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ゴブリンの若者

いつも読んでくださり、ありがとうございます!


集落のあちこちから、ゴブリン達が集まってくる。

突然現れた人間に警戒しているようだ。

だが、木の棒やボロボロに刃こぼれしたショートソードなどの武器を構えてはいるが、どこか困惑している。

人間の成体の雄などどう考えても、敵だ。

しかし、何故か刃を向けてはいけない気がするのだ。

よってゴブリン達は一定の距離を開けたまま、ただドロンズとクリソックスを囲むのみである。


そこへ、集落一大きな小屋からやって来たゴブリン達が、二柱を見るなり跪いた。


「ギギッギャッ!ギギッ」


周囲と違い、ロングの衣をまとうゴブリンの一体が、周囲に知らしめるように声を出す。

すると、ゴブリン達が次々に跪き始めた。


「どうやら、私達の事を知っているゴブリンみたいだね。商人のシモンズ達を襲っていたゴブリンの中の一体かな」

「そうだのう。何やらこやつらはゴブリンの中でも地位が高いようだ。妙に衣も長いし」

「ん?」


クリソックスはゴブリン達の来ている貫頭衣をまじまじと見た。

なんか、どこかで見た柄だ。


「ああっ!!この布、ドロドロのボロボロで凄く汚くなっててわからなかったけど、私が召喚した靴下!!」

「な、なにぃ!!?」


知らぬ間に、ゴブリン達に靴下ファッションが根付いていたようである。





その後、ロング靴下ファッションのゴブリン達に、大きな小屋に案内され、靴下を開いて広げたような敷物の上に座らされた二柱は、ゴブリン達から色々と話を聞いていた。


「なるほどのう。わしが知識を授けた時にあそこにいたゴブリン達が皆、シャーマンゴブリンに進化をのう……」

「ギギィ、ギギギギッ」

「それで、私達を祀るために社を建てて布教してくれたんだねえ」

「ギギギギィ、ギッギギッ」

「え、あの時の靴下をゴブリン総出で持ち帰って、活用してるの?あ、それで、服を……」

「ギィギィギギィ……」

「ああ、進化してから、腰巻き一枚なのが恥ずかしくなったのかあ。あれ、じゃあなんで下が丸出しなんだ?」

「ギギッギギッ、ギギィギギィ」

「階位の違いを靴下の面積で表してる?へえー。進化した君達は、それで、靴下服の裾が長いのか。え?丸出しの方が排泄や繁殖行動の邪魔にならないから効率がよい?それ、もう退化してない?」


あの時のゴブリン達は、知識を得て賢さが上がり進化したという。

賢くなったゴブリンは、集落に明確な階級制度を敷いたようだ。

丸出しゴブリンは下級兵士で、たくさん神の靴下をまといたくば、頑張って進化しろとというわけだ。

おかげで多くのゴブリンが狩りに精を出して、集落内にホブゴブリンが増えているらしい。


「ああ、確かに見えそうで見えない丈の衣をまとったゴブリンが何体かおったのう」


ゴブリンが進化すれば、力も賢さも上がる。

進化したゴブリンの子どもは、能力の高い子どもになるらしい。

こうして皆の賢さが上がれば、集落に文化が生まれる。ゆくゆくは文明が生まれるかもしれない。


「ギギィギィッ♪(皆が進化すれば、苗床集めが捗ります♪)」


素晴らしい笑顔でシャーマンゴブリンはサムズアップした。

こういう所は、所詮ゴブリンである。

二柱は、犯罪者集団に翼を与えてしまったらしい。


ドロンズとクリソックスは少しだけ顔をひきつらせたが、その話は後回しにして、とりあえず本来の目的であるサラの恋のお相手を探すことにした。


「ところで、わしら等はあるゴブリンを探しておってのう」

「以前、人の娘と共にドラゴンに食べられそうになっていたゴブリンなんだけど、彼はどこに?」


シャーマンゴブリン達は、複雑そうな表情を浮かべて顔を見合わせた。


「ギギィ、ギギギ……」

「え?病気!?そのゴブリンが?」

「ギギィ……」


実は……とゴブリンが語ったところによると、そのゴブリンは、スタニスラスという名のまだ若いゴブリンである。

彼もまたシャーマンゴブリンに進化したのだが、あれ以来、苗床に興味を示さなくなったのだという。

そうして、ぼーっと遠くを見たり、人間の馬車を探して森をさ迷い歩いたり、町に近づき過ぎて討伐されかけたりと、奇行が増えた。

ゴブリン達はどうしてよいかわからず、スタニスラスを遠巻きに見ているだけらしい。


「そのスタニスラスはどこに?」

「ギギッ?(スタニスラスですか?)ギギィ(ご案内します)」


クリソックスの問いかけに、一体のシャーマンゴブリンが案内役を買ってでる。

そして二柱を促し、小屋の外へと歩き出した。


「彼らの中では、スタニスラスと呼んでいるんだろうけど、単純に音で聞けば『ギギ』としか聞こえないのが不思議だよねえ」

「わしらはあらゆる生き物の本意を知り得るが、何をどうやって『ギギ』をスタニスラスと翻訳したのであろうのう」


オーガニックにも言えることだが、魔物の言語はどうなっているのか。

二柱は気にしてはいけない暗黙の異世界ルールに突っ込みながら、シャーマンゴブリンについていったのである。






とある小さな小屋の中に、スタニスラスはいた。

シャーマンゴブリンは、この集落の中ではトップエリートに属する。

故に、彼らは自分専用の小屋を持っているのだ。


その小さな牙城の中で、ロング靴下を着たスタニスラスは三角座りし、何やら物思いに耽っていた。

いかにも空虚なスタニスラスは、開け放たれたままの入り口からずかずかと中に入ってきた人間の男らしき二人を目に留めるや、虚ろなその目に生気を取り戻し、転がらんばかりに二人の前に飛び出てきた。


「ギ、ギギッ!!ギギィッギギッギィギギッ!!」


スタニスラスは、その二人組、ドロンズとクリソックスの足にすがりついて、何やらまくしたてる。

クリソックスが少しかがんで、スタニスラスの肩に手を置き、優しく話しかけた。


「ああ。大丈夫。サラなら元気だよ。そうか、ゴブリンの子。君もサラを思っているのだねえ」




クリソックスとドロンズの目には、スタニスラスの赤い糸がはるか遠く、シャリアータの方角に伸びているのが見えた。


人の娘サラと、ゴブリンの少年スタニスラスは、相思相愛だったのである。


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