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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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話を聞いて

 エイベルの予想通り、手紙を受けとったであろうヒューバートは、片手に封筒を持ったまま急ぎやってきた。


「アビゲイル! 無事戻ってきたんだな……!」


「お兄様。ただいま戻りました。ご心配をおかけしたようで……」


「妹の心配をするのは当たり前だろう――!」


 ヒューバートは両手を広げ声高らかに告げると、そのままアビゲイルをきつく抱きしめる。

 アビゲイルはそれを清く受け入れたが、しかしあまりの力強さに思わず小さく悲鳴が上がった。


「よりにもよってフェンツェルに向かったなんて……! 僕がどれだけ心配したことか!」


「あ、ありがとうございます。お兄様」


 苦しい。

 ヒューバートの力が強すぎてアビゲイルが苦しんでいると、それに気づいたグレイアムが声をかける。


「アビゲイルもいろいろ話したいことがあるだろう。エイベル、お茶の用意を」


「かしこまりました」


「それもそうだな。さすが我が友だ! ああ、軽食を用意してくれるか? 空腹でな」


「かしこまりました。腕によりをかけて作らせていただきます」


 偉そうなヒューバートの腕から逃れたアビゲイルは、じとっとした視線を彼に向けた。

 さすがのエイベルは表情一つ変えずに対応していたが、そばで話を聞いていたレオンは眉間に皺を寄せている。

 これはまた、後日エイベルから厳しい指導が入るだろうなと、レオンに憐れみの視線を向けた。

 ヒューバートがソファに腰を下ろしたのを確認し、グレイアムと共に彼の前に座った。


「それにしてもなぜ急にフェンツェルに? あの国とは関係も悪化していて、危ないと思ったんだが……?」


「なぜ悪化しているか、お兄様は知ってるのよね?」


「――まあ、さすがにな。国自体の考えかたが違いすぎるんだ。あの国は赤が神の色だったり、女性が自由だったり、いろいろ我が国とは違いすぎるんだ」


 グレイアム曰く、エレンディーレは保守的。

 フェンツェルは進歩的らしい。

 ヒューバートの言葉通りなら、グレイアムの考えは間違いではないようだ。


「たびたび衝突はしていたようだが、先代の国王たちの代でかなり悪化したんだ。今は両国とも国王も変わり、自国で手いっぱいだから悪化もしていないが……」


 ヒューバートは腕を組むと、考えるように眉を寄せた。

 彼なりにいろいろ考えてはいるようだ。

 これならオルフェウスとの取引も、うまく進められるかもしれない。


「さらにはチャリオルトの件もあるからな……」


 僕は忙しいんだと愚痴るヒューバートに、アビゲイルは瞳を細くした。


「チャリオルトが戦争を仕掛けてくるかもしれないとの噂を聞きました。事実なのですが……?」


「――どこで聞いた?」


 ヒューバートの目の色が変わる。


「フェンツェルで国王陛下にお会いしたんです」


「国王に? ……なぜ?」


 アビゲイルは用意された紅茶を口に含み、ふと息をつく。

 ここから先は、言葉の取捨選択を上手くしていかなくてはならない。

 最低限の言葉で、ヒューバートを納得させつつ上手く動かさなくては。

 アビゲイルは思考をフル回転させた。


「身元保証人になってくださった、フェンツェル侯爵のパーティーで会いました。そこでお話をいたしまして……」


「…………なるほど。そこでチャリオルトとの戦争の話を聞いたと?」


「正確にはチャリオルトが現在、ミュンエルに侵攻中であるということ。多分勝つであろうこと。そして次の狙いはエレンディーレかフェンツェルであること」


「…………忌々しい国だ」


 顔を歪ませたヒューバートは、親指の爪をギリっと噛んだ。


「こっちは即位したばかりで、自国の貴族たちの顔色を伺わなくてはならないというのに……! それに加えて他国から侵略されたなんてことになれば、僕の名前に傷がつく!」


「……お兄様は戦争はしたくないとお考えですか?」


「当たり前だ。そんな面倒なこと、やりたくないと思うのが普通だろう」


 まあ理由はどうであれ、戦争を回避したいという思いは同じなようだ。

 彼にその意思があるのなら話は早いかと、アビゲイルは居住まいを正した。


「なら、私の考えを聞いていただけますか?」


「…………」


 少なくとも今までのヒューバートなら、アビゲイルの話を聞こうなんてしなかっただろう。

 だが今ならきっと――。


「確かに僕はアビゲイルを愛しい妹だと思っている。……だが政治は話が違う。お前は政治に関しては無知だろう。口を出してくるな」


 期待半分だったが、やはりそうなるかと瞼を閉じた。

 ヒューバートの表情からして、拒絶される可能性は高かったから覚悟はしていた。

 だがしかし、口を出してくるなと言われると若干ムカっとしてしまった。

 どうやら離れていた時間が、ヒューバートを少しだけ正常な思考に戻してしまったらしい。

 これはいけないなと、アビゲイルはゆっくりと瞼を上げた。

 また彼を堕とさなくては。


 ――甘い甘い、蜜の底へ。


「私の話を聞いていただければ、お兄様の憂いを晴らせるかと思います。お兄様は身をもってご存知でしょう? 私がお兄様をいかに助けてきたかを……」


 ヒューバートは片眉を上げ、考えるように顎に手を当てた。


「…………自信はあるのか?」


「お兄様」


 アビゲイルは瞳に力を入れる。

 赤い瞳が、また鈍く光出す。

 その瞳を見たヒューバートの表情が変わる。


「私を、信じられませんか?」


「――そ、そんなことはない! アビゲイルのことは信頼しているさ」


 慌てるヒューバートに、アビゲイルは畳み掛けるように言葉を紡ぐ。


「なら、まずは話を聞いてくださいますか?」


 にっこりと微笑んだアビゲイルに、ヒューバートはなんども頷いた。

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