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神の適正

時を少し遡る。


宿の部屋に侵入してきた盗人を捕らえ、衛兵に突き出したクリソックス達は、二日ほどして冒険者ギルドに呼び出された。

ギルドに着いた二柱は、二階にある執務室のような部屋に通された。

奥に大きな机と椅子があり、何かたくさんの書類が乗っている。

手前には机とソファの応接セット。

そこで二柱を待っていたのは、灰褐色の髪をオールバックにした壮年の男だった。

男の体は鍛えられており、見るからに場数を踏んだ冒険者といった雰囲気だ。


「君達がクリソックスとドロンズだね。私は、シャリアータのギルドを管理しているナック・ケラーニという者だ」

「もしかしてギルドマスターと言われるような人ですか?」

「確かにそう呼ばれているな」

クリソックスは興奮して飛び上がった。

「ドロンズッ!生だよ。生ギルマスだよ!!」

「おお、ファンタジーの定番。ギルマスか。なるほど、強そうだの」

「生ギルマス……。そんな風に呼ばれたのは初めてだな。まあ、いい。座ってくれ」



ナックは二柱をソファに促すと、自身もその対面に座った。


「君達を呼んだのは他でもない。先日君達が捕らえた泥棒の件だ」

「ああ、あの宿屋の人達だね」

「そうだ。実は奴ら、指名手配中の盗賊団の一味でな。君達のおかげで、盗賊団のアジトがわかりそうなんだ。お手柄、というわけだ」

クリソックスとドロンズは顔を見合わせた。

「何かご褒美でももらえるのかのう?」

「おお!お金かな?武器かな?」

「どちらかといえば、金がええのう」

二柱の会話を聞き、ナックが口を挟んだ。

「お察しの通り褒賞金も出るがな、お前達の功績がランクアップに該当するという事で、聞きたい事があって呼んだのだ」

「「聞きたい事?」」


ナックは説明を始めた。

「お前達も登録の時に説明を受けただろう?ランクが上がれば、受けられる依頼の難易度も上がるという事を」

「うむ」

「つまり、実力の伴わないランクアップは、命に関わるという事だ。そこで、ランクアップ時には、ギルドから試験依頼を受けてもらう事になっている」

「そういえば、そんな事を言っておったの」

「ただ、お前達は登録したばかりのFランク。年からするに、実力はあるかもしれん。だが、我々には、どんな実力があるのかわからないし、無いという事も考えられる。そこで、お前達の経験について確認したい」

ドロンズは腕を組んで唸った。

「なるほどのう。確かにわしらの実力は未知数であるな」

「私達、それなりには、実力あるとは思うよ」


クリソックスの言葉に、ナックは「ほう」と期待の声を出した。

「ならば、質問に答えてほしい。登録時のお前達の情報によると、武器の経験も魔法の経験も、一切書かれていない。スキルは、ドロンズが『泥』。これは、土魔法系のスキルか?クリソックスが『靴下』……靴下?!靴下ってなんだ!!」

「ああ、それは『靴下の召喚』と……」

「召喚系のスキルか。なんで、靴下なんだ……。実力がわからなすぎる!」

ナックは二柱の情報が書かれた書類を握りしめ、わなわなと震えている。

「それに、武器と魔法はどうした!最悪武器の経験が無いにしても、魔法の基本的な素養は皆あるだろう!」

クリソックスが首をかしげた。

「魔法の素養?」

「この世界の人間は、皆魔法が使えるという事か?」

ドロンズが逆に質問した。

ナックは、訝しげな表情で二柱を見た。

「お前達、五歳で魔法適性やスキルを確認したろ?」

「魔法適性?」

「だから、火、水、風、土魔法の基本的な四魔法の適性と、それ以外の特殊魔法の有無と適性!四魔法は、皆必ず一つ以上はどれかの適性を持って生まれてくるんだから、お前達もあるはずだろうが!」

二柱はもう一度顔を見合わせた。

「無いよな」

「あ、でもドロンズは土っぽい!私は……、靴下って何に分類されるの?」

「布?布魔法じゃないかの?」

「布魔法なんて、無いわ!!」

ナックがつっこんだ。


「お前達、適性検査を受けてないのか……。どこのド田舎から出てきたんだ?」

「異世界の大都会から来たよな、ドロンズ」

「うむ。世界有数の大都会から転移したのう」

「他国の出身なのか?出身国の欄は……、ニホン?そんな国あったか?まあ、いいか。適性検査キットを持って来させよう」

ナックは何やら懐から石を取り出し、握りしめた。

「ヨミナ、ナックだ。適性検査キットを持って来てくれ……よろしく」

クリソックスがドロンズに耳打ちした。

「なんか、一人言言ってるよ。ああいうの、中二っぽいよね……」

ナックはそれを逃さなかった。

「聞こえてるぞ!ちゅうにって、絶対悪口だろ!」

「クリソックスよ、たぶんあの石は通信機器なのじゃろ?おそらく電話みたいなもんじゃ」

「そうだ。これは通信石だ。これも知らんのか……」


その時、ドアのノックが聞こえ、ナックが入室を許可した。

「入れ」

「検査キットを持って来ました」

「おお、ヨミナ。待ってたぞ。こいつはヨミナだ。私の補佐をしてくれている」

「副マスのヨミナです。よろしくー」

茶髪の軽そうなお兄さんが、軽い調子で二柱に挨拶した。

「副ギルドマスターって事だよね?よろしく、人の子よ。私はクリソックス」

「わしはドロンズじゃ」

「自己紹介も終わったし、検査しちゃいましょうねー。はい、この石を持って!」

ヨミナは二柱に石を持たせた。

しばらくすると、石の色が黒く変わった。

「読み取り完了。じゃあ、この魔法紙に写します」

ヨミナがその石を受け取り、持ってきた紙に当てた。

紙に文字が浮き出てくる。

「何これ、ファンタジー!!」

「おもしろいのう。どんな原理じゃ?」

クリソックスとドロンズが興味津々でその様子を見守っていると、石の色が元に戻り、検査が完了したようだった。


ナックがすかさず、二柱の個神情報が書かれた紙を取り、読み始める。

「お、おい!なんだ、これは……」

「どうしたんですか?……え?嘘でしょ」

ナックとヨミナが驚愕している。

「どんな事が書いてあったんですか?」

クリソックスの質問に、ナックが信じられないという眼で二柱を見た。

「お前達、魔法もスキルも、何の適性も無いぞ……」

「「……えええーー!!?」」



その後、何度適性検査をしても結果は変わらず、ナックは頭を抱えた。

「お前達、何なんだ……」

「「神です(じゃ)」」

「ふざけてる場合じゃない!こんな事、前代未聞だぞ!」

「ふざけてるわけじゃないんだけど、こんな展開あるんだねえ。普通、異世界転移したら、チート能力を得られるんじゃないの?」

「ううむ……。よく考えてみると、わしらは既にチートみたいなものじゃからなあ。一度でいいから魔法、使ってみたかったのう」


残念がる二柱を前にして、ヨミナが適性検査の魔法紙と最初の書類を読み比べながら、言った。

「あ、でも、こっちの登録情報にはスキルが書いてある……いや、靴下って何?」

ナックがはっと二柱を見た。

「そうだ!スキルが無いはずだろう?じゃあ、このスキル情報は何だ?おい、スキル情報は間違いないのか?」

「やって見せようか?」

そう言うと、ドロンズが両手から泥を溢れさせた。

「おお……!確かに、スキルが使えている」

ナック達が不思議そうに泥に触れている。

「あ、私もできるよ!」

クリソックスが靴下の雨を降らした。

「……なんで、靴下?凄いけど、なんで??」

ナックとヨミナは、その後、考えるのを止めた。



「よし、魔法は使えない。スキルも使えないはずだが、なんか使える。そういう事でいこう!」

「事実ですからね!」

ナックとヨミナが自分自身を納得させるように状況を整理した。

「話を戻すが、ランクアップに見合う実力か、戦闘経験を確認したい。それで今のEランク仮昇格から本昇格となる。角ウサギを仕留めた事はあるか?」

「無いです」

「スライムは?」

「無いです」

「ゴブリンは?」

「信者にしました」

「仕留めたかどうか聞いてるんだ!なんだ、信者って?!」

「無いですね」

ナックは肩を落とした。

「もしかして、戦闘経験が無いのか?」

「ありますよ?」

クリソックスの答えに、ナックは食いついた。

「おお、よかった。何を殺った?」

「ドラゴンを」

「……え?」

「ドラゴン」

「今、冗談は聞きたくない。無いんだな?」

「いや、本当にドラゴンを……」

「無いのか……。とりあえず、戦闘ができるかを見るしかないな。試験依頼として、まずは角ウサギ狩り。次にゴブリン狩りだな」

「じゃあ、試験官の選抜をしておきましょう」

「よろしく頼む」



ナックとヨミナは、クリソックスの申告を無視して話を進めている。

クリソックスとドロンズは、「まあ、いいか」と特に気にせず、試験依頼を素直に受けるつもりのようだ。


そして、その準備はサクサクと進み、とうとう試験日となったのである。

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