Episode.14 退職社畜の新武器収穫
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「とりま、お疲れ」
「お疲れ様」
俺は座り込んで休憩する。お兄さん疲れたよ…。
そしてスキル習得が多いよ…。
今回も流し読みで見る。
『両断』『空破斬』『複数帯剣許可証』。
この三つの内の両断と空破斬は【武士】版のスラッシュとエアスラッシュだ。【剣士】から【武士】に変わって、使えなくなってたからな。これで戦略の幅も広がる。
何よりも今回の収穫は『複数帯剣許可証』だ。
これは、複数の剣を同時に装備することの出来るようになるスキルだ。
簡単に言えば、両手装備や片手装備でもなんでも複数の武器を帯びることが出来るのだ。装備の変更はウィンドウ画面、意識的な操作でもできるがこのスキルでは装備欄に関らずにずっと装備出来る。名前の「帯剣許可」の部分は、昔、武士は身分差別の為に帯剣の許可が下りていたことから、敵を倒したことにより、功績的な感じでこのスキルが手に入ったのではないかと考察する。
複数帯剣許可証の何よりの利点は抜刀が何度でも行えるようになる点だ。今は刀系統の武器は餓狼の大太刀しかないが、これから手に入れた場合は抜刀を連続で行えるという事になる。
手に入れた場合というか、もう手に入れたんだけどな。
それは、【惨酷峠】の初回クリア報酬の特典だ。
さっき、インベントリを確認したらこんなものが入っていた。
♦[逆風の鎧通し]/属性:岩/装備スキル:『岩穿ち』
鉄よりも固い針を持つハリネズミの針で作られた、極薄極細の刀。その刃は、微細でありながら岩をも切り裂き、鋼鉄をも穿つ
♦岩穿ち
鋼鉄をも貫く突きを放つ。クールタイムは10分
岩穿ちなのに鋼鉄を貫くってなんだよ。グレードアップしてるじゃねえか…。
反りが少なく鍔の無い刀で、木を削って作った鞘。手元に近いほど刃が厚く、先に行くほど薄い。
特徴的なのはその刃がまるで六脚ハリネズミの針の様に細いことだ。鎧通しとは近接用の短刀のことを言うがこの鎧通しは六十センチはあることから名前の、「逆風」の意味が伺える。
装備スキルのことでも、分かるが突きに特化してるのだ。
だけど、重量制限もほとんどなくて軽く、刃先も薄くて切れ味が良い。抜刀とも相性が良くてよかった。
早速インベントリから出して、直接腰に取り付ける。
これは抜刀に限定されたことでもないが、二刀流が可能になったってこと。噴水広場に戻ったらまた特訓の再開だ。
ライダーの方も色々終わったみたいでこれからのことの会議をする。
まず、第一はどうやって出るかだ。
ボスを倒した所で死んだ場所に魔法陣みたいなのがあるからそれだろう。それを使って出るのは確実。その後はライダーがバマルの街まで送ってってくれるそうな。
新しい、刀の感触を目新しく思い、ライダーと共に魔法陣に乗る。
「到着したぞ。この間一秒未満だが」
「短くね?もうちょっと余韻あってもいいじゃん」
魔法陣の転移先はライダーが落ちたドームの中であった。
違和感は、ドーム内に人がいるという事。
その人物達の数名はどうしたことか、俺とライダーに殺意を向けている。うーん、デジャブを感じる。テンプレの予感と嫌な予感に、ライダーと顔を見合わせる。
どうやらライダーも、この手のことには敏感な方らしい。残念だが俺等はラノベ小説の住人ではないのだから。
「そこの二人。悪いが少しいいか?」
口は悪いが温厚な空気を携えた青年が話しかけて来る。
ライダーが前に出る。やっぱり、男気があるぜ。
「何だよ?<ブレイヴァー>共」
<ブレイヴァー>。それは俺でも聞いたことがある名だ。
ある五人で構成されたパーティー。
攻略組と呼ばれる、プロゲーマーとも張り合える程の実力を持ったパーティー。全員が高校生という噂でプロゲーミングチームからの勧誘は絶えずにやって来ているが全てを突っぱねているらしい。理由は、なんでもクランをやってるらしい。
他人にあまり興味の無い俺でも名前は聞いたことがあるパーティー。
それがこんな、悪意マシマシな奴等だとは思わなかったが。
「ここは元々俺等<ブレイヴァー>が狙っていたダンジョンなんだが、クリアされたと掲示板で見てな。速攻で駆け付けたわけだ。理由は、まあ…その…どんな奴等かって」
「そうは見えねえけどな?まずそこのアホと金狂いをどうにかしてもらおうか。『脳筋勇者』」
「おい、お前等さっき友好的にって決めたろ。はあ…やっぱその名前で呼ばれっか…」
どうやらこのリーダー格の青年は苦労性の様。『脳筋勇者』は称号だろう。
アホと呼ばれたのは重戦士風の青年で、金狂いは魔法師風の女の子だ。<ブレイヴァー>のパーティメンバー同士でなにやら口論している。
殺意を向けていた重戦士の青年が俺に目を付けるとこう叫ぶ
「僕と勝負しろ!」
「お断りさせて頂きます」
返答までの時間は一秒未満。
断られた青年は呆けている。
「ほら、言ったろ。というかよ、俺らがダンジョン攻略目指してただけで、クリアされたのは別にわるくねえじゃねえか」
「だけどさぁ、あんだけ死に戻って準備してたのにここで中断てのも…」
「そうかよ。…そこの侍の人、悪いがコイツと勝負してくれねえか?」
なんか、見ていてリーダー君が哀れに思えて来た。
「うん、なんか苦労してるんだな君。勝負の件は受けてもいいぞ」
「なんかあざっす」
「ほら、お前もお礼言え」
「なんで僕が」
「言えよ。俺がガイチとシュリアに何回迷惑かけられたと」
「ああ、わかった。わかったよ!勝負受けてくれてありがとな!」
涙が出て来た。
リーダー君も頑張ってんだな。
あと、重戦士はガイチで魔法師風がシュリアと思われる。
「いいのか?相棒。嫌なら轢くぞ」
轢くという言葉に震える五名。
もしかしたらこいつらはライダーに轢かれたことがあるのかも知れない。顔見知りだったぽいし。
「まあまあ。俺が勝負すればいいだけだし」
それから俺と重戦士君とで決闘設定を決めて。
現在はこうして、落とし穴のあったドームの前で向かい合ってるところだ。
決闘のルール設定は“ワン・サドンデス”。HPが1になるまで殺し合い、どちらかが1になったら強制的に終了するルール。
「頑張れよ、相棒」
「適当にやるさ」
ライダー兄貴に激励を貰ってしまった。頑張らねばな。
「こっちが迷惑かけてんだからな。そこ考えろよ。あとで説教だからな」
「なんで僕がまた礼二に説教されなきゃいけないんだよ」
「本名をいうな!俺はグレイだ!」
「落ち着きなさいよ、グレイ。それと、ガイチ、頑張りなさい。私のメニーを奪ったあの男をボコボコにしなさい。ただし、ライダーには手を出さないでよ絶対よ」
「もう、何してんですか二人とも。これは絶対に私達が悪いパターンですよ」
「…そうだ」
「何だよ。シャーロットもデンガクも」
パーティ内の関係が見えて来た気がする。
毎回問題を起こすのが重戦士風のガイチに魔法師風のシュリア。この二人が起こした問題を対処するのがリーダーのグレイに、神官服少女のシャーロットと、付与師風の寡黙な青年デンガクだと思われる。多分だがパーティー内の力関係は紹介した順番の逆。
「さてさて、やりますか」
「潰す」
何か、物騒なことを言ってるな。
俺もこの勝負は乗り気ではないが鎧通しの試し斬りが出来るから少し楽しみでもある。
「さ、やろうか」
「その余裕ぶっ潰してやる」
俺とガイチ君を中心に透明な膜が円状に広がる。
この膜がバトルフィールドってことだ。
フィールドの空中にカウントダウンが出てくる。
10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…
『バトルスタート!』
♦名称:両断/種類:アクティブ/クールタイム:20s/取得条件:自分より防御が高い相手のHPを二割以上削る/効果:強力な攻撃を放つ/攻撃範囲:装備している刃の刃渡り分
♦名称:空破斬/種類:アクティブ/クールタイム:40s/取得条件:【武士】LV5になる/効果:剣を振った方向に刃渡り分の斬撃を飛ばす/攻撃範囲:俊敏力×2メートル
♦名称:複数帯剣許可証/種類:パッシブ/クールタイム:なし/取得条件:【武士】系統職で一定以上の武勲を上げる/効果:装備枠に関らず武器を装備できる
♦名称:[逆風の鎧通し]/属性:岩/種類:片手装備/系統:刀剣・短刀/装備スキル:『岩穿ち』/備考:鉄よりも固い針を持つハリネズミの針で作られた、極薄極細の刀。その刃は、微細でありながら岩をも穿つ
♦名称:岩穿ち/種類:アクティブ/クールタイム:10m/取得条件:[逆風の鎧通し]の装備/効果:鋼鉄をも貫く突きを放つ/攻撃範囲:[逆風の岩穿ち]の刃渡り分




