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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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ゲーム通りに

「なにかあったのか?」


「楽しいおしゃべりをしていただけよ」


 今回はうまく返すことができたなと、アビゲイルは胸を張る。

 なにかを言われて塞ぎ込む女の子はもういない。

 ちゃんと自分で対処ができるのだと思えば、アビゲイルの中の自信はグッと大きくなった。


「アリシアの取り巻きか」


 チャンがアビゲイルにあれこれ言ってくるのは今回が初めてではない。

 それこそグレイアムがいる場でも似たようなことをして、彼を激怒させていた。

 なのでチャンと、そしてアリシアとの剣呑な雰囲気を、グレイアムは理解している。


「あまりうるさいようならいろいろ手はある。――そもそも国の推薦で、学院が提示する試験を合格した人間を拒否する意味がわからない」


「そもそもその試験を受けられるのが贔屓なんですって」


「確かに試験を受けるのは狭き門だが、ないわけじゃない。ぐだぐだとうるさい奴らだ」


 グレイアムは大きくため息をつく。


「学院に入れたのはいいが、アリシアとはあまり接触できてないな」


「授業が同じだから、話したりできるかと思ったのだけれど……」


 ことごとくアリシアからは避けられている。

 アビゲイルたちも学院に慣れることを優先していたため、彼女への接触は最低限にしていたが……。


「ちなみにアリシアが避ける理由、グレイアムはわかる?」


「いや……? 俺を避けているわけではないことだけはわかっているが……」


「アリシアから接触があったの?」


「ああ。話したいことがあると言われたから、アビゲイルとも話すよう勧めたが断られた」


「……そう」


 グレイアムとは話をするのに、アビゲイルとは接触を拒む。

 やはりアビゲイルのことだけを拒絶しているようだ。

 どうしてなのかと考えたが、可能性は一つしか出てこなかった。


「……ちなみにアリシアと話はしたの?」


「いや。二人で話をしようと言われたが、こちらから話すことはないと断った。今思えば話に乗って、そこにアビゲイルを連れて行けばよかったな」


「いいえ。あなたが断ってくれてよかったわ」


「……嫉妬してるのか?」


「受けてたらね」


 アリシアはたぶん、まだグレイアムを諦めてないのだ。

 彼女がグレイアムを好きかどうかはわからないが、手放したくないとは思っているのだろう。

 だからこその執着を、アリシアは見せてくるのだ。


「……とにかく、まずはアリシアと接触してみて、ね」


「…………」


 グレイアムは考えるように顎に手を当てる。


「……パッとみた限りだが、攻略対象は揃っていた。つまりこの学院生活は、もうゲームが始まっていると言ってもいいだろう」


「げえむ……。グレイアムが言ってた、未来予知の物語よね?」


 アリシアが女神の生まれ変わりであり、その命を持って死の神を封印する。

 アビゲイルはそれを邪魔する存在であり、死の神に恋をしていた。

 そして最後はアリシアを守るものに倒され、その命を落とす。


「そうだ。アリシアが攻略対象と出会っているなら、物語は進んでいると思っていい。パッと見た限りは、俺がいないだけでゲーム通りだな……」


 つまり物語は進んだということだ。

 ――アビゲイルの命が散る、その先へ。


「……結局未来は、変わらないのかしら?」


 どれほど小さな変化をもたらそうが、大きな影響を及ぼすことはできないのかもしれない。

 アビゲイルは死から逃れることができないのだろうか?

 そんな不安が胸によぎる。


「アビゲイルが心変わりを起こさなければ未来は変わるさ」


「……起こさないわよ」


 不安そうなアビゲイルの表情を見たからか、グレイアムがおちゃらけたように口にした。

 その言葉に思わず笑ってしまう。


「けれど死の神なんて存在がいるのなら、摩訶不思議なことが起こってもおかしくないわよね? 例えば洗脳、とか。……魔法なんてもの、あったりするのかしら?」


「あるな。実際アリシアはゲーム中に、薬草の知恵と癒しの力で仲間の傷を治すからな」


「……癒しの、ちから」


 ふと己の手を見る。

 アリシアはどこまでいっても特別なのだなと、心のどこかが小さく痛む。

 羨む心は永遠に消えず、アビゲイルをゆっくりと蝕んでいく。

 綺麗で可愛くて優しくて……。

 愛されて生まれたお姫様。

 そんな彼女に、神はたくさんの祝福を与えたのだ。


「……アリシアを羨むなんて、身の程知らずよね」


 ぼそりとつぶやいた言葉に、グレイアムは小首を傾げる。


「アビゲイルがアリシアに劣っているところなんて一つもない。羨む必要もないし、身の程知らずなんてことはありえない」


「…………」


 いつもそうだ。

 アビゲイルが落ち込むたびに、グレイアムは慰めてくれる。

 その言葉が嘘偽りないことは、彼の態度ですぐにわかった。

 だからこそ、この心に響くのだ。


「ありがと。――さて、まずはアリシアと接触しなきゃ!」


 がんばる、と両手にグッと力を込める。


「ゲーム通りに進んでいることも、悪いことばかりじゃない。アリシアは昼を庭園で過ごすはずだ。攻略対象との絆を深めるイベントだ」


「ふうん? 昼に庭園に行けば会えるのね? ――じゃあ、作戦開始、ね」


 そう言って歩むアビゲイルの口ものは不敵に微笑んでいた。


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