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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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再会

「立ち話もなんですので、中へどうぞ」


「――ええ」


 馬車から降りてきたカミラは、顔の下半分を扇で隠しながらグレイアムの提案に頷いた。

 カミラを案内するため、アビゲイルとグレイアムは彼女の先を歩く。


「…………」


 コツコツと靴の音が廊下に響く。

 静まり返った廊下を歩く三人の後ろには、カミラの護衛がいる。

 彼らのことはどうするのだろうかとチラリと後ろを見れば、カミラと目が合い勢いよく逸らされた。


(――確かに挙動不審ね)


 アビゲイルがチラリと見れば、またしても目が合う。

 つまりカミラもアビゲイルを気にしているということだ。

 レオンの件を聞きたいのだろうが、人がいる手前難しいのだろう。

 ちらちらとアビゲイルを見続けたカミラは、案内された部屋の前で護衛たちに声をかける。


「あなたたちは扉の前で待ちなさい」


「――ですが!」


「ここは公爵家です。我が国の公爵が、私に危害を加えると?」


「いえ、そのようなことは!」


「何かあったら声をかけます。警戒は怠らぬよう」


「かしこまりました!」


 護衛たちを扉の前に残して、アビゲイル、グレイアム、そしてカミラは部屋の中へ入った。

 すぐにソファに座ったカミラは、アビゲイルが腰を下ろしたと同時に口を開く。


「あの子はどこ!?」


「お母様。落ち着いてください」


「落ち着け!? 落ち着けるわけないでしょう!? 私があの子に会いたくて……。どれほど待ったと思ってるの!?」


 カミラの気持ちもわかるけれど、怒鳴るように言ってきた彼女を真正面から見つめた。

 愛しい子どもであるレオンに、どれほど会いたかったことか。

 感極まり泣きそうになっているカミラの顔が、アビゲイルにはブレて見えるのだ。

 まるでなにかが被っているかのように。

 それは幻影だった。

 ありえないはずの景色が見えて、アビゲイルは瞳を細めた。

 どうしてもカミラの今の姿に、アビゲイルは幼い日の自分を重ねてしまう。

 母に会いたくて泣いた子ども。


(……羨ましいわね)


 アビゲイルはどれだけ渇望しても、母に会えなかったというのに。

 カミラは願えば会えるのだ。

 この世はなんて不平等なのだろうか?

 だが、だからこそ復讐しなくてはならないのだ。


「お母様はレオンのこと、知りたくはないのですか? あの子がどこでなにをしていたか」


「――そんなことよりまず先に顔を」


「レオンにも、覚悟が必要なんです。お母様の都合ばかり優先できません」


 アビゲイルが嗜めるように言えば、カミラの顔がカッと赤らんだ。

 馬鹿にされたと思ったのだろう。

 表情が怒りに染まる。


「アビゲイル――! 調子に乗るんじゃないわよ。この忌々しい、禁忌の子がっ!」


「その禁忌の子に頼らねば、あなたの愛しい子どもに会えなかったということをご理解ください」


「……おまえっ!」


「失礼。それ以上騒げば外の護衛がやってきて、面倒なことになるかと思いますが?」


「…………っ」


 まさかの外の護衛が役立つとは思わなかった。

 カミラは強く唇を噛み締めながら黙り込んだ。

 レオンのことを他に知られるわけにはいかないはず。

 だからこそ、どれほどアビゲイルへの恨みつらみを心の中に秘めようとも、それ以上は口にできないのだ。

 しばしの沈黙ののち、カミラが一旦落ち着いた頃合いを見計らい口を開いた。


「レオンは名前を変えてフェンツェルにいました」


「……無事なのね?」


「一応は」


 正直危ないところではあった。

 あの時アビゲイルとレオンが出会っていなければ、シリルによってこの世から消されていたかもしれない。

 もちろんそれを言うつもりはないが、アビゲイルの言葉にカミラの顔がサッと青ざめた。


「……け、怪我とか、は……?」


「怪我は負いましたけれど、命に別条はありません」


「…………命に、別条?」


「今は元気に動けてます」


「今はってことは、前までは動けないほどの大怪我を……?」


 一応動けてはいたが、大怪我ではあったなと頷くアビゲイルを見たカミラは、己の顔を手で覆う。


「なんてこと……! あの子がそんな危ない目に遭っていたなんてて……!」


 嘆くカミラは、しかしすぐにアビゲイルへと責めるような視線を向けた。


「……お前があの子になにかしたんじゃないでしょうね?」


「…………なにかとは?」


「お前はいつも私を、恨めしい目で見ていたわ。だから私への恨みをあの子で晴らそうと――」


「なるほど大した母親だ。小さなアビゲイルが母にそんな視線を向けていたことに気づいていながら、無視していたのか」


 とんでもない言いがかりをされかけたアビゲイルを救うように、グレイアムが口を開いた。

 その言葉を聞いたカミラは、またしても怒りにカッと熱を上げる。


「お前になにがわかるの!? 私がこの化け物を産んだせいでどんな思いをしたと――」


「もういい」


 カミラの怒鳴り声をかき消して、部屋のドアが開かれた。

 そこにいたのはレオンであり、部屋に入ると扉を閉める。


「……はじめまして。俺があんたが探してたっていう、レオンだ」


 そう言うレオンはひどく冷たい顔をしていて、カミラとは対照的な表情に、このあとの波乱を確信した。

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