
幻覚かもしれないが頭痛がしたんだ。仮想世界なのに。
ライダーのマイホーム見学が終わって、ライダーたちと別れて、お団子ちゃんとエマキナの一角の大型工房に来た。
工房内には、さっきのオレンジ金髪の女性が居た。
回想終わり。
「この男が?例の?」
「そーそー」
例の…?
俺に対してどんな説明をしているか一回話し合う必要がありそうだ。
「取り敢えず、自己紹介ね。アタシはエイラ。このクランのオーナーをやってる。職業は【銃匠】」
と、くすんだ金髪女性。
「俺はバツです。よろしくお願いします」
俺考案の武器を造って貰うかもしれない相手だ。礼儀を持って接さなければ。
「アタシのことは呼び捨てで良い。お客様はどんな武器をご所望で?」
エイラは直球に聞いて来る。
俺は考えているアイデアを言う。
エイラはしきりに頷きながら事細かに俺に質問する。
偶に独り言も混ざっている辺り、かなり興味を引いていることは間違いない。
「設計図はディラと相談するとして、材料費は」「素材の在庫はまだ尽きて無いし、大丈夫か」「職人の方とも共同開発を促してみるかな」「基盤になる元の武器の寸法…いんや、まず入手から」「MPによる射出機関を取り付けるか?」「スイッチ式…引き金式…」
数分問答を繰り替えして、唸りながら考えに耽るエイラ。
これは上手く交渉出来た感じか。
「……良いじゃないのぉ」
かなりキテイル小声に鳥肌が立つ。
もの知れぬ笑みを浮かべているエイラ。
「良いモンが造れそうじゃないか。イイ頭持ってんね、バツ」
「あざっす」
無性に姉御と呼びたくなる人だな。
ライダーが兄貴ならエイラは姉御とか姐さんのイメージだ。
「久しぶりにアタシも乗り出すとするかねぇ」
「え!?エイラも製作に加わるの!?」
突如として大声を出すお団子ちゃん。
エイラが武器造るのは珍しいのかもしれないな。
気難しい、店主的な感じで。
「エイラが作る武器や防具はプレミアがつく程の高級品っ。しかもエイラ自体も気に入った相手にしか作んないから値段はさらに高騰してるんだよっ…!」
興奮冷めやらぬ状態でお団子ちゃんが熱弁する。
俺ってば凄い人に頼じゃったんだな。
「バツ、今回んお代はいらないよ!こりゃあ一大ブームを巻き起こすかもしれない武器の製作だ。金なんて貰えるわけがない!」
エイラは座っていた、革張りのソファーから立ち上がって部屋の向こうの扉を開けた。
「着いてきな。工房を見せてあげる」
俺とお団子ちゃんは立ち上がってエイラについて行く。
扉出てすぐの階段を通る。場所は地下へと至る。
視界が開ける。
「なんだこりゃあ…」
目の届く範囲いっぱいに広がる製作機構の数々や鍛冶場。
あちこちからプレイヤーの掛け声や、鉄を打つ音が鳴り響く。
工房という言葉は生ぬるい。
この規模は、工場と言っても良い規模。
中国の工業地帯でこれと似た光景を見たことがある。
驚愕、の一言に尽きる。
「さあ、野郎達!!手を止めないで聴きな!!」
爆音量の声。
そして呼応するように「アイサ!」と返って来る。
エイラの言葉通りに手を止めないで、作業を続けている。
「アタシが受けるべき仕事が見つかったぞッ!手伝いたい奴は、【第三地下工房・銃機関部門】に集まりなッ!!!」
「「「「「オオオオオォォォォォ!!」」」」」
煩っ!
地下工房に第三もあるってどんな規模だよ。
どこにでもチートっぽい奴は居るんだな。
エイラの場合は人力チートと生産チートってところか。
呆然と地下を埋め尽くすプレイヤーの波を眺めていると、お団子ちゃんに袴の裾を引かれる。
「これが、LFOで一位との呼び声が高い、生産系クラン、<エイラの大工房>だよ」
「名前ファンシーかよ」




