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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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歴史学者

 学院にある歴史研究は、一棟丸々使っているらしい。

 数多の歴史書を抱えたそこは、丸い塔のような形をしている。

 壁は本棚と一体化しており、書物が無数に置かれていた。

 古い紙とインクの香りに包まれたそこには、三十を超える生徒が在籍しているらしい。

 アビゲイルやアリシアが通う薬草学は十五人程度なので、歴史という分野が人気なのがよくわかる。

 そんな歴史の宝庫へとやってきたアビゲイルとグレイアムは、目的の人を見つけると近寄った。


「ギーヴだな?」


「……どちらさまぁ?」


 なんだか独特な雰囲気の人だ。

 ギーヴと呼ばれた彼はゆったりと振り返り、アビゲイルとグレイアムを見て眉を寄せた。


「おんやぁ? アビゲイル王女殿下にブラックローズ公爵じゃないですかぁ?」


 間延びしたゆったりとした口調で話し始めたギーヴは、二人を見て首をかくんっと傾げた。


「ぼくになにかご用意ですかぁ?」


 右目にモノクルをつけた、色白の男性。

 薄い茶色の瞳と、金に近い茶色の長い髪。

 無造作に一つに結われた髪を揺らしながら、ギーヴは椅子くるりと回しアビゲイルたちと向き合った。


「あんまり人と話すのは得意ではないんですがぁ」


「お前の得意としている歴史の話を聞きにきたんだ」


「…………」


 ギーヴはぱちくりと瞳を瞬かせると、しばし沈黙した。

 その後たったの数秒で真っ白だった頰に赤みがさし、ギーヴは勢いよく立ち上がる。


「歴史ですか! なるほどそういうことなら確かに僕の出番ですね! なにが知りたいんです? エレンディーレ? フェンツェル? チャリオルト? 全ての歴史を記憶しておりますので、ぜひ僕にお聞きいただければと思います、ええ!」


「ちょっ……」


「落ち着け。そんな風に詰められては聞くに聞けない」


 先ほどまでの間延びした口調はどこへやら。

 ギーヴは早口で捲し立てるように話し始め、アビゲイルは思わず一歩後退りしてしまった。


「おっと失礼! 歴史を知りたいなんて素敵な言葉を言われますと……大変興奮します」


 ほお、と恍惚に濡れる瞳に、アビゲイルはさらにもう一歩下がった。

 ギーヴが変人で変態だと理解したアビゲイルは、会話のほとんどをグレイアムに任せることにした。


「落ち着け。落ち着いて話をさせてくれ」


「…………ふむ」


 興奮気味のギーヴを見ても動じないグレイアムに落ち着きを取り戻したのか、ギーヴはそう小さく呟いてから椅子へと座りなおした。


「失礼。興奮のあまり我を忘れてしまいましたぁ。……それで? なにをお聞きになりたいとぉ?」


 またおかしな話し方に戻った。

 やはり変な人だなとアビゲイルはグレイアムの背中越しに、ギーヴの様子を観察する。


「エレンディーレの歴史についてだ」


「得意分野ですねぇ。どこらへんをお聞きになりたいんですかぁ? ぼぉくとしましては約百五十年ほど前の三ヶ国合同戦の話が一番盛り上がる……」


「エレンディーレの神話についてだ」


 長くなりそうなギーヴの話を遮ったグレイアム。

 だがギーヴは気にした様子もなく、モノクルをきらりと輝かせた。


「……ふむ。神話ですかぁ」


 ちらり、とギーヴがアビゲイルを見る。

 神話と聞いて彼の脳内に死の神が浮かんだのだろう。

 アビゲイルの赤い目を見つめ、そっと腕を組んだ。


「いいでしょう。神話に関しては諸説、皆様がご存じないものが存在していますぅ」


「俺たちが知っているのは、死の神が女神を死の世界に連れて行ってしまったというものだ」


「一番メジャーなやつですねぇ」


 ギーヴは立ち上がると近くの本棚へと向かう。

 まるでどこにどの本があるか理解しているようで、迷うことなく数冊の本を集めていく。

 そんな彼の後ろ姿を見つつ、アビゲイルはグレイアムにこっそりと話しかけた。


「やっぱり、私たちが知らない神話があるのね」


「みたいだな。……『真実は隠されている』の言葉、意味があるようだな」


「ひとまずこれくらいでいいかもですねぇ」


 ギーヴが五冊ほどの本を持ってきた。

 本のタイトルも五つ。

 エレンディーレ神話。

 フェンツェル王族。

 チャリオルトの軍神。

 死と生の神。

 ローアシア大陸の全て。


「……見たこともない本だわ」


「出回っているものではないのでぇ。普通の人は知らなくても当たり前かとぉ」


「読んでみてもいいかしら?」


「これは写しですから、お好きにどうぞぉ」


 本物は歴史的価値があるからか、きちんと別の場所で保存されているらしい。

 これはただの写しだからと言われ、アビゲイルは遠慮なく手を伸ばした。

 ひとまず一番上にあったエレンディーレの神話をパラ読みし始める。


「……この本が、全てエレンディーレの神話に関係していると?」


「そーなんですよぉ。だから歴史って面白いんですぅ。どこかで別の歴史と繋がっていることがありますからぁ」


 アビゲイルは本を斜め読みする。

 内容はグレイアムから聞かされた、みんなが知る神話と変わりはない。


「ちなみに近隣諸国を合わせたローアシア大陸は、過去一つの国だったと言われています。ゆえに必ずどこかで繋がりがあるんですぅ」


「そうなの?」


 今は海を隔てたところにあるというのに、昔は繋がっていたなんて考えられない。

 それだけ長い年月が経ったのだなと感心しているアビゲイルの隣で、グレイアムは大きく目を見開いた。


「……ちょっと待て。フェンツェルとも……同じ国だった?」


 驚きの声を上げるグレイアムに、目の前にいるギーヴはにやりと笑う。


「そうなんですよぉ。不思議でしょう? エレンディーレとフェンツェルは同じ国だったと言われているのに、その考えがあまりにも違いすぎる。……例えば、赤について――ね」

 

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