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013 いたちメイドと日本一のどら焼き

「クフフ……フハハハ……アーハッハッハッ!!」


 先日つむぎに教えてもらったマンガ、実に面白い!

 自室にいると、ついついスマホでマンガばかり開いてしまう。


「マンガとは、色んな物語があるのだな。取りとめもなく、読みふけってしまうぞ」


 現代の物語はもちろん、様々な過去の時代の物語も膨大にある。

 それに負けず劣らず、異国や異世界の物語も豊富だ。

 更には未来を予想した世界の物語まで……。

 仕事もしなくてはいけないというのに、読む手が止まらない。

 いや、これも仕事のうちか。

 人間界の勉強が、捗る捗る――


「るんるんる~ん♪ るんるんる~♪」

「ん?」


 少し扉の開いた我の部屋の前を、鼻歌まじりの掃除メイドが通りかかる。

 メイドは獣魔族、カマイタチの愛らしい少女。

 クルクルと回るように踊りながら、風魔法でゴミを頭上に集めていく。

 廊下や階段を主に担当している彼女は確か――


「ステア」

「ば――――!?」


 近づいて声をかけると、彼女は驚き動きが止まってしまう。

 すると次の瞬間、頭上に集めていたゴミがバサバサと落ちてきた。


「すまない、驚かせてしまった……」

「イ、イザベルしゃま! ごめんなさい~! すぐ片付けます!」


 ステアは高速回転でゴミをかき集め、収容袋の中に片付けていく。

 こちらの落ち度だというのに、申し訳ない。


「お待たせしました! 何かごようでしょうか?」


 ゴミを全て回収したステアが、こちらを見上げた。

 そんな彼女に、先日アメ横で買った菓子の袋を見せる。


「用と言うほどのことではないのだが、コレを貰ってくれないだろうか?」

「これは……キレイな絵の箱がたくさん……」

「ああ、全て菓子なんだが」

「お菓子ですか!?」


 驚きと嬉しさの入り混じった顔で、硬直するステア。

 菓子は好きだが、魔王から物を貰うことに遠慮しているのだろう。


「面白い商売を見たので買ったものの、我一人では食べきれなくてな。確かお前は三姉妹だろう? 姉妹で分け合って食べるとよい」

「あばばば……お菓子しゃまからこんなにたくさん魔王をいただくなんて……」

「落ち着きなさい、ステア。遠慮しなくていいのだよ」

「はっ!?」


 動揺するステアをなだめると、どうやら気を持ち直したようだ。

 両手で菓子の入った袋を抱えて、丁寧にお辞儀をするステア。


「ありがとぅござましゅ、イザベルしゃま! しゃんとお姉しゃまたちゅにも伝えましゅわ!」


 噛み噛みでお礼を言うと、ステアは一目散に駆けていってしまった。

 どうやら、まだ緊張が解けていなかったらしい。

 カマイタチは魔王城周辺では、力の弱い種族であるからな。

 我の威圧を、強く感じてしまったのやも。

 少し……寂しい。


「――さて、我もそろそろ行くか」


 気を取り直して、玉座の間へと向かった。



■■■



 つむぎに指定された駅、蔵前(くらまえ)――

 前回の馬喰横山(ばくろよこやま)駅同様に、地下にある駅なのだな。


「今日は浅草に行くと聞いていたが、蔵前という駅で待ち合わせなのだな……」

「イザベルちゃん! おはようございます」


 ほどなくして、つむぎがやってきた。

 なんだかいつもよりそわそわしていて、落ち着きのない様子である。


「あの、今日は最初に行きたい場所があって。結構並ぶと思うので……イザベルちゃん、トイレとか大丈夫ですか?」

「ん? ああ、特に問題ないが……」

「それじゃあ、行きましょう! ネット情報だと、今は列が少な目みたいなので!」

「あ、おい、つむぎ!?」


 いつもよりかなり速い速度で、つむぎが歩きだす。

 地下から出て、高いビルの並ぶ大通りを進んでいく。


「駆け足ですみません! 本当は蔵前も、オシャレなカフェとか色々あるんですが……」


 何をそんなに、急いでいるのか。

 途中でアニメや漫画のキャラクターの像の多くある場所の前を通ったが、つむぎは気に留める様子も無かった。


「あ、ちなみに蔵前と言うのは、大名屋敷の蔵屋敷というお屋敷がたくさん並んでたのが由来なんですよ!」

「そう、なのか……」


 大名屋敷と言うのはいくつか種類があり、複数の館を持っているのが一般的だったらしい。

 先日の江戸城跡の周辺にあったのは上屋敷といって、通常生活をする場所。

 ここの地名の由来である蔵屋敷とは、米などを貯蔵して売ったりする屋敷だったそうだ。


「あの列だ! 思ってたより伸びてるな……でも、まだ短い方か」


 先方の道の端に、人の列が見えてきた。

 その最後尾に、我らは並ぶ。


「ふう。まあまあな場所に並べたかな」

「つむぎ、これは何の列なのだ? 先が見えないのだが」


 列の先頭ははるか先で、どこに続いているのかわからない。

 並んでいるのは老若問わずご婦人方や、ご夫婦連れが多いようだが。


「ああここは、日本一のどら焼きのお店の列です!」

「日本一の、どら焼き……」


 確かその菓子は、マンガに出てきたな。

 日本の古くからある菓子で、青い機械人形が好んで食べていた。

 それほど珍しい菓子だとは、感じなかったが……。


「菓子に、こんな並んでいるのか……!?」


 並んでいる間に、我らの背後にもみるみる列が伸びていく。

 ほどなくして、最後尾がどこかわからなくなってしまった。

 日本人はそこまで、どら焼きが好きなのだろうか?


「本当に美味しいんですよ! イザベルちゃんだって、食べたらわかります!!」

「そ、そうなの、か……?」


 つむぎがそこまで言うなら……日本一のどら焼きとやら、食べてみよう!

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