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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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古き神話

「これ……」


「これはフェンツェルの歴史として聞いてくださいねぇ」


 前置きをしたギーヴは、アビゲイルの目が釘付けになっている本のページをぺらぺらと捲りつつ、歴史について語り始めた。


「その昔、ローアシア大陸には二人の神がいました。終焉の神は全てのものに平等に終わりを。新生の神は全てのものに等しく始まりを与えます。生きとし生けるものは全て、二人の神を崇拝していました」


「…………終焉の神?」


「面白いでしょう。エレンディーレの神話とどこか似ていますよねぇ」


 アビゲイルは本に視線を向ける。

 ギーヴのいう終焉の神というのが、どこか引っ掛かる。

 生きとし生けるものに等しく終焉を与える。

 ……それは、死ということだろう。

 ならその存在は――。


「二柱は命あるものたちを慈しみ、お互いを唯一とし大切にしました。……我々は二柱の子である」


「人類だけじゃない。命ある全てのものは新生の神によって命をもらい、終焉の神によって終わりを迎える。昔の人はそれを当たり前のように受け入れていたんだな」


「そのとおりですぅ。人と神の距離も近くて、人々の信仰心も高かったようですねぇ」


 命が始まれば、必ず終わりはくる。

 今の人たちは死を恐れ離そうとするけれど、昔の人たちはそれを当たり前と受け入れていたのか。

 だからこそ、どちらの神も信仰していたのだろう。


「物語はかなり長いので要約しますけれど、二柱は夫婦でもあったと聞きますぅ」


「夫婦……」


「とても仲のよい夫婦だったらしく、人々からは夫婦円満の神とも言われていたようですよぉ」


「素敵な夫婦だったのね」


 夫婦円満を願う対象としても見られていたなんて、二柱の仲睦まじさは相当なものだったのだろう。


「二柱は神として崇められ、二人で一緒に過ごしていました。そんなある日、彼らの元にとある神がやってきます」


 そうしてギーヴはページを戻し、章の表紙を指差した。

 そこには三人のうちの一人がいた。


「彼女は癒しの女神。生きとし生けるものに等しく癒しを与えました。人々に癒しを与える彼女は、見事この地に住むものたちの信仰心を育んでいきます」


「――」


「彼女は美しく優しい、素晴らしい女神でした」


 ギーヴはもう一度本を捲り、今度はページを進めた。

 そこには一枚の絵が描かれている。


「彼女は二柱とも仲良く暮らしていましたが……ある事件が起きました」


 その絵は、見ていて気分のいいものではなかった。


「癒しの女神は、終焉の神に恋をしてしまったのです」


 おや?

 とアビゲイルは顔を上げた。

 少なくともこの時点で、アビゲイルの知るエレンディーレの神話とは違ったのだ。


「しかし終焉の神は新生の神だけを愛し、やがて二柱の間に新たな生命が宿りました」


「……神様も子どもを授かるのね?」


「神話ってそんなものばっかりですよぉ?」


 そうなのかと、アビゲイルはちらりとギーヴの後ろにある本棚を見つめた。

 歴史も案外面白いのかもしれない。

 今度個人的にここに来ようかなと思っていると、ギーヴが話を続けてくれた。


「新生の女神は人と同じく自らの胎で子を育てていた時。とある事件が起きました」


「――……」


 ああ、とアビゲイルは視線を下げる。

 その瞳に映ったのは先ほどまで見ていた絵だった。


「癒しの女神は嫉妬心を覚え、新生の女神を殺害してしまったのです」


 イラストはその場面を表しているのだろう。

 横たわる女性の隣に立つその人は、涙を流しながら笑っていた。

 そんなおぞましいイラストに、アビゲイルは眉を寄せる。


「そして自らの想いに答えてくれない終焉の神にも手を伸ばしました。しかしまだ彼のことを愛していた癒しの女神は、殺すことはできませんでした」


「――もしかして、封印……?」


「その通りですぅ。終焉の神を冥府に封じた癒しの神は、その後彼が封じられた場所で自ら命を落としたと言われています。新生の神、終焉の神、そして癒しの神。三柱を失った世界は天変地異に見舞われ、大地は裂かれたと言われています」


 話はざっくりですが終わり、と言われアビゲイルは頭の中でギーヴの話を噛み砕く。

 アビゲイルたちの知る神話とよく似ているけれどあまりにも違いすぎる内容だ。

 もし仮にこれが、エレンディーレに伝わる神話の元となったのだとしたら、だいぶ話が変わってしまう。


「……ねえ、ギーヴ」


「はぁい。なんでしょぉ?」


「その話、信憑性はどれくらいあると思う?」


「先ほども言いましたけれど、歴史というのは書き換えられてなんぼ、みたいなところがありますからねぇ。とはいえ、これは僕が知る中でも最古の歴史だと思いますよぉ」


 アビゲイルはしばしの沈黙ののち、本を持つと立ち上がった。


「この本お借りしてもいいかしら?」


「もちろんですぅ。歴史に興味を持っていただけるのは、こちらとしても嬉しいことなのでぇ。あ、他の本もいかがですぅ? 王女殿下のためになると思いますけれどぉ」


「そちらも後日借りるわ。一応この本を読んでみて……いろいろ私の中でも考えてたら、またあなたにお話を聞いてもいいかしら?」


「……もちろん! 歴史を話すのは大好きですからねぇ」


 嬉しそうに手を振るギーヴに礼を言いつつ踵を返したアビゲイルは、とたんに難しそうな顔をした。


「……もっとちゃんと、調べなきゃ」


 関係ないことだとは思えない。

 ここで聞いた話の全てが、アビゲイルにとっては知らないことだらけだった。

 ならきっと、まだ理解できていないことがあるはずなのだ。


「ひとまず、この本を読んでから話をしましょう」


「わかった。……俺の方も、フェンツェルの歴史については調べておく」

 

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