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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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私が主役

「悪役……? あなた、なにを言って……」


「はぁ? しらばっくれるんじゃないわよ。これだけストーリーを変えてるってことは、あなたも転生者なんでしょ?」


 アリシアの言ってることが全くわからない。

 まるでグレイアムが過去の出来事を話しているときのようだ。


「せっかく! ヒロインのアリシアに生まれ変わったんだから、楽しいハーレム人生を送ろうと思ってたのに! どうして悪役のあんたが、グレイアムと婚約してるのよ!」


 意味わからないと金切り声を上げるアリシアに、アビゲイルの頭に、ふと一つの仮説が浮かんだ。

 もし、だ。

 もしグレイアムのいうように、この世界がゲームという作られた物語なのだとしたら。

 そしてグレイアムのように、別の世界でその物語を知っている人がいるのだとしたら。

 彼と同じような人間が、いないとなぜ言える?


「――……アリシア、あなた……別の世界から来たの?」


「ほらやっぱり! あなたも転生者じゃない! きっも! 自分がアビゲイルに転生したからって、物語を変えようとするなんて最低よ!」


 アビゲイルはそっと己の口元へ手を当てた。

 小刻みに震える手を、反対の手で抑える。

 なにが起こっている?

 どうなっているんだ?

 そんな考えで頭がぐちゃぐちゃになったとき、ふと窓の外にいるグレイアムが動いたのがわかった。

 彼は今、この部屋に入ろうとしているのだ。

 アビゲイルはその姿を見たとき、思わず大きな声を出していた。


「――だめよっ!」


 目の前にいるアリシア、そしてグレイアム。

 そのどちらも一瞬だけ動きを止めた。

 アビゲイルはそれを確認してから、不敵に微笑む。


「だめよ、アリシア。あなたは女神の生まれ変わりでしょう?」


 わからないけど、なぜか思ったのだ。


 ――グレイアムが転生者であると、アリシアに知られるわけにはいかないと。


 だからここらかは賭けだ。

 そして常にしてきた演技を見せる時だ。

 アリシアの気を自分に惹きつけ、会話を合わせる。

 一か八かの博打だが、やるしかないだろう。


「そんな言葉遣い【あの】アリシアには相応しくないわ」


 思い出せ。

 グレイアムとの会話を。

 頭を回せ。

 アリシアが納得する言葉を。

 アビゲイルが転生者であると、思い込ませるのだ。


「…………そうね。確かにその通りだわ」


 アビゲイルのどの言葉が刺さったのか。

 アリシアはニヤリと笑う。


「せっかくヒロインになれたんだから。主人公のアリシアらしくしないと……!」


 アリシアは主人公であり、ヒロインであるらしい。

 意味なんてわからないが、アビゲイルは必死にその言葉を頭に叩き込んだ。


「みんなに愛される可愛いアリシア。女神の生まれ変わりである特別な存在。……ああ! なんって最高なの!」


 両頬に手を当て、恍惚に頬を染めるアリシア。

 そんな表情ですら人を惹きつける魅力があるのだから、彼女は天性の人たらしなのだろう。


「ゲームではなかった大団円。私が望むならできるはずよ! 一人なんて選ばなくていい。みんな私を愛せばいいの!」


 アリシアはその場でくるくると回ると、楽しそうに言い放った。


「この世界が私を愛してるんだから、私も愛してあげるの! そうすればみんなが幸せになれるんだから。だから――」


 楽しそうなアリシア。

 だが次の瞬間――。


「だから――アビゲイルは悪役じゃなきゃいけないのよ」


 アリシアの鋭い瞳がアビゲイルを射抜いた。


「アリシアの物語において、アビゲイルという悪役は必須。だというのに……あなたはなぜ自分の役割を果たさないの?」


「…………」


「グレイアムになにをしたの? どうして彼があなたを好きなんていうの。彼は攻略対象よ? ……この世界をどうするつもり?」


 攻略対象とは、確かアリシアを好きな人を指していたはずだ。

 つまりグレイアムもそうなのに、どうして彼に付きまとうのだと言いたいらしい。

 アビゲイルが転生者であると思わせ続けるための返答はどうしたらいい……?


「……わかってるわ、アリシア。あなたがこの世界の主役。……私は、悪役、よね?」


「そうよ。……なのにあなたが調子に乗るから……!」


「し、しょうがないじゃない! 私だって……幸せになりたいって思うに決まってるじゃない!」


 もしアリシアやグレイアムの言うとおりの物語なら、アビゲイルの最後は不幸でなくてはならないのだ。

 少なくともアリシアはそれを望んでいる。

 けれどアビゲイルだって幸せになりたい。

 誰にも愛されないまま死ぬなんて、嫌に決まっている。

 だからこの言葉は心からのものだ。


「死ぬのがわかってて、回避しない人がどこにいるのよ!?」


「――…………確かに。……それもそうね」


 アビゲイルの心からの言葉が通じたのか、アリシアはふむと納得したように頷く。


「まあ? 私ももし、アビゲイルになんて転生してたら、さすがに生きるために行動するものね」


 うんうんと頷いたアリシアは、けれどと人差し指を立てた。


「でも、物語を変えるってのはいけないと思うの。だから取引しましょう」


「――取引?」


「そうよ! あなたは最後、殺されなければいいんでしょう? なら命だけは助けてあげるから、ストーリー通りにしてちょうだい」


 なんて名案と楽しげなアリシアを、アビゲイルは冷めた瞳で見つめた。

 命だけは?

 誰が好き好んで嫌われるだろうか?

 少なくともアリシアの言うストーリー通りなら、アビゲイルは嫌われ者の王女のままである。


「……わかったわ」


 アリシアがそれを望むなら。

 アビゲイルは悪役なんてやめてやる。

 嫌われ者の王女を望むなら、なにがなんでも愛される王女になってやろう。


「進めましょう。ストーリーを」


 アリシアの望まない形に。


 ――それが、アリシアへの復讐になるのだから……。

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