表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/157

サイン

「さて、まずは婚約おめでとう。僕としては大変嬉しくないが、お祝い事ではあるので祝辞を述べておこう」


「ありがとうございます」


 しれっとヒューバートからすごいことを言われたのだが、同じくしれっと返事をしたグレイアムを横目で確認する。

 なんとなくヒューバートがどういう反応をするかわかっていたのか、特に気にした様子はない。


「今回の婚約、なかなかに大変だったんだぞ。ぜひとも褒めて欲しいくらいだ」


 そう言いながらアビゲイルをチラチラ見てくるヒューバートに、心の中で子どもか! とツッコミを入れる。

 もちろん表情には出さず、むしろヒューバートを讃えるため拍手を送った。


「さすがお兄様です。とっても感謝しております」


「――そうか! まあ、可愛い妹のためだ。兄としてこれくらいはな!」


 鼻を高くするヒューバートに少しだけ手を叩く音を大きくしつつ、アビゲイルは話の続きを諭した。


「それで、手続きというのはどのようなことを……?」


「ん? ああ、そういえばそうだったな!」


 自分が呼び出したのに、内容を忘れていたらしい。

 ヒューバートは慌ててごちゃついているテーブルの上を探し、中から書類を一枚取り出した。


「これだこれ! アビゲイル、ここにサインをしてくれ。グレイアムはこっちだ」


 渡された書類を確認すれば、それは学院への推薦状だった。

 きちんと国王のサインもしてあり、確かにこれなら断られることはないだろう。

 ちらりと横を見れば、グレイアムのほうにも似たようなサインがしてあった。


「それにしても急に学院に行きたいとは……なにかあったのか?」


「普通に学びたいと思っただけです。自分になにが向いてるかわかりませんが、フェンツェルとの件もありますから、学んで損はないでしょう?」


「……ふむ。まあ妹がやりたいことをやらせてあげるのが、いい兄というものだろう!」


 まさかアリシアと接触するためだとはいえない。

 なので勝手に納得してくれるなら、たいへん都合がいいと微笑みを返す。


「いいか? アビゲイル。学院というのは本来学びたいことを突き詰めるために行く場所だ。お前のようにやりたいことを探すものは少ないだろうが、だからといって卑屈になる必要はない。お前にはこの兄であり、偉大な国王、ヒューバートがついているのだからな!」


「ありがとうございます。お兄様」


 話半分で聞いていたアビゲイルは、まだ喋りそうなヒューバートを止めるため、話の内容を変えることにした。


「そういえばお兄様。――ピストルというものをご存知ですか?」


「……そうか。フェンツェルの国王と話したんだな?」


 先ほどまでの楽しそうな表情から一変。

 ヒューバートは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「知ってる。貴族たちが隠れて作っていた、最低最悪の兵器だ」


「貴族たちだけか?」


 サインを終えたグレイアムが顔を上げると、ヒューバートはアビゲイルから視線を逸らす。


「……いや。叔父が関与していた」


「――……叔父様、ですか」


 前国王、アビゲイルたちの父親には腹違いの弟がいた。

 王位継承件をかけて争ったらしいが、負けて王都を追われたはずだ。

 そんな人が関わっていたなんて……。


「そんな兵器を作ってるなんてバレたら、他国から攻められてもおかしくない。父上の代から秘密裏にされていたようだな」


「それが侯爵家の件で露見したと……?」


「国王の名の下全て押収したが、いくつか他国に流れてしまったらしい」


「どこの国かお分かりですか?」


 ヒューバートはこめかみあたりを二度ほどかく。


「……フェンツェルだけであってほしいと願ってるところだ」


 なるほど。

 つまり流出先を全てわかっているわけではないということだ。

 もちろん可能な限り調べたからこそ、フェンツェルに流れていると知れたのだろうが。

 もしあの武器が戦争推進国であるチャリオルトに流れでもしたら……。

 想像するだけでゾッとする。


「チャリオルト国との交友はどうなんですか?」


「チャリオルトの王は自信家でな。僕とは相性が悪い」


 ふりふりと手を振るヒューバートは、気分が悪そうにそう口にした。

 よほど嫌いなのだろう。

 なるほど同族嫌悪というやつかと、アビゲイルは眉を寄せた。


「チャリオルトと友好関係をきずければ、話は変わるのでは?」


「国同士とはいえ、国王も人間だ。簡単にはいかない」


「……そうですね」


 ヒューバートにやる気がないのなら、チャリオルトと友好関係をきずくのは難しいだろう。

 やはりここはフェンツェルとの取引を、迅速に進めるべきだ。


「フェンツェル国王陛下には手紙をお送りいたしました。友好に向けて進めていきましょう、と」


「そうか。必要なことはするが、やりとりはアビゲイルに一任する」


「わかりました。お任せください」


 元よりそのつもりだったので頷けば、ヒューバートは表情を軽くした。


「持つべきものはできる妹だな! 全く。アリシアもアビゲイルを見習うべきだ!」


「……そういえば、アリシアはどうしているんですか?」


「さあな。学院で有名貴族と親しくしているとだけ聞いている。あれは結婚してここを出ていくことしか考えてないからな」


「……そうなんですね。学院で会えるのが楽しみです」


 彼女のために行くのだから、今から会えるのが本当に楽しみだ。

 そういって微笑むアビゲイルの瞳は、やはり鈍く光っていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヒューバートって、正直政治に関しちゃ結構自分のできる範囲で頑張ってるなぁという印象。 出来る人に仕事を回す、王族で仕事を分担するってのはまぁ仲のいい兄弟なら普通にあることだし。女癖と迷信に関しては色々…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ