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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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真実?偽り?

「……真実は隠されている、か」


「ええ。死の神はそう言っていたわ」


 学院にあるグレイアムの部屋で、アビゲイルは見た夢の話をした。

 死の神との会話の内容はうすらぼやけてしまっているが、彼が覚えていろと言ったことだけは鮮明に残っている。


『戯言に惑わされるな。真実は隠されている。……お前はそれを、知っているはずだ』


 思い出せ、と彼は言った。

 それはつまり――。


「私は……なにかを知っている。それを無意識に忘れているってことよね」


「そうだな。そしてそのアビゲイルの記憶が、真実ということだろう」


 アビゲイルが忘れている【記憶】が真実なら、今アビゲイルが知る【知識】は嘘ということになる。

 一体なにが嘘で偽りなのか……。


「……死の神との会話は、そこしか覚えてないんだな?」


「ええ。……ごめんなさい。もっとちゃんと覚えていられれば……」


 真実を探す手掛かりになったかもしれないのに。

 悔しさから顔を下げたアビゲイルの頭を、グレイアムが優しく撫でる。


「アビゲイルが気落ちする必要はない。むしろ今の会話だけでもかなり絞られた」


「――本当に?」


 アビゲイルは思わず顔を上げ、グレイアムの顔を注視した。

 たったこれだけの会話で絞り込めるなんてすごすぎる。


「そもそもアビゲイルが死の神について知っていることは少ない。そのうえで彼との会話で【戯言に惑わされるな】と言ってくるということは、やはりアビゲイルが知ること……つまり歴史の話だと思う」


「――歴史?」


「そうだ。未来のこと……つまりはゲームの内容だな。死の神の復活にアリシアの覚醒についてかとも思ったが、それも歴史が変われば見方が変わる」


「……ごめん、ちょっとわからないかも…………?」


 ダメだ。

 理解できないと額を抑えかけたアビゲイルに、グレイアムはわかりやすく噛み砕いて説明してくれた。


「簡単な話だ。――俺たちが知っている死の神について、そもそも歴史が違っていたら?」


 死の神について知っている歴史。

 神話の時代、女神によって栄えていたこの国は、彼女を崇め信仰していた。

 しかしある時、そんな女神に恋をした死の神は彼女を連れ去ってしまう。

 女神を失った大地は荒れ果て、世界は大変なものとなってしまった。


「……その歴史が、そもそも違うってこと?」


「可能性の話だ。……だが一つ、不思議に思っていたことがある」


「そうなの?」


 グレイアムはこくりと頷くと、ふと窓の外を見た。


「神話の話は確かに誇張されたり改変されたり、そのままでは残らないものが多い。……だが不思議に思ったんだ」


 グレイアムは眉間に皺を寄せ、今度はアビゲイルをその瞳に写す。


「隣国、フェンツェルで赤は神の色とされているだろう? いくら海を隔てているとはいえ、こんな近い距離で真逆な考えになるだろうか……?」


「――」


 言われてみれば確かにそうだ。

 隣国であるフェンツェルでは神は赤を纏うとされ、王族ですら赤を好む。

 これほど真逆な考えが、距離の近い国同士で起こり得るのだろうか?


「……もしそうなら、とんでもないことよ?」


「もちろん仮説だ。……だが事実、歴史は変わる。戦争なんていい例だ。勝ったものが好きに変えることができるからな」


 もしだ。

 もし仮に、グレイアムのいう通り歴史が変わっていたとしたら。

 死の神と呼ばれる存在が、悪でなかったとしたら……?


「…………歴史を調べるしかないわね」


 過去を知ることが、一番の近道かもしれない。


「仮説があっているにしろ間違っているにしろ、調べないことには意味がないわ」


「そうだな……」


 グレイアムは顎に手を当て考えるようにしばし沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「そういうことなら、ここに来たのは最善だったかもしれないな」


「……どういうこと?」


 最善とはなにか。

 小首を傾げるアビゲイルに、グレイアムは微笑みを返す。


「この学院は知識を求めるものが集う場所。当然世界各国の書物なんかも集まるし、なにより……」


 グレイアムの瞳が窓の外に向けられる。

 確かそっちは学院の研究所がある方角だ、とアビゲイルは思い出す。


「天才も多く集まる」


「天才?」


「歴史を研究する者の中でも、群を抜いてすごい奴がいる。……そいつに話を聞いてみよう」


 なにが楽しいのか。

 グレイアムの口角はほんのり上がったままだ。


「そんな人がいるの?」


「ああ。自国も他国も、歴史と呼ばれるものはほとんど覚えていると言っても過言じゃない。そいつ本人が歴史の図書室だ」


 歴史の図書室。

 つまり片っ端から歴史書を漁らなくてもいいということらしい。


「そんな人がいるなら話は早いわ。さっそく明日にでも……」


「問題は当人だ」


「問題? なにか厄介な人なの?」


「厄介も厄介だ」


 グレイアムは立ち上がると机の上にあった紙を一枚持ってきて、アビゲイルに手渡した。

 確認すれば、そこにはグレイアムが教えてくれたアリシアの攻略対象たちが載っている。


「……この人たちがどうしたの?」


 死の神とのやりとりのせいで忘れていたけれど、この人たちとも接点を持たなくてはならない。

 アリシアの望むゲームのシナリオを止めるために。

 先は長そうだと思わず顔を歪めたアビゲイルの視界に、とある名前を指すグレイアムの指が映る。


「歴史学者ギーヴ。この男が歴史の図書室で……アリシアの攻略対象だ」

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