表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/157

こない日

「――あ、あなた……っ。れ、おん、なの?」


「…………ああ。そうだ」


「っ――! ……ああ、やっと……」


 カミラは立ち上がるとフラフラと足取りがおぼつかない様子で、しかし確実にレオンの元へと向かう。

 まるで助けを求めるように手を伸ばし、カミラの白く美しい指がレオンの頰に優しく触れる。


「……ああっ! 私の愛しい子! 本当に、お前なのね……?」


 そこにいることを確かめるように、なんども傷一つない指先が頬を撫でる。

 カミラはその間もじっと、レオンを見つめ続けた。


「……その目、あの人にそっくりだわ」


「…………」


「鼻と口は私に似てるわ。生まれた時と変わらない……」


 カミラは感極まったのか、ポロポロと涙をこぼしながらゆっくりと両手を伸ばし、レオンに抱きつこうとした。

 だがしかし、それをレオン自身が避けることで止める。


「やめてくれ。俺は姉ちゃんの願いでここにいるだけで、あんたを母親だなんて思っちゃいない」


「――」


 ひゅっと音を立ててカミラが喉を鳴らす。

 傷ついたのだろう。

 カミラは一歩二歩と後ろに下がる。


「俺にとって、あんたは無だ。生まれたときからいないものだった。……それを今更母と思えなんて、虫がよすぎるだろう」


「…………そ、そう、ね……。そう、よね」

 

 カミラはたまらないと近くのソファへと、倒れ込むように腰を下ろした。

 顔を覆いなにも見たくないと言いたげなカミラに、しかしレオンは続ける。


「ここにきたのも姉ちゃんのためだ。姉ちゃんがあんたが探してるって……俺を、見つけてくれたから」


「…………アビゲイルのこと、その……慕ってるのね」


「半分は血の繋がった姉弟だからな。それに俺を探し出して助けてくれたんだ。慕わないわけがないだろ」


 レオンは言葉に感情を込めることなく、淡々と続ける。


「姉ちゃんの願いだからここにいる。……それ以上を求めないでくれ」


「………………姉と、呼ぶのね。私のことはあんた、なのに」


「そんなあんたは実の娘を化け物呼ばわりだ」


 レオンの声に怒気がこもり、黙って聞いていたアビゲイルですら驚いてしまう。

 優しい子だとわかってはいたが、まさか自分のことではなく、アビゲイルのために感情を露わにするとは思わなかった。


「姉ちゃんから話は聞いてたが、まさかあんなこというなんて思わなかった。……実の親だからこそ、信じられなかったし……恥ずかしい」


「…………」


 カミラの顔はもう、青を通り越して紙のように白くなっていた。

 レオンの好きなようにとは言ったけれど、さすがにこれ以上はかわいそうかと口を開く。

 それにレオン自身のことなら望むままやらせるつもりだったが、今彼が怒っているのはアビゲイルのためだ。

 なら止めるのもアビゲイルの仕事だろう。


「レオン。ありがとう。もういいわ」


「――でもっ! 姉ちゃんのこと……実の娘なのに化け物って……」


「私は大丈夫よ。……思ったよりもダメージを受けてないの。――きっと、あなたたちがいるからね」


 幼いころのアビゲイルにとっては、母という存在は大きかった。

 無意識に求める対象が母であったからか、彼女から拒絶されるというのは、世界に拒絶されるに等しい。

 しかし今は違う。

 今のアビゲイルの世界には、グレイアムやレオン。

 エイベルやララ、リリといった公爵家の人たちもいる。

 彼らから愛されているという自覚があるだけで、アビゲイルの心は何倍も強くなれるのだ。


「お母様。レオンはこう言ってますが、実際はギリギリまでお母様との関係を悩んでいました」


「――姉ちゃん!」


「事実でしょう」


 カミラのことを気にしていないなら、アビゲイルにどうすればいいかなんて聞いてこないはずだ。

 レオンはなんだかんだ言いながら、カミラにどう接していいか悩んでいた。

 だがカミラのアビゲイルへの態度で、レオンの中で拒絶という最悪なほうに向かってしまったのだ。


「……全てはお母様次第です」


「…………わ、たし?」


「お母様。どうぞよき母になってください。……あなたのレオンが誇れるような存在に」


 カミラはぱっと顔を上げる。

 その瞳に希望を持って。

 だからアビゲイルはその瞳に応えるように微笑んであげた。

 準備はできたと、いうように。


「お母様が母として愛を持って接すれば、レオンはお母様のことを認めるかもしれません。それまではこうやって、公爵家に通えばいいのです。――レオンは公爵家で預かりますので」


「……そう。ここで面倒を見てくれる、のね?」


「もちろんです。この私が責任を持って、レオンを見ていますから、ご安心ください」


 カミラはなにも言わず顔をレオンへと向けた。

 視線を向けられたレオンは眉間に皺を寄せ、顔を背けようとした。

 しかしその前にアビゲイルと目が合う。

 アビゲイルはなにも言わず、小さく頷く。

 ここは従うように、と。

 レオンは渋々といった様子だが、カミラと向き合った。


「……あんたが姉ちゃんにちゃんと謝罪して、誠意を持つってんなら…………。考えてやらないこともない」


 最後のぼそりとつぶやかれた言葉は、ちゃんとカミラに届いたらしい。

 彼女は瞳からポロポロと涙をこぼしつつ、何度も何度も頷いた。


「ええ、ええっ。かならず、必ずあなたが誇れる母となりましょう」


「……俺だけじゃねぇ。姉ちゃんにもだ」


「もちろんです。アビゲイル。私はあなたに許してもらえるよう、努力するわ……っ!」


 アビゲイルは微笑む。

 優しく、穏やかに。

 涙を拭うカミラを見ながら。


 ――そんな日は、未来永劫こないというのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ