Episode.9 退職社畜の遭遇事件
【ログイン中】
糞餓鬼の粛清後、やたら物騒なスキルが手に入りました。
その名も『首狩り』。説明読み上げるのつらいから効果だけ読む。
えーっと、常時発動型スキルで名前のまんまに首付近への攻撃ダメージが…三倍!?強すぎるだろ。首への判定は鎖骨と肩甲骨辺りまで範囲らしい。その代わりにデメリットとしてスキル効果でのダメージで倒すと絶対に首が落ちる、と。こわ。
次は、『流転無窮』。
意味は確か、様々な状態に変化し続けて、留まることがないこと。だったはず。
ずっと大太刀で斬り続けていたからだろう。
パッシブ、効果の程は、攻撃の連続ヒットごとにダメージが5パーセントずつ上がっていく。かなり強い。
さらに次は、『抜刀術法』。これもパッシブで、どんな刃物でも抜刀できるようになるらしい。それで抜刀速度とダメージが二倍。
最近、運営からの抜刀押しが凄いんだが?
「オイ、コラ!ジジイ!ちょっと待てや!」
「ん?マテ茶?」
「チゲェ!待てだ!」
スキル説明を読みながら歩いていたら世紀末なライダージャケットの若者に声を掛けられている。この方はどんな宗教勧誘や悪徳商法で話しかけて来るんだろう。
「俺、ちょっとアンケートとかそういうのいいんで」
「アンケート商法じゃねえよ!」
「おっ?わかってるってことはアバターなんですか?」
俺は年上の人には敬語を使ってしまうのです。
なんか、アバターでも使っちゃうよね。チャットでもよくやる。
「よくわかったな」
「最近の若者っつーか十代のやつらはよく詐欺にひっかりますもんね」
「だよな。それは思う。オーナー商法とかさ、知らないやつら多いよな。特にクリック系は多い。しかも政治とかも知らないし、何でもパワハラとか言いやがる」
「あー。それすっごい分かります。新聞とか読まないって聞きますもんね。若い親戚とかとも話とか通じませんし」
あるれー、普通に会話しちゃってる気がする。
この人見た目的にPKかと思って鍔元で刀を握っていたんだが。こういう時は直接聞いてみるのが良いか。
「PKかと思ったんすけど」
「んあ?なんであんなクソ共みてぇなことをする連中と一緒にされなきゃいけねえんだ」
「それは同感」
わかりやすく不機嫌になったな。
PKは俺も出来るだけしたくないんだが、襲われたらやり返すが。
「オレ様はここで警告してんだよ」
「警告?」
「そうだ。お前もこの先の惨酷峠に行くつもりなんだろ?」
「その通りだけど、それがどうか?」
「この先の惨酷峠の設定レベルが間違ってたらしいんだわ。二次職分も」
「マジですか」
「マジでだ」
二次職は一次職…つまり最初の職業が最大レベルになると職業がランクアップするんだが、その昇格した職業のことを指している。要するに惨酷峠のレベルは俺で言うと45ってことになる。
それで警告してくれてたのか…。良い人やんけ。
「いやぁ。でもいいですよ。俺は力試しに行くだけですから」
「そうか…じゃあ、オレ様も付いていってやるよ」
「え??」
Why?何故に?
「いや、どうしても行くんだろ?」
「そうですが」
「お前はレベルが低いから、一応オレ様が護衛に行ってやろうってわけよ」
「じゃ、お願いします」
「即答かよ。いいけど」
かくして、俺とオレ様系のひと世代前のライジャケさんと一緒に行くことになったのだが、俺には疑問に思っていることが一つある。
「なんでその恰好?」
「カッコいいだろ」
「あ、そうすか、はい」
ということらしい。ライダージャケットはまだまだ現役だな。
で、その後、「敬語はやめろ」と言われたので砕けた口調になって会話している。
「そもそもだけどさ。こんなミスあるか?普通」
「普通は無いだろうけど、この運営はやるんだよな。だってPK公認でNPCにあそこまで感情持たせてるような悪趣味な連中だぜ?」
「そこばっかに注力して、エリアの設定ミスってるのか。ちゃんとしてくれよ」
「オレ様も共感する」
そんなで他愛もない話をしていると、目的地に到着する。
目前には草木一本も生えていない下り坂…峠がある。山の下り道が峠なのにいきなり下り道。どゆこと?
「最近は疑問詞ばっか言ってるな」
「もしかして同じ事考えてたか?」
「多分そうだわ」
惨酷峠はいきなり下り坂になっている場所で、横幅広い道が下りになっているだけ。植物は一本も生えずに岩の棘だけが突き出ている地形。坂の最後が見えないのが余計に怖い。
そしてここはダンジョンエリアと呼ばれる場所でモンスターが特に多く、出現するエリア。宝箱から特殊効果…餓狼の大太刀みたいな武器とかアイテムが入手できたりもする。
「これどうやって降りる?」
「どう、つってもな。ここ、下りの癖に飛行系のモンスターとか粘着床とかローション床とかふざけたダンジョンだしな」
「うわー…運営、何してんだよ」
この急な坂で飛行系のモンスターはキツ過ぎる。
俺の対空攻撃はエアスラッシュしか無いし、大太刀も普通の剣よりはリーチは長いが空を飛ぶ敵はキツイな。
「これを使うか」
「これってどれあぁ!?」
俺がズドン、という重低音に振り向くとそこには滅茶苦茶ごってりしたバイクが鎮座していた。
ナニソレ。
「これはオレ様がモンスタードロップで貰った武器でな」
「武器!?バイクが武器!?」
「それがそうなんだわ。ホラ」
ライジャケ先輩はウィンドウ画面をこちらに見せる。
♦名称:[万人轢き殺す二輪]/属性:炎/種類:両手装備/系統:打撲・騎乗/装備スキル:払迦楼羅/備考:とあるダンジョンの機械兵が残した遺物
「嘘だろ…」
「これが本当なんだよな。さ、乗れや。ちゃっちゃと出発するぞ」
「サー・イエッ・サー!」
俺はバイクの後ろに乗る。馬力えぐそうだな。
てか、攻撃力乗るのか、この武器。
「そういえば、名前は?」
「オレ様はライダーだ。まんまにな」
「なるほど。俺はバツだ」
「「そうか、よろしく」」
出発、進行。
♦名称:首狩り/種類:パッシブ/クールタイム:なし/取得条件:首を刈る/効果:鎖骨から肩甲骨までの範囲に対してダメージが三倍・このスキルダメージで対象を倒した場合、強制的に首を撥ねさせる
♦名称:流転無窮/種類:パッシブ/クールタイム:なし/取得条件:刀系統武器で五連撃以上のダメージコンボを繋げる/効果:攻撃の連続ヒットごとに5%ずつダメージ上昇。連続ヒットの間隔は1秒以内/
♦名称:抜刀術法/種類:パッシブ/クールタイム:なし/取得条件:抜刀を用いての一定以上の技量/効果:どのような系統の刃物でも抜刀出来るようになり、抜刀判定が付く・抜刀速度とダメージが二倍にする




