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【完結】禁忌の赤目と嫌われた悪役王女様は奇妙な復讐をはじめました。  作者: あまNatu


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賭ける

「……神に、なんですか?」


 聞き間違えだろうかと聞き返せば、オルフェウスは笑顔のまま頷いた。


「実はこっそり、会場の様子を見させていただいていたんです。エレンディーレとは違い、我が国でのあなたのありかたは違う。そう感じませんでしたか?」


「…………」


 ありかたかと、アビゲイルは視線を下げた。

 神に祝福云々と言われた時は、なにを言っているのだと驚いたが、確かにこの国ではそうかと納得してしまう。

 パーティー会場に入った時から、人々はアビゲイルに羨望の眼差しを向けた。

 この赤い瞳を周りに向ければ、彼らは嬉しそうに微笑む。

 そんなこと、初めての体験だった。

 国が違えば常識が変わる。

 この国では赤は神の色であり、祝福される色であり、望まれる色であった。


「エレンディーレではつらい思いをされていたとか。……とても残念です。あなたは我が国でなら、そんな思いをしないで済むというのに」


「……なにが言いたいでしょうか?」


 先ほどから執拗にエレンディーレを下げているが、一体なにがしたいのだろうか?

 アビゲイルをどうしたいのかと、オルフェウスの顔を見つめるが、彼はその表情を一切変えない。


「言葉のままです。――美しい赤い瞳だ。しかし考えの凝り固まったエレンディーレは、あなたは生きづらかったはずだ。……違いますか?」


 その通り過ぎてなにも言えないなと、アビゲイルはため息をついた。

 死の神の色が赤だから赤を嫌う。

 まあそこまでならいいだろう。

 だがその赤を持っている人間を迫害し、人を人とも思わないというのはいただけない。

 そういう意味では、確かにエレンディーレの国民は頭の固いものたちばかりなのだろう。


「我が国では赤は神の色であり、王族の色です」


 確かに、オルフェウスの着ている白いジャケットには赤いブローチのようなものがついていた。

 一番目立つ位置に。

 他にも身につける装飾品は全て赤く、彼を輝かせる色は赤だった。

 少なくともエレンディーレではあり得ないことだ。


「そのような神聖な色を、こんなに美しくその身に持つあなたを、わたしは他人とは思えなかったのです」


 優しい声。

 優しい笑顔。

 そんな顔で見つめられては、心が絆されてしまってもおかしくない。

 それくらいオルフェウスから放たれるオーラは、穏やかで優しい。


「だからこそ提案します。アビゲイル。――わたしと結婚しませんか?」


「…………は?」


 思わず出てしまった声は、静まり返った部屋の中に響いた。

 一体彼はなにを言っているのだろうか?

 わけがわからないと言いたげなアビゲイルを無視して、オルフェウスは話を続けた。


「王族は本来、その身に赤い色を授かります。しかし近年王族は始祖の血が薄くなり、わたしのように赤系統の色をもつものしか生まれなくなったのです」


 確かにオルフェウスの瞳はオレンジ色だ。

 赤系統ではあるけれど、赤色だとは言えないだろう。

 その話を聞いてなるほどなと、アビゲイルはすぐに理解できた。

 オルフェウスは、お互い利害が一致した結婚をしようと言っているのだ。

 アビゲイルは健やかに過ごせる場所を、オルフェウスは王族として好ましい特徴を持った妃を。

 どちらも望むものが手に入るのなら、確かにいい条件なのかもしれない。


「ですのであなたと結婚することで、国民たちからの支持も集めやすくなる。さらには子どもがその赤を受け継げば、この国は――」


「お断りします」


 確かに昔のアビゲイルだったら、喜んで頷いていただろう。

 それくらい、母国であるエレンディーレが嫌いだった。

 当たり前だ。

 なに一ついい思い出がないのだから。

 けれど今は違う。

 あそこには公爵家がある。

 アビゲイルが唯一落ち着ける、己の居場所が。


「私は――あの国にいなくてはならないのです」


 それにまだ終わっていないのだ。

 国民も、王族も、全てを巻き込んだ復讐が。


「陛下。確かにエレンディーレは頭の固いものたちばかりです。私も生きづらい場所です。……だからこそ、変えなくてはならないのです」


 エレンディーレで赤を持つものは少ない。

 けれどいないわけではないのだ。

 その人たちはきっと、アビゲイルと同じような経験をしているのだろう。


 ――ただ赤色を持って生まれたというだけで。


 国の認識を変えなくてはならない。

 彼らのしていることは間違っていると、教えなくてはならないのだ。

 それができるのは、赤を持ち王族として生まれたアビゲイルだけだろう。

 力強い意志を持ち告げたアビゲイルに、しかしオルフェウスは表情を変えない。


「国を変えると? 国中の人間から嫌われている王女が?」


「そうです。――それが、私の復讐だから……」


 嫌われてていい。

 だからこそ復讐してやるのだ。

 忌み嫌う女の言葉に耳を傾け、時には悩み、従う。

 とるに足らない女の言葉に右往左往する様を見るのだ。

 アビゲイルのその言葉を聞いたオルフェウスは、そこではじめて表情を笑顔以外のものに変えた。


「できるのですか? あなたにエレンディーレを変えることが」


「やります。――私にしかできないことですから」


 キッパリと言い切ったアビゲイルに、オルフェウスはまたしても笑顔になった。

 先ほどまでの人好きのするものとは違う。

 まるで心の底から楽しいと言いたげな表情だ。


「その言葉を待ってました。――どうやらわたしの賭けは成功したようです」

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