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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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ギブアンドテイク

「あなたには、エレンディーレを裏から変えて欲しいのです」


「――裏、ねぇ」


「あなたが国王になってくれたら、話は早いんですけれど……」


「絶対に嫌よ」


 アビゲイルの中に、自分が国王になるなんて考えはない。

 そんな表だった立場、ごめん被ると首を振る。


「ならあなたには、やはり国王を裏で操る立場になっていただきたいのです」


「……そんな簡単な話じゃないと思うのだけれど」


「そうでしょうか? ヒューバート国王は、あなたに夢中のようですが?」


「――気持ち悪いからやめてちょうだい」


 言葉にされるとキツいものがある。

 思わず鳥肌の立った二の腕をさすった。


「シリルから面白いお話を聞きました。――復讐をされてるとか。それも奇妙奇天烈な」


 シリルをチラリと見れば、彼はそっと瞳を閉じた。

 逃げたな……と睨みつつも、アビゲイルははぁ、と息をつく。


「あなたの話を受けることの、私のメリットはなに?」


 オルフェウスの言いたいことは理解した。

 なら次はそれを受けることのアビゲイル側の利益の話だ。


「私ばかりがあなたの願いを叶えるわけじゃないわよね?」


「……わたしにできることはただ一つ。あなたへの援助です」


「援助……? たとえばどんな?」


「もちろんフェンツェルとして、ではありません。わたし個人として。そしてシリルも、あなたへ尽力させることを誓います」


 オルフェウス個人とはいえ、彼は国王だ。

 普通の人と違い、できることは多いだろう。

 さらにはシリルも力を貸してくれるというのは、ありがたい話だ。

 彼もまた、フェンツェルでは顔がきく。

 特に裏のことには。

 都合よく使えるのなら、ありがたいことではあるが……。


「復讐のためにはさまざまなものが入り用でしょう? お助けいたします」


「…………」


 確かにその通りだ。

 アビゲイルの身の回りは、全てグレイアムから与えられたものだらけだ。

 洋服から食事まで、全て彼からの施しでどうにかなっている。

 それをなんど悔しいと思ったことか。

 与えられるばかりは嫌だと、確かにそう思った。


 ――それを変えることができる。


 オルフェウスの手をとれば、少なくとも施されるばかりではなくなる。


「……あくまで戦争を回避するためよね?」


「ええ、そうです」


「そのために、私にヒューバートを操れと」


「操れ、とは言葉が悪かったですね。導いてください。エレンディーレの若き王が、正しき道を進めるように」


「………………」


 物は言いようだなと思いつつも、アビゲイルの心は決まった。

 オルフェウスの言うことを信用できるかは、これからの彼を見ればいいことだ。

 今はアビゲイルがどう思うか。

 そしてどうしたいかだけだ。


「……いいわ。あなたのその案、のるわ」


「それは……本当にありがたいです」


 人のよさそうな笑みを浮かべながら、心の底から楽しそうに口を開いたオルフェウスに、アビゲイルは早まったかと疑った。

 ただのいい人を装いながらも、オルフェウスは水面下であれこれ画策している。

 一国の王としては正しい姿だとは思うが、人としてはどうなのだと疑いの目を向けた。


「私……あなたを信用できる気がしないのだけれど?」


「――そんなことを言われたのは初めてです」


「そうなの? うまく隠せてるのね」


「…………」


 なにやらオルフェウスは考え込むように顎に手を当てる。


「なるほど。あなたの前だと少し気が抜けてしまうようですね。気をつけます」


 別に気をつける必要はないのだが、オルフェウスは表情に力を入れた。

 さらに人好きのする笑みを浮かべたかと思えば、オルフェウスはシリルへと目配せする。


「話に聞いたところによれば、公爵に世話になっている状況に思うところがあるようですね」


 アビゲイルは思わず、カバンを持ってきたシリルを睨みつけた。

 一体どこまで察し、どこまでオルフェウスに話したのか。

 彼にはいろいろバレていると思っていたほうがよさそうだとため息をついた時、アビゲイルの前にカバンが置かれた。


「……なに、これ?」


「前金というやつです」


「前金?」


 パカっとかばんの口を開けたシリルは、中身を見やすいように斜めにしてくれた。

 するとなんということだろうか。

 アビゲイルの瞳にぎっしりと詰まったお金が映った。


「――…………」


「これだけあれば、エレンディーレで一人暮らししたとしても数年はやっていけると思いますが……。いかがでしょうか?」


「い、いかがって…………!」


 王女であるアビゲイルなら、年間これくらいもらっていてもおかしくはないのかもしれない。

 だが残念ながらアビゲイルの手元にお金というものはなく、だからこそ今目の前にあるものがものすごく欲しかった。


「エレンディーレとの友好、おまかせしてもよろしいでしょうか?」


「……っ」


 アビゲイルはお金をじっと見つめた後、いそいそとかばんの口を塞ぎ自らの横に置く。

 それからオルフェウスへと手を差し出すと、こくりと頷いた。


「契約成立よ。私はヒューバートを上手いこと転がすから、あなたは私の復讐に手を貸してちょうだい」


「もちろんです。持ちつ持たれつでやっていきましょう」


 アビゲイルからの握手に、オルフェウスは快く応じたのだった。

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