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ゴブリン改革

『ゴブリンを進化させて特性を変える』

そんなクリソックスの提案をドロンズは呑んだ。


もちろんサラのためであるが、実はちょっと面白そうだったからだ。



そこでドロンズとクリソックスは、この集落のトップであるシャーマンゴブリン達に召集をかけた。


「ギギ?ギギギィ?」


シャーマンゴブリン達の中でも長の立場にあるらしい年配のゴブリンが、二柱に尋ねた。


「うむ。それをこれから皆に話そうと思うのじゃ」

そうドロンズは答えて、ゴブリン達に向かった。


「実はわしらは、お前達をさらに進化させようと思っておる」


ギヨギヨとざわめくシャーマンゴブリン達。

先ほどの長ゴブが動揺したまま、尋ねてきた。


「ギ!?」

「ああ、まことじゃ」


ドロンズは頷いた。

それにクリソックスが説明を加える。


「ゴブリンの子らよ。よく聞きなさい。お前達シャーマンゴブリンは、ドロンズに泥団子の知識を与えられたことで知能が上がり、進化したと考えられる。故に私のクリスマスソックス作りの知識と加護をこの集落のゴブリン全体に与える。そうすれば、お前達はさらに進化するだろう」


「ギギ!」

「ギィギィ!」

「ギギギィ!」


シャーマンゴブリン達が騒ぐのを、クリソックスは抑えるように言った。


「まあ、そう急かないで。ちゃんとお前達には知識も加護もやるから。ただ、この集落のゴブリン全体の話だ。もしかしたら進化でお前達の特性が失われてしまうかもしれない。それでもよいかい?」


クリソックスの言葉に、長ゴブが進み出た。


「ギギ、ギィギィギギ、ギギギギ……」

「そうか。お前達は進化を望む。ファイナルアンサーでいいかい?」

「……ギィギギ、ギンギー!」

「わかった。では、今狩りに出て、集落にいない者もいるだろうから、夜、皆が集まってからにしよう」

「ギ!」

「「「ギギッ!」」」


シャーマンゴブリン達は、会議場を後にした。




そうして、その日の夜。ゴブリンの宴が始まった。


昼間、ゴブリン達が狩ってきた獲物の肉が、フレッシュミートな状態で皆に振る舞われる。

木の実や果物など、森で採れる食べ物もたくさん集めてきたようだ。


しかし、まだゴブリン達は『待て』の状態だ。

何故ならこれから、彼らは生まれ変わるのだ。

弱者から強者へと。

逆ハーから、純愛へと。


たぶん。


緊張感高まるゴブリン達へ、まずドロンズが力を行使した。


「以前、わしの知識を授けておらなんだ者達に、泥団子の知識と加護を授けるぞ。……ほい」

「「「ギギィィー!」」」」


普通のゴブリン達が、シャーマンゴブリンへ進化したようだ。

みんなギィギィ喜んでいる。

見た目全く変わらないから、わからないが。


「ほんとに変わらないよね」

「全くわからんな。それにしても、冒険者ギルドではゴブリンの上位個体はホブゴブリンと聞いておったが、なんでこやつらシャーマンゴブリンにしかならんのだ?」

「不思議だよねえ」


信仰心と神の加護の力で、ゴブリン達が密かに眷属化してしまったためである。

シャーマンゴブリンとは、知能と信仰心が高くないとなれない、ゴブリンには珍しい特殊個体なのだ。

この世界でシャーマンゴブリンが見られるのは、邪神の支配下にあるゴブリンくらいである。


シャーマンゴブリンは進化に伴って基本ステータスが全体的に高まるが、特に信仰する神の影響を受けた特殊魔法が使えるようになる。

邪神の配下のシャーマンゴブリンは、闇魔法に特化しており、精神攻撃やステータス異常攻撃を放ってくる。

では、ドロンズの眷属となったゴブリンはというと……。


「ギィッ」

ベチャッ

「ギギッ」

ベチャッ

「「ギ~ッギッギッ!」」


「なんか楽しそうに泥団子を生み出して投げ合ってるね」

「なるほど、土魔法に特化したゴブリンになったのか。クリソックスよ、お主が知識と加護を与えたら、ゴブリンらはどうなるのかの?」

「それは……俄然興味が出てきたよ♪」


ドロンズとクリソックスは、顔を見合せてニヤリと笑った。

クリソックスが、シャーマンゴブリン達に声をかける。


「シャーマンゴブリン達よ!私の知識と加護も授けよう!」


クリソックスがゴブリン達にクリスマスソックスに関する全ての知識と加護を与えた。


おや……?


ゴブリン達の体が、輝き始めた。

ゴブリンの体が、変化を始めた。手足が長くなり、体つきは逞しく、その顔はどこから見ても女性受けしそうなイケメンに変わっている。


「な、なんじゃ?何が起きておる?」

「わからないよ。なんで私の時だけ、メタモルフォーゼ!?」


「ギ……ギギ!」

「ギィギギィッ!」

「「「ギギィ!ギギギィ!!」」」


「こ、声まで、イケボ!」

「なんか、イケボで喜んでおるぞ!わしの時は土魔法で、お主はイケメンイケボ化とか、何故か悔しいぞ!」

「落ち着くんだ、ドロンズ!私自身は別にイケメンイケボではないじゃないか。よく見るんだ。君と同じ爺だろう?」

「それはそうだが、よく見るとお主、わしよりは、イケオ(ジン)じゃ!背が高く、髪もふさふさで、外国人顔のイケオ(ジン)じゃっ。なんという神格差!外国人顔ずるいぞっ」

「……褒めてくれてくれてありがとう?」

「くうぅ!もげるがよいっ(祟り)」

「そんな祟られても、私達にはもげるものがないよ、ドロンズ……」


喜ぶイケメンゴブリン集団と、荒ぶる祟り神。なだめるイケオ(ジン)。ちょっとしたカオスである。


しばらくしてドロンズが落ち着いた頃、二柱はゴブリン達にどんな変化があったのか事情聴取を開始した。


「ギィギィギギィ」

「ギギギィギィ、ギギギギ、ギィ」

「ギィギギギィ、ギギ、ギィギィギギィ」


「なるほど。クリソックスの知識と加護が身の内に入ってきた時に、クリスマスに何が欲しいか尋ねられた気がした、とのう」

「それで、皆、人間の女を苗床にしたいと願った。そうしたら、その姿になってたんだね?」


ドロンズは、クリソックスを見た。


「お主、何かクリスマスソックスに関わる特殊な力を持ってはおらんか?」

「ええ?特殊かどうかは知らないけど、私はクリスマスプレゼントを入れるクリスマスソックスの神だよ?その能力といえば、クリスマスソックスの中に欲しいものが得られるようにしてあげるくらいだよ?」

「クリスマスソックスに……欲しいもの……」


ドロンズとクリソックスは、以前クリソックスが召喚したクリスマスソックスを身に付けているゴブリン達を見た。


「ああ、なるほど彼ら自身がクリスマスソックスの中に入ってたから……」

「お主の進化のギフトは無茶苦茶じゃな」


二柱の加護を受けて眷属となったハイパーシャーマンゴブリンのステータスはさらに上がり、なおかつイケメンイケボになっている。

彼らも知能が高くなり、丸出しはまずいと思ったのだろう。

多くのゴブリン達が、まだ使われていないクリスマスソックスを持ってきて、木の棒を使ってうまくソックス同士を繋ぎ合わせて服を作っている。

イケメンの上に女子力も高いとは、今後苗床に困らないのではないだろうか。



「「まあ、いいか」」


他のハイパーシャーマンゴブリンと同じく、サラに苗床になってほしくてイケメンイケボになったスタニスラスを見て、二柱はそう呟いた。

人間の女に受け入れられる姿なので、体が緑で少し耳が尖っているくらいで、あとはほぼ人間と同じ姿かたちなのだ。

むしろ、そこらの人間の男よりも、女にもてるだろう。

サラは言うまでもないが、父親のシモンズや他の人間にも受け入れやすくなったかもしれない。


そしてこれほど強者になれば、苗床逆ハーの特性も薄れているだろう。

そのあたりは、ゴブリン達の苗床への意識の変化を確かめなければならないが。



二柱は、嬉しそうなハイパーシャーマンゴブリン達を見て、満足そうに頷いた。

その夜、ハイパーシャーマンゴブリン達による喜びと神への感謝の宴は、朝まで続いたのである。

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