Episode.23 退職社畜のプロとの勝負
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目を開ければ、廃ビルの中だと分かる。窓から少し覗くとここが三階から五階ぐらいの高さ。
作戦は初手隠密。
ボーパル侍の効果があるから発見されることも早々ない。
これで先攻は限りなく俺。
お団子ちゃんの見た感じの武装はリボルバー式の片手銃が二丁。近距離仕様だと思う。
物陰に隠れつつ、廃ビルの屋上へ向かう。
見通しが良いところに行きたい。
ガンナーのお団子ちゃんは上にいるという勝手な発想。
銃持ってると上に行きがちって俺の妄想。
穴だらけの階段を上って屋上に到着。
多少傾いているが移動には問題なし。
傾いているお陰で隣へのビルへの移動も楽。
スキルのお陰か足音が静か。
たんっ、と軽い音を立てて屋上から屋上へと駆ける。
アニメの様な体感に感動しつつも散策を続ける。
そこで目に入ったのがエリア中心にある、二百メートルはあろうかというタワー。
「…ここの地下どんだけ広いんだよ」
設定だろうが、なんだろうが地下にあるもんじゃない。
流石ゲームの世界。
頭上から感じる微かなフラッシュ。
俺は、「なんか前にもこんなことあったなー」と思いつつ、体を急停止。
ノータイムで破裂音と共に、足元に炸裂する銃弾。遅れて、銃声。
はい、ビンゴ―。偏差撃ちしてるよねー。
にっこりスマイル!
どこからか、ブチって何かが切れる音がした。
………い・や・な・よ・か・ん。
急いで走る。
いーち…パァン!
やば。
でも、フラッシュの方角と射角からタワーの上に居ると分かった。
それに加え、隠密効果のあるボーパル侍の効果があるのに見つかったという事はお団子ちゃんが、索敵系のスキルを所持している可能性が高く、スナイパーライフルへの持ち替えの可能性が大。
あのハンドガン系の銃の射程が分からない以上なんとも言えないが。
とまあ、場所とある程度の情報は分かったんだあとは行くだけ。
「……その行くだけがキツイんだがな」
そう。プロだけあってステータスは化け物並み。
一度目の狙撃だって、フラッシュと銃声しか確認できなかった。
だけど、マズルフラッシュが見えたのは良いが、相手も分かってると思うし消してくるだろう。
それに加え、俺のステータスでは未だに視認出来ない速度領域。
そうくれば、予想して避けるしかない。
高いところで、数百メートルある距離ならば、偏差撃ちは必須。
ともなれば、ランダムな、不規則な動きをするしかない。
二秒内に走る位置を変えて、三秒内に別の建物に飛び移り、四秒内に一回立ち止まる。
無茶苦茶な動き方。
後から追いかける発砲音と炸裂音。
意外と避けれる物なんだな。それとも俺が異常?
HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!そんな訳無いな!
「っと!ぶねぇ…」
段々と俺に銃弾が迫ってきているのが分かる。
無茶な動きで動こうとも、慣れられればそれでお終い。
ランダムにしてるとは言っても俺も人間。無意識下の癖があるのかもしれん。
じゃ、特攻で!
「質素の開花」
ギアを上げる。
身を低くして、その様は滑るよう。
足を止め処なく動かして廃ビルへと跳ぶ。しっかりと足で踏みしめ瞬く間に蹴る。
足部に礫が当たる感触。
走って跳んで急停止。
偶に長く停止して、いきなりパターンを変える。
タワーまで残り二百メートル。
ことさら地面を走らないのは、障害物が多すぎてロスタイムが多くなるから。
また、一つ銃弾を避けた。
それから数十秒間、再射が来ない。
嫌な予感がして、鎧通しを引き抜きつつスキル発動。
「空破斬っ」
鎧通しから急速に発動したその斬撃は現れたコンマ一秒後には霧散する。
遅まきに風切り音。淡緑の銃線に、周辺の風を捲いて吹き抜ける。
頬に熱い感触。
視界内で一気に減っていくHP。
わざわざ、刃の厚い鎧通しで腹部分で空破斬を放ったがそれでも抜けてきた。
おそらくだが、属性付与された銃弾。それも速度特化の風系の属性。
鎧通しを納刀して。
「……やるじゃん」
お団子ちゃんを馬鹿にした笑みとは違う嗤い。
これはお兄さんも力を見せないといけんなぁ。
仮想世界だけど筋肉繊維をはち切れんばかりに総動員。
体全体を使った走り。
脚は振り抜き、足は蹴り抜き、腕は鋭く振る。
あっ、という間にタワーへ到着。
タワー上部からして真下の遮蔽物に隠れて、ポーションを飲む。
これでHPは満タン。ポーション残数ゼロ。
タワー内部は一部が劣化して吹き抜け、階段も劣化と損傷が激しい。
なら上に走れば良い。
真下撃ちは難しい…と思ってる。
だから俺はタワー側面を駆け上がる。
やはり空下駄強いよね。
外壁の凸凹に下駄を引っ掻けて加速。
「っと、っと、っと、ふっ!」
やや遅れて発砲。
ジグザグ移動していたから避けられる。多少は動揺したかな?
この距離までくればあとは近接戦の可能性が大。
気を付けねば。
「とうちゃーく…」
「……お兄ちゃん、リアルチートって知ってる?」
後ろにいるお団子ちゃんが俺に話しかける。
振り向きつつ、答える。
「知ってるけど、俺は現実の方ではただの二十代のお兄さんダゾ?」
「信じられないねぇ。………ライダーちゃんと同じ感じかな」
「何て?」
「いや、何でも」
フレンドリーに会話。
うん。ノーモーションで抜刀。
「うぇへぇ!?」
「ん?避けたのか」
凄い仰け反り方でギリ避ける。
どんな骨格してれば、あんな腰と背骨の曲がり方するんだろうな。
仰け反りすぎて、ブリッジしているお団子ちゃん。なんとか起き上がる。
「ふーッ…ふーッ…ズルいぞ!いや、大人ズルい!」
「ははははは!大人とはそういうものだよ!てか、君も大人だけどな?!」
「そうだった!?」
この子もうちのアホの娘と同じタイプか。
でも、仕切り直した風を出したお団子ちゃん。
ガンマンスタイルが良く映える。
カッコいい。
「じゃ、終わりにしよっか」
「同感。で、普通に殺っちゃうんで?」
「凄い物騒だなぁ…。それじゃあ、一発で勝負」
「一発」
「そう、一発。ほら私も見た目がこれじゃん」
お団子ちゃんは一回転して姿を見せてから、腰にある銃をぽんと叩いて、続けた。
「合図はどうする?」
「そら、こういう時は相場が決まってる!これだよ!」
「コイントス、か」
「うん。場所はともかく、私の見た目じゃこれが一番じゃない?」
俺は頷く。
それにしたってコイントスで勝負か。
いやはや、人生でコイントスで勝負を決める日が来ようとは思わなんだ。
浪漫があるねえ。
「距離は適当に五メートルぐらいでいっか」
「近すぎないか?」
というか、剣士と銃士がする勝負じゃない。
「銃も持ってる私の方が有利だし」
「ならいいや」
「はーじめるよー」
「あいさ」
数歩歩いて、距離を確認。
少し近いと思って、さらに下がる。
お団子ちゃんは満足そうに笑って、コインを大きく指で弾いた。
銀に輝く、コインは宙を舞う。
目で追いつつ、体は即発車出来る状態。
残り一メートル。
「狂狼・犬走」
犬耳男にチェンジ。
そして…カラン!
「餓狼・犬走の太刀道」
カの字が聞こえた瞬間、発動。
スローモーションの世界で額の数センチ前に銃弾が来ているのを認識する。
左手で鎧通しを抜刀。唸らせて、銃弾を弾く。
一歩、二歩、三歩、四歩、踏み込んでお団子ちゃんの首を刈る…
―――バイバイ
お団子ちゃんの口がそんな動き方をしたのを認識して、俺は後頭部に衝撃を感じた。
視界はブラックアウト。




